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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
13章 ブリリアントの要塞都市の戦い
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 ――日が沈む頃。

 第2隊、第4隊が、勇ましい怒声とともに、一斉にブリリアントの南門を襲撃した。


 魔道具により強化された魔族たちの攻撃は、容易に南門を破壊した。

 突然の襲撃に慌てふためく王国兵を手玉に取り、またたく間に魔族たちはブリリアント要塞都市の内側に入り込む。



「派手に暴れてるねえ」

「フレッグさんの魔道具、とんでもないですね!?」

「あんなものが使われなかったなんて。アリシア、あれを君の部隊で認めさせたのは本当にお手柄だよ!」


 ただの爆弾と揶揄されたフレッグが開発した魔道具は、戦地で恐ろしいほどに猛威を振るっていた。


 ある魔族は自慢の闇魔法で破壊を撒き散らし、スピードに優れた魔族は魔道具を設置し、至るところで混沌を撒き散らす。私たち特務隊も含め、どんな魔族でも一定の破壊力をお手軽に得られるというのは、こういった混戦で非常に使い勝手が良かったのだ。


 王国兵はたちまちパニックに陥っていき……あんなものが飛び交う戦場で、防衛を命じられたらと思うと――敵でありながら、少しばかりゾッとした。



「そろそろ行きましょうか――サイレントミスト!」

「相変わらず凄まじい魔法だね……」

「え? まあ、気休め程度ですが」


 アルベルトは、魔法の霧が体を隠すのを、興味深そうに眺めていた。

 そうして私は、身を隠す魔法をメンバーにかけながら、東門を飛び越え要塞都市の中に侵入を果たす。


***


「あはっ、一丁上がり!」


 私が鎌を振るった瞬間、一人の見張りが崩れ落ちた。


「お見事です、アリシア様!」


 リリアナが、パチパチと手を叩く。

 そんなリリアナも、杖で水球を生み出し、相手を音もなく窒息させるという悪魔のような戦い方で、数人の見張りを屠っていた。



「えげつない戦いをするねえ、2人とも」

「お褒めいただき光栄です」


 そんな私たちのコンビネーションを、アルベルトがやや引き気味に見守っていた。アルベルトの魔法は、どうしても目立つ。こういった隠密行動には、不向きだったのだ。


 私たちは、物陰に身を隠しながら、中央の建物に向かっていた。

 手にした見取り図によれば、そこに防衛拠点を管理する魔道具があるはずだ。



 見張りの王国兵は、たしかに数を減らしていた。

 残っているものや、混乱した様子で慌ただしく走り回っているものも多い。南門への陽動作戦は、これ以上ないほどに成功しているようだった。



「前方から5人……、来ます!」

「どうしましょう、殺っちゃいますか?」

「いいや、隠れてやり過ごそう」


 この人数だからこその動きやすさ。


 時には王国兵の集団を、やり過ごし。

 時には王国兵の集団を、音もなく全滅させ――



 1時間も経たず、私たちは目的地に到着した。


「ふう。まずは第一関門はクリアかな?」

「油断するにはまだ早いですよ? 本番はこれからです」


 部屋の中央には、細かな地図が映像として映し出されている。

 要塞都市の地図と思わしきそこには、王国兵の位置や、侵入者――おとりとなって暴れている魔族たちの位置も、克明に表示されていた。 



「アリシア、いけそう?」

「ええ。少し集中する時間があれば――」


 これが、ブリリアントの防御システムを管理する制御装置か。

 私は、少し緊張しながら、精緻な魔法陣に姿勢を向ける。七色に輝く複雑な紋章は、解析は一筋縄ではいかなそうだったが……、


「なるほど、見事なものですね」


 不可能ではない。

 高度な暗号化が施されてはいるが、時間さえかければ問題なく支配下におけそうだ。私が、魔法陣の解析に取り掛かったその時、



 ゾワリ――

 背筋に寒気が走る。

 肌が粟立つ感覚。

 

「な、なにこれ……!?」

「アルベルトも感じましたか?」


 巨大な魔術式に、魔力が流し込まれる気配。


 魔術式は、私たちを包み込むように、膨大な範囲に刻み込まれていた。

 そんな魔法陣を発動させるために、膨大な、あまりにもを馬鹿らしい量の魔力が注ぎ込まれており……、



「嘘!? こんな魔法が発動されようとしているのに、気づけなかったというの!?」

「アリシア、落ちついて」

「ごめんなさい。取り乱してる場合じゃないですね」


 不測の事態でこそ、冷静さを失わないことが大切だ。

 私もまだまだだな――アルベルトに内心で感謝しながら、私は冷静に発動している魔法を考察し、ようやく1つの失態に気がつく。



「まさか……、要塞都市そのものが……!?」


 複雑に入り組んだ内部の構造。

 侵入者を排除するために迷宮のような構造をしているのかと思ったが、その地理にはきちんと意味があったのだ。あまりにも馬鹿けた規模で、思わず考慮の外側に追いやってしまった事実――、



 数秒後。

 謎の術式が完成する。


「ッ結界!?」


 完成したのは、数億個の魔法陣がひしめきあうドーム状の結界。

 その青白い光は、要塞都市をスッポリと覆い尽くした。


 ドーム状の結界から、きらきら輝く真っ白な粒子が舞い降りてくる。

 一見、光のように幻想的な、しかしそれは間違いなく魔族にとって有害な物質で――



「ガッ――!?」


 アルベルトが、血を吐き、苦しそうに膝をついた。



 疑いようがない。

 さっき発動したのは、対魔族に特化した結界。


 ――私たちは、見事に罠に嵌められたのだ。

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