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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
13章 ブリリアントの要塞都市の戦い
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vsイルミナ(3)

 イルミナの張った罠。

 戦況を覆すため、私は朦朧とする意識を繋ぎ止めて結界の解除にあたっていた。



 背後では、イルミナとアルベルトの戦闘が始まっている。

 私だけが、こんなところで眠っている訳にはいかない。



 強い意思で、私は結界に魔力を流し込み続けた。

 魔方陣の術式を解析し、あらゆる魔力を叩きつける結界を機能不全に追い込んでいく。実際に、結界の解除にあたっていた時間は、わずかなものだった。けれどもそれは、永遠にも感じられる孤独な戦いだった。



 そうして結界を解除した私が見たのは、後ろ手に拘束されているアルベルトと、見たこともない魔法で心臓に向かって手を伸ばしているイルミナの姿で――




 その光景を見て、私は、頭が真っ白になった。

 アルベルトが死にかけている。


 どうして?

 戦闘では、圧倒していたはずなのに。


「――ああぁぁぁあああ!」


 声が漏れる。

 何も考えられなかった。ただ反射的に、武器を握った。己の体調も、戦争のことも何もかもを忘れて、まるで本能に突き動かされるように。




「ッ!」


 私の決死の特攻に、イルミナは意表を突かれたらしい。

 アルベルトにかけていた術を解除してバックステップで下がり、警戒した様子で私を睨みつける。



「死にぞこないが、しつこいですわよ」

「……決着を、付けましょう」


 息も絶え絶えだったが、別に長期戦は必要ない。

 ただ目の前の敵を倒せれば、それで良い。



 王国民を皆殺しにして、自分も逝こうと思っていた。

 少しだけ大切なものを見つけて、戦地では魔族と手を取って。また大切なものを失って生き延びるぐらいなら、この命は惜しくはない。

 死より恐ろしいことを、私は色々と知っているのだから。




『ロスト・ヘブン!』


 その痛みは、決して癒えない。

 私は、いつまでもこの道を往こう。


 あたり一面が、真っ白に染まっていく。

 そんな不気味な光景の中、真っ赤な月は上空で煌く。



 血を浴びせよ、と。

 黒い炎が、私に囁きかけてくる。

 体が限界でも、精神だけは決して折れない。



「何なのよ、何なのよあなた――!」

「あはっ、覚悟はできた?」


 目指すは短期決戦。

 私は、ただ愚直に、真っ直ぐイルミナに飛びかかる。



 実際、私とイルミナの戦力は互角だった。

 毒の影響で、私の体調も最悪だった。だけどもイルミナも、アルベルトとの戦闘で手酷くやられていたし、最後に使った魔法で、かなりの魔力を消耗している。


 こうなってしまえば、戦いは精神のぶつかり合い。


「はあっ!」

「このっ、死にぞこないがしつこいですわ!」


 スピードを活かして、私はイルミナに果敢に斬りかかる。

 

 

 何度も蘇生したことが、ボロボロになったイルミナから見て取れる。

 アルベルトは、純粋な破壊力で、イルミナが復活するたびに致死ダメージを与えて、相手を戦闘不能に追いやろうとしたのだ。相手の魔力が尽きるまで、相手の心が折れるまで殺し続ける――効果的な手だと思う。

 私でも、こんな状況でなければ、確実に勝つためにその戦法を取っただろう。



 今の私に、そのような余力はない。

 ならば一か八か、目指すべきは短期決戦。相手の得意とするカウンター魔法そのものを破壊するのだ。



 何度目か分からない斬撃が、イルミナを深々と貫いた。


「無駄、ですわ!」

「あはっ、それはどうかしら?」


 私は、ある場所を鎌で切った。

 注意深く見なければ分からない魔方陣。巧妙な隠蔽が施された恐ろしく精緻なそれは、パキンと小さな音を立てて砕け散った。


 死をトリガーとするイルミナの魔法。

 残っていれば無限に蘇生する凶悪な魔法は、たしかに破壊できる理論に基づく魔法に過ぎない。例えるなら、イルミナの残機とも呼べるもので――



「嘘っ?」

「ひとつ。いったい、いくつ隠しているのかしら?」


 戦いは実にシンプルだ。 

 それは私の命が尽きる前に、イルミナを殺し切る戦い。



 種が割れたことを悟ったのだろう。

 イルミナは、戦法を露骨な遅滞戦闘に切り替えてきた。逃げ回るように立ち回り、こちらにちょっかいを出してくる戦法――私の消耗を狙う戦い方。


「はあぁっ!」

「どうして、動けるっていうの!?」


 精神のぶつかり合いで負けるつもりはない。

 どれだけの地獄を見てきたと思っているのだ。



 何度か、同じような光景が繰り返された。

 私がイルミナのカウンター魔法を破壊し、イルミナの蘇生手段を奪っていく。確実に追い詰めているはずだ。


 それなのに、この涼やかな顔はなんだ。

 イルミナは、死を身近にしても顔色1つ変えなかった。

 それが僅かな恐怖ではあったが、もう止まることも出来ない。



 鎌を振るい、ついに最後の1つを破壊する。

 とどめを刺そうと、一歩、踏み込んだところで……、



「舐めるなっ!」


 イルミナも、覚悟を決めたように手をかざす。

 短刀を捨てた彼女が握っていたのは、魔法で作られた輝かんばかりの槍。古の時代に生きた伝説の戦乙女が握っていたと言われる英霊武器。


 私の鎌は、深々とイルミナの肩から腹にかけて貫き、

 ――イルミナの槍もまた、私の腹を容易に貫いていた。



 口からあふれる熱い液体。

 それが自身の血だと気がつくまでには、時間がかかった。


 続いて襲ってくる耐え難い脱力感。

 もともと毒で満身創痍だったのだ。



 体から力が抜けていく――ああ、死ぬんだなと他人事のように思った。

 結界を破壊し、アルベルトの命を守り、楽になれるんだなという喜びよりも、不思議と寂しさが大きかった。


 向こうでイルミナも倒れている。

 敵の主力と相打ち――死にかけた身なら上出来だろう。




 あたりの景色がもとに戻っていく。

 世界に色が戻り、戦場の喧騒が戻ってくる。


「アリシア様っ!」

「先に逝く? あんなことをしておいて、ふざけるな!」


 リリアナが、泣きそうな顔で私の名を呼ぶ。

 一方、フローラまでもが、何故か涙をこらえるように――



「アリシア、こんな終わり方ってないよ。アリシア――」


 アルベルトは、一目もはばからずに涙を流しながら崩れ落ちた。

 私に縋り付くような彼に、何か言葉を返したいと思っても、悲しいことにもう口すら動かない。


 血を流しすぎた。

 意識が、どんどん遠のいていく。



 その時だった。


「――この薬を、そこの魔女に飲ませて下さいな」


 声を発したのは、イルミナ。

 私に敗れ、倒れたまま死を待つはずの少女であった。

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