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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
13章 ブリリアントの要塞都市の戦い
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vsイルミナ(2)

 アルベルトは、結局その場で手を上げて投降するしかなかった。

 アリシアに少しでも危険が及ぶような選択を、当然、彼は取ろうとはしなかった。



「あなたたちも、少しでも動いたら……分かってますわね?」


 隙をうかがっていたリリアナも、釘を刺され悔しそうに武器を捨てる。

 

 

 アリシアは、反応を示さない。

 毒に体を蝕まれ、すでに気絶していたのだ。


 もっとも執念からか、結界の大部分は破壊されている。この都市の結界は、数年がかりで築き上げたものだ──内心でイルミナは、したをまいた。



 イルミナは、自身に回復魔法をかけて傷を治療していく。


「まさか、本当に戦うのを止めるなんて。そんなに、この女が大事なの?」

「……当たり前だろう」

「まあ、この女が生きてさえいれば、結界が解けるかもしれませんものね?」

「そんなの……、関係ない。くそっ」


 イルミナは、アルベルトをテキパキと拘束する。

 聖なる力の籠もった発光する紐で縛り上げらる。信じられないことに、その紐はアルベルト――すなわち魔王の魔法すら封じてみせた。


 対・魔王の魔法を封じる術式。

 アリシアを奇襲で仕留めるための毒。

 イルミナは、本当にこの戦いに照準を置いていたのだ。



 拘束されたアルベルトの元に、イルミナは歩いてくる。


 いつになく可憐な笑みを浮かべたイルミナは、黙って縛り上げられたアルベルトを見下ろした。そうして、口に出された言葉は、


「ねえ、和睦を結ぶなんてどうかしら?」


 到底、信じられないもので――



「は?」


 アリシアを殺しかけ、戦争を仕掛けた張本人が。

 どの口で、そんなことを言うのか――思わず剣呑な声を出したアルベルトを見て、くすりとイルミナが笑う。



 敵の狙いが、まるで分からない。

 今や戦局は、圧倒的にイルミナに有利だ。殺すだけなら、すぐにでもここに居るメンバーを全滅させられるだろうし、それは今後の戦争を大きく有利にする。



「面倒なのよ。これ以上戦うのは」

「君たちは、魔族を全滅させるって言ってなかったっけ?」

「あれはシュテイン王子が勝手に言い出したことですわ」


 イルミナは、残念そうに首を振ると、



「残念。それじゃあ、交渉は決裂ですわね」


 イルミナはそう言うや否や、何やら複雑な魔方陣を宙に描き出す。

 怪しげな術式は、アルベルトの見ている前で、不気味な光を放ちながら、ますますサイズを増していく。


 アルベルトは、特段、魔法のスペシャリストという訳ではない。

 イルミナの刻みあげていく魔方陣は複雑すぎて、まるで効果が読み取れない。


 しかし理解できないながらも、アルベルトの脳内では、ずっと警鐘が鳴り響いていた。ろくでもない何かだというのは、本能レベルで察してしまったのだ。

 とは言っても、拘束された身では、結局、大した抵抗もできず――



「レジエンテに伝わる秘術――まさか、本当に使う日が来るなんてね」

「いったい、何を……」

「心臓――いただくわ」


 イルミナは、アルベルトに手を伸ばす。

 その手は、アルベルトの体を、何の抵抗もなく通り抜け――



「がっ――」


 イルミナが心臓を鷲掴みにし、アルベルトは苦しそうにうめき声をあげる。



 レジエンテは、対魔族の戦争を有利にするため、様々な研究をしていた。

 捕らえた魔族で人体実験を行い、その中で気が付いたのだ。

 心臓を抜き取った魔族は、心臓を通じて命令を送り込むことで、自在に行動を操ることができるということに――



 イルミナの作戦は、敵対勢力アリシアの排除。

 及び、アルベルトの捕獲。



 淡々と命令をこなし、心臓を取り出そうとするイルミナ。

 予定通りのことが、予定通りに進んだだけといった表情。その瞳には、おおよそ勝利の喜びすら浮かんでいなかった。

 ――その時だった。


「ッ!」


 イルミナが、自身の首を狙う致死の一撃を察知したのは。

 慌てて回避したイルミナが見たのは、目の前を横切っていく大振りの鎌。



「死にぞこないが、しつこいですわよ」

「……決着を、付けましょう」


 イルミナが、バックステップで距離を取る。

 対するアリシアは、薄い笑みを浮かべたまま、鎌を手にイルミナを睨みつける。


 ――そうして最後の戦いが、始まろうとしていた。

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