決闘なら受けて立ちますが・・・
──いろいろな事があったな。
私は、今日という日を振り返る。
処刑されたのも、随分と昔のことのように感じられた。
もっとも胸に宿る黒い感情は、時間と共に消えるどころか、刻一刻と強さを増している。魔族に囲まれて目覚めたときには血の気が引いたが──王国の敵対者として蘇ったのは、幸運だったのかもしれない。
初めて知ったことだが、私は魔族領にある魔王城で蘇生させられたらしい。
そこは特務隊で活動していた際の最終目的地でもあった。こうしてあっさりと辿り着いたのは、ちょっぴり複雑であった。
私には、侍女が付けられた。
驚いたことに、魔王城では人間が普通に働いているらしい。
「脅されて働かされているの?」と尋ねれば「魔族領に追放されて、絶望していたところを魔王様に助けられたんです」と侍女は答えた。似たような境遇の人間が、他にも大勢ここで働いているらしい。
そういうものか、と私は考えるのを止めた。
私に用意されたのは、まるで王族が寝泊まりするような豪華な部屋だった。見たこともないサイズのベッドに、きらびやかな装飾品。"敵"である私に与えられた部屋だとは到底思えない。
まるで貴族のような扱いだった。
王国での扱いとは、まさしく雲泥の差だった。
──魔王が、何を考えているのかは分からない。
だとしても私のやることは、何も変わらない。
「神よ。このような機会を与えて下さったこと──深く感謝します」
私は、また戦える。
他でも誰でもない自分の意思で、王国軍に目にもの見せてやる。黒い野望を抱いたまま──私は、静かに眠りに落ちていった。
◆◇◆◇◆
翌日、私は魔王軍の幹部会議に呼び出された。
「私が聞いても良いんですか?」
「うん。あ、退屈なら部屋に居てくれても良いんだけどね」
重要機密だろうに……。
尋ねた私に、魔王はどこかトンチンカンな答えを返すのだった。
***
作戦会議は、机の並べられた立派な部屋で行われた。
作戦会議での魔王の説明を聞きながら、私は自分が処刑された後に何があったのかを知った。
私が魔王の封印に成功していたのは、実に僅かな間だけのようだ。
どうやら私が王国で犯罪紋を刻まれたと同時に、魔王にかけられた封印が一緒に解けてしまったようだ。魔女を断罪するつもりで、魔王の封印をあっさり解除するとは、何とも皮肉な話である。
魔王は、どうやら私に合わせて状況説明から入ってくれたようだ。
作戦会議は、やがて本題である魔族領にある砦の防衛戦についての議論に変わっていく。
「ミスト砦の防衛は、どうにかなりそう?」
ミスト砦は、人間領と接する位置にある重要な防衛拠点であった。
魔王の質問に、集まった魔族たちは渋い顔をする。
「敵の兵力は少なく見積もって八千以上。砦を守る者の疲労も大きく、もう限界です!」
「しかも敵は、王国の騎士団が集められています。敵の指揮は『聖女』が取っており、大きく兵力が強化されていることが予想されます」
報告を聞いて、集められた魔族の表情が暗くなっている。
「魔王様、どうか戦線を下げるご決断を──!」
「そんなことをしたら、魔王領の一部を王国に渡すことになりますぞ! 我らを頼ってきた亜人族の集落だって存在する」
「王国軍は、亜人を奴隷のように扱うと聞くぞ? 見捨てれば、彼らがどのような目に遭わされるか……」
撤退を進言する幹部の1人に、堪えきれないというように誰かが言い返す。
王国では、亜人種に人権を認めていない。安価な労働力として、まるで奴隷のように働かされていた。
魔族は、そんな彼らを守るために戦っているとでも言うのだろうか?
それにしても王国騎士団が、ねえ……。
私が特務隊に居たときには、冒険者ギルドや私に任せきりで、ずっと城に籠もっていたのに。それが今になって動き出すなんて。
大方、騎士団の幹部が、今ならお手軽に手柄を建てられると判断したのだろうか。
「撤退? とんでもないね。見捨てるぐらいなら、最初から支配下に入れるもんじゃないよ。その程度の兵力なら問題ない──ボクが出るよ」
「いけません!」
「魔王様が倒れたら、魔王軍は終わりなんですぞ!」
魔王が一方的に話し合いを終えて、そのまま席を立とうとした。そんなリーダーを見て、慌てて幹部たちが止めようとする。
それは奇しくも、特務隊時代の私を思い出させた。あの時の私は、後先考えずに冒険者を助けようと単身で飛び出しては、特務隊のみんなに怒られたものだ。
──そういえばリリアナは、私が居なくても元気にしているだろうか?
リリアナは、私を心配して地下牢に捕らわれた後も私を支えてくれた盟友だ。
危なくフローラに嵌められて、処刑されるところだったけれど、特務隊に戻ったのなら、流石にフローラも手出しできないはず。
今の私には、無事を祈ることしか出来ない。それでも、どこかで無事に生きて幸せになって欲しい──王国を憎む私だけど、それもまた紛れもない本音だった。
私は目の前の会議に、意識を戻した。
「そうですね、私も魔王さんに賛成です。まず、フローラの『聖女』の力は、そこまで強力ではありません。恐らくは手柄を立てさせるためだけのお飾りかと思われます」
「人間! 誰が貴様に発言を許可した!」
「ブヒオ──構わない。ボクが同席を許可したんだ。アリシア、続けてよ」
豚っ鼻の魔族──ブヒオが、私に殺意を向けてきた。
──戦場にフローラが居る。
その事実を知っただけで、私の視界が黒く染まる。
彼女は、丁重に騎士団員に守られながら、圧倒的に優位な戦場で、それはもう美しく微笑んでいるのだろう。聖女の仕事なんてチョロいと思いながら、一生をのうのうと過ごしていくのだろう。
そんな未来、許せるはずがないではないか。
「私をミスト砦に連れて行って下さい。『聖女』を舐めてくれたあの人に、聖女がどのようなものか、目に物を見せて差し上げましょう」
私の提案に、
「それで連れて行った途端に、寝返るつもりか? 許可できる筈がないだろう。すぐに殺されないだけ、ありがたく思え!」
真っ先に、ブヒオからそんな言葉が飛んできた。
「ブヒオ、聞き分けのないことを言わないでよ。ボクがアリシアを信じると決めたんだ──それ以上の理由が必要かい?」
「し、しかし魔王様……」
「なにより今の魔王軍では、ミスト砦を守るためには戦力が足りない。付いてきてくれるというなら、喜んで迎えるべきじゃないかい?」
どんどん不機嫌そうになっていく魔王。
しかしブヒオも引き下がるつもりは、無さそうだった。
「魔王様、人間の助力など不要です。そのことを私が証明してみせます」
「ふ~ん。いったい、どうやって?」
「この者に決闘を申し込みます。王国の者を幹部として迎え入れるなど、到底、許容できません──私が勝ったあかつきには、この者の待遇をどうかご再考ください」
ブヒオの敵意に満ちた視線が私を射抜く。
「ブヒオ、どうしちゃったのさ。君は、いつからそんな聞き分けのないことを──」
「決闘ですね。それで認めて頂けるなら、構いませんよ」
尚も魔王は何かを言いかけていたが、私はブヒオの提案を受け入れる。
降りかかる火の粉ぐらいは、自分で払わなければならない。遥かなる復讐の道も一歩からだ。
そうして幹部会議は、一時中断。
突如として、私とブヒオの決闘が始まることになったのである。
「アリシア、君はまた……」
もの言いたげな魔王の視線を受けながら。
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