暇です・・・
「アリシア様、1ヶ月は絶対安静です!」
「そうだよアリシア、訓練なんて許さないよ!?」
「僕たちなら大丈夫です。アリシア様は、休憩を取るのがお仕事です」
リリアナが、いつになく恐ろしい形相で。
アルベルトは、氷の彫刻のように美しい笑みで。
ユーリは、うるうると涙を滲ませながら。
三者三様、私をベッドに押し戻す。
……どうしてこうなった!?
***
――ハッ!?
目を覚ました私――アリシアは、一生の不覚と絶望した。
どうやらここは魔王城の救護室。戦地で意識を失い運び込まれるなど言語道断。
幸い、戦いは勝利を収めたらしいが、あり得ない大失態に私は穴があったら入りたい気持ちだった。
幸い傍には、忠臣、リリアナの姿。
彼女なら、きっと私と同じ気持ちだろう。そんな訳で、
「明日から、訓練に戻ります!」
私は、キッパリと宣言。
「!?」
「なまっていたのかもしれません。明日からは、訓練量を10倍、いいえ100倍に! まずは1週間は不眠不休で動ける体力を手に入れないとですね!」
「――魔王様! アリシア様がヤバイこと言い出しました!?」
リリアナはあんぐりと口を開けると、即座にアルベルトを呼びに走り出し――
……あれ?
と思う間もなく、ドタバタとアルベルト、何故かユーリまで引き連れてリリアナが戻ってきた。
で、冒頭に戻る。
どうも私は、戦いから実に数週間もの間、眠り続けていたらしい。
激闘続きで、体が休息を求めていたのだろう。
ダイモーンまでの全力疾走に、ディートリンデの戦い、ブリリアントでは結界解除に、イルミナの毒――たしかに、ちょ~っと無茶をしたかもしれないけど。
それだけ馬鹿みたいに眠り続けたなら、もう休憩は十分ではないだろうか?
「大丈夫ですって! ほら、リリアナ? 私、昔から体だけは大丈夫でしたよね!?」
「アリシア様? 聖女チートで、無理矢理どうにかしていたのは大丈夫とは言いません!」
どたばたと、リリアナとやり取りしていると、
「アリシアは、いつもこうなの?」
アルベルトは、ちょっぴり呆れたような顔を見せた。
最初に見せた動揺はすっかり押し隠し、いつものように飄々とした笑みを浮かべている。
ここに居ると、やっぱり落ち着くな――
そう感じるのも不思議だったけど、心は嘘を付かない。
私が、ぽけーっと2人のやり取りを眺めていると、ぱちりとアルベルトと視線が合ってしまった。
「~~!?」
やっぱり、どうにも落ち着かない。
変な病気だろうか?
「アリシア、本当に無事で良かったよ。君に何かあったらボクは――」
「私は死にませんよ。王国を滅ぼすその時までは」
冷静さを取り繕う。
いつもと同じような案じる声が、何故かくすぐったかった。
私はつとめて、軽い口調で言い返す。
同時に、私はこの生き方を変えられないと思う。
たとえあそこで死んでも、きっと後悔はしなかっただろう。
同時に、アルベルトが死んでしまったらと想像したときの、胸を裂くような絶望も鮮明に思い出せる。
なんて私は、身勝手なのだろう。
「アルベルト、皆さんは無事でしたか?」
「戦争で犠牲者が出るのは仕方ない。だけど結界が解除されたおかげで、ブリリアントを落とせたんだ。被害も最小限で済んだと思う――アリシア、お手柄だよ」
「そう、ですか……」
おとり部隊に加勢できたら、また状況は変わっていたのだろうか。
浮かない気持ちで、そう頷きつつ、
「私、この戦い方はやめませんからね。同じことがあれば――きっと同じことをしてしまいます」
嘘は付けない。そう告げる。
私にとって、あの場面で、そう行動する以外は考えられなかった。
復讐――戦争の果てにある者を、私は未だに渇望している。同時に、戦争を終わらせるため、一緒に戦った仲間を生かすため。
結局、捨てたつもりでも、そんな生き方は私に染み付いていたのだろう。
予想通りというか、アルベルトは静かに目を閉じていたが、
「やっぱりアリシアは、アリシアだね。本当に――美しい生き方だよ」
「え?」
しみじみとこっ恥ずかしいことを言い切るアルベルト。
「アリシア、無茶はしないでって言っても――無駄だよね……」
苦笑するアルベルトは、随分と私のことが分かってきたように見える。
私が、誤魔化すように笑おうとして――ふと……、
「もし無茶して、大変なことになっても――アルベルトなら守ってくれますよね?」
いたずらっぽく。
半分以上は冗談で。
私が、そう笑いかけると――
「守るよ。何を捨てても」
あまりにも真剣な答え。
真面目な顔で見つめられ、私はついつい顔を背ける。
また、変なことを意識してしまった。
私とアルベルトは、ただの同盟関係で、ただのパートナーで、良いライバル関係で――ああ、どれもこれも、イルミナが変なことを言ったせいだ。
よし、次に会ったらぶった斬ろう。
「アリシア様、どうやったら休んでくれますかね?」
「ワーカホリックなんですよ、アリシア様……」
一方、ど失礼なささやきを交わすのはユーリとリリアナ。
救護室の中は、今日も平和だった。





