作戦開始
ストック少し心もとなくなってきたので、月・水・金の定期更新にしたいと思います・・・!
名も知らぬ集落を訪問して、数日後。
私たちは、無事、ブリリアント要塞都市を視界に収める国境沿いに到着した。
ヴァイス王国領にあるブリリアント要塞都市は、その名のとおり高い城壁に囲まれた戦闘用の都市だ。壁面には砲撃用の魔道具が設置されており、常に王国兵が監視の目を光らせている。
そこから数キロ離れた洞穴に入り、私とアルベルトはヒソヒソと今後について話し合っていた。
「皆さん、無事に辿り着けたのでしょうか」
「人数分の通信用の魔道具を用意することは出来なかったからね。そこは自分たちの部下を信じるしかないよ」
魔族が集まれば集まるほど、敵兵に見つかる可能性はあがるだろう。
ブリリアント要塞都市を攻略する肝は、相手の意表を突く奇襲にある。身を隠すために個別行動を取ることは、今回の作戦では欠かせなかった。
ディートリンデを守っていたブヒオの部隊は、少なくない被害を受けた。
ただでさえディートリンデの兵力は、ブリリアントに大きく劣る。いくら魔王城の救援があっても、ダイモーン・ディートリンデに続いて、ブリリアントまで攻め入るとは、ヴァイス王国は予想もしないだろう。
私は、作戦会議の様子を思い出していた。
「今回の作戦、上手くいくでしょうか……」
「不安?」
「だって……、もし失敗したら――魔族は終わりですよ」
私とアルベルト、それに今動いている3つの部隊は、魔族にとって中心的な戦力だ。全滅すれば、一気に形勢は王国に偏るだろう。
リスクも大きいが、この戦いでブリリアントを落とす意味は大きい。
敵の補給路を断つほか、この都市は、そのままヴァイス王国攻略への足がかりとなる。反面、私たちが全滅すれば戦況は王国に偏る。
互いに重要なものを賭けたこの戦いは、決して負けられないものだ。
「アリシアの立てた作戦は、見事だと思う。ボクが保証するよ」
「でも、もしも見落としがあったら……」
「いい? 最後に作戦を決めたのは――作戦を取り入れたのはボクだ。アリシアが、気に病む必要はないよ」
アルベルトが、浮かない顔をする私をそう諭す。
魔族の長として、すべての結果の責任を持つと、アルベルトは言っている。それどころか、最前線で肩を並べて戦うことを選んでいる。
王国でのうのうと指示だけ出していたどこかの王子とは違うのだ。
そう、今やることは失敗を恐れることではない。
やるべきことを念入りに、念入りに確認しよう――私は、この後に行なう作戦を確認していく。
「まずは陽動部隊が奇襲をかけ、混乱に乗じて、私とアルベルトは中央装置を奪取。防衛機構の制御権を奪う……、そうですね?」
「うん。制御権を奪うのは、アリシア任せだけど――ごめんね、いつも大事なところを任せちゃって」
「ふふ、細かい制御は私の方が得意ですからね」
何故、私たちがブリリアントの弱点を掴んでいるかというと――魔族たちは王国内部に、スパイを送り込んでいたのである。
彼らは重要拠点であるブリリアントについては、まんまと見取り図を入手していた。……元王国の人間として、実にゾッとする事実である。
ブリリアントの特色は、魔道具を最大限に活かした防衛システムだ。
魔道具専門の技師も多く配備されており、優れた魔道具を用いて、半自動的に戦力を撃退するシステムが構築されている。
それらの防衛用魔道具は、制御が中央の魔道具に集約されているという弱点を抱えていた。制御装置を破壊、あるいは奪ってしまえば、ブリリアントの防衛力は大きく低下する、というのが見取り図から読み取れる情報だった。
「アリシア、いっそここから魔道具の支配権奪えないの?」
「まる1週間集中すれば、あるいは……。でも、流石に戦いながらは流石に無理ですね」
「いやいや、冗談だからね!?」
え? 嘘……本当に1週間あればできちゃうの!?
なんて驚くアルベルトを見ながら、私はおずおずと頷く。とはいっても、戦闘の役には経たないだろうけど。流石に支配権を奪われそうなことに気がついたら、敵も黙っていないだろうし。
以前、滅ぼした商会が開発した、ちゃちな銃とは訳が違う。
王国有数の防衛拠点だけあって、そう簡単に支配下におくことはできなさそうだった。
そうこうしているうちに、日没を迎える。
「さてと――そろそろ時間だね」
今回の作戦はこうだ。
ブリリアント要塞都市には南門、西門、東門と、大きな街道につながる出入り口が3つある。部隊の大部分は、陽動として緩衝地帯と繋がる南門から攻め入り、敵兵力を南部に集中させるのだ。
そして守りが薄くなったところで、本命の私たちが西門・東門から攻め込み、防衛機構の制御システムを探し出す。制御システムを破壊するか、支配下に置けば、私たちの勝利だ。
この戦力で取れる作戦の中では、悪くない作戦だ。……だけども何かが、引っかかった。
「アリシア様?」
「行こう、アリシア。作戦開始だ」
アルベルトと、リリアナが不安そうに覗き込んできた。
戦いの直前まで不安そうな顔をしているなんて、指揮官失格だ。
私は、意図的に思考を切り替え、
「行きましょう!」
鎌を携え、突き進む。
目指すのは東門。守りが薄くなっているはずの入り口だ。





