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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
13章 ブリリアントの要塞都市の戦い
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命の使い道

 急速に体から力が抜けていく。



「ど、毒……!」


 目の前には、魔石がある。

 戦局を覆すための鍵が手元にあるのに、私の意識はどんどん薄れていく。




「流石は王国の魔女。これで即死しないなんて――本当にしぶといのですね」


 イルミナが、手にした短刀を弄びながら呟く。


 非常に強力な毒だった。

 内部で増殖し、簡単には治療出来ないような厄介極まりない性質。対聖女を念頭において、私を照準に合わせた強力な毒だった。


 だけども……、関係ない。

 心の炎が燃えている限り、私は決して死ぬことはない。



「あはっ、ここで会ったが100年目。ここで引導を渡してあげるわ」


 長期戦になれば、毒が回って不利になる――目指すべきは短期決戦。

 イルミナを撃退した後は、速やかに結界の解除もしなければならないのだ。この体が、どこまで持つかは分からないけれど……、


 唇を噛み、私は無理矢理にでも意識を保つ。

 体調は最悪に近い。でも、まだやるべきことがある。



「無理しないで良くてよ? あなたはもう頑張った――後は、ゆっくり休んで良いのよ?」

「戯言をっ!」


渾身の力で鎌で斬りつけたが、あっさりと受け止められる。

 どうにも手に力が入らない。


 それでも、ここで引く訳には――



 戦闘を続けようとする私だったが、体が付いていかず、ガクリと膝を付いてしまったところで……、


「そこまでだ」


 アルベルトが、私を守るように割って入るのだった。



「アルベルト?」

「相変わらず心臓に悪いことをするね、君は……!」


 イルミナの方を見もせずに、アルベルトは私に向かって声をあげる。その声は、怒りというよりは懇願の色が強かった。



「ここはボクに任せて。アリシアは、今は治療に専念して……そうじゃないと、ボクは――」

「でも……。そんなことをしている間に、戦いは……」

「でも、も何もない! そんなに傷だらけなのに……、どうして君は……。アリシアは少し休んでて? この戦いは、ボクが絶対にどうにかするから」


 アルベルトは、泣きそうな顔をしていた。


「どうにかって……?」

「アリシアの焦りは分かるよ。分かるけど――たまには、ボクに守らせてよ」


 そう言われても、この局面で、私だけがのうのうと休める筈がないではないか。何かを言い返そうと、私も、口を開いたところで、



「う~ん? 魔王と聖女が、そんな言い争いをして――いったい、何を考えているんですの?」


 イルミナが、脳天気な声で首を傾げ、


「それで……、わたくしは、いったいいつまでこの茶番を見ていれば良いのですか?」


 心底馬鹿にした様子で、そう言い放つのだった。



「なんとでも言ったらよいさ。イルミナ……、君はボクの大切なアリシアを傷つけた――覚悟は出来てるよね」

「あらあら、怖い」


 アルベルトは、本気で憎悪の籠もった視線を向けて。

 一方のイルミナは、いつぞやのように軽い口調で肩をすくめるのみ。


「死ね」


 アルベルトが、予備動作もなく闇の魔力を凝縮して、イルミナの立っていた場所に爆発を引き起こし……、



「残念だけど、あなたたちはここで死ぬ。なぜならそれは、神の導きだから――」

「戯言を……!」


 ――ついに戦闘が始まった。


***


 目の前で戦闘が始まった。



「アリシアは、休んでて?」


 脳裏に響くのは、アルベルトの声。

 純粋に私の身を案じる声。


 客観的に見て、私はすでに満身創痍なのだろう。まともに立っていることすら出来ず、体は毒に冒されてギリギリの状態。

 だけども……、



「あはっ、私だけ休んでるなんてつまらないですよね」


 もし、自分だけが生き残ってしまったら。

 それは恐ろしい想像だった。


 そんな未来が来てしまったなら、きっと私は死を選ぶだろう。自分で自分を許せない。

 あるいは、復讐のために無茶な戦いを続けて――結局、ろくな死に方はしないだろう。


 同時に、頭の中の冷静な部分が告げる。

 この戦いはアルベルトに任せるべき。それより、ここで、私にしか出来ないことは……、


「やってやりましょう」


 私の目の前には、イルミナの作り出した性質の悪い魔方陣。

 その術式を解除して、戦場を有利に運ぶこと――それが今、私がやるべきことだ。

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