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公開処刑

 数十分と経たず、私たちは小さな集落に案内されることになる。

 その中には、想像を絶する惨状が広がっていた。



「お許しください! これは、子どもたちの最後の食料品なんです……!」

「黙れ黙れえ! これは聖戦のための貴重な物資だぞ!」


 村の入り口には、騎士団の男に縋り付くおばあさんの姿。

 食料品を巡ってトラブルが起きているらしい。騎士団の男は、煩わしそうにおばあさんを蹴飛ばすと、


「ちっ、次逆らったら命は無いと思え」


 そう毒づきながら去っていった。

 村の中ではいつまでもすすり泣く声がこだましていたが、その様子を誰も気に止めない。日常的に同じようなことが繰り返されてきたのだろう。



「ここは?」

「見てわかるだろう? 神聖ヴァイス王国軍の駐屯地だ」

「守るべき国民に、なんてことをするんですか!」

「何を怒ってるんだ。王国民が聖戦に協力するのは、当たり前だろう?」


 私たちを案内した騎士団員は、当たり前のような顔で口にする。

 心底、不思議そうな顔で問いかけられ、私は言葉を失ってしまった。



 平和に暮らしていた村に、突如として訪れた王国騎士団。

 戦争のため片っ端から物資を徴収していったのだろう。疲弊した顔の村人たちは、恨めしげな顔をしながらも、騎士団員を恐れて何も言えない。彼らにとって、もはや騎士団は盗賊と何ら変わらないだろう。


「おい! 約束通り案内したぞ。だから――」

「ええ、ご苦労様」


 私は男の首に手刀を打ち込み、そのまま昏倒させる。

 集落の外れの岩陰に寝かせ、そう簡単には気が付かれないように放置する。



「それでアリシア、どうするつもりなの?」

「別に大したことは。ただ――気に入らない敵を斬る。それだけですよ」

「相変わらずアリシア様らしい物言いですね」


 くすりとリリアナが笑う。


「本当は、こんなことをしている場合ではないんだろうけど……」

「やっぱり、まずかったですか?」

「いいや、ボクも目の前で苦しんでる人を放置するような魔王にはなりたくないかな。こうなっちゃったんだ――満足行くようにやっちゃおうよ」

「あはっ、アルベルトも悪そうな顔してますね」


 私たちは、くすくすと笑い合う。

 当面の目標は、この村を王国騎士団から解放すること。


***


 初めにやったことは、この村の周辺に結界を張ることだった。

 王国軍の本隊に、私たちの所在地がバレるリスクを少しでも減らすため。外部への連絡を、確実に遮断するためだ。



 結界を張り終わった頃、私たちは、


「これより神聖ヴァイス王国に仇なす愚かな人間の処刑を執り行う!」


 そんな声を聞くことになる。

 気がつけば広場に、人が集まっていた。



「は、離せ! お母さんのかたき!」

「この者の家族は、愚かにもヴァイス王国を裏切り、この村からの逃亡を企てた。我々のために働き、日々の物資を提供することは、シュテイン王子の王命――よって裏切り者に、死の鉄槌を与えることとする!」


 処刑台に引っ立てられていたのは、まだ10代前半の小さな少女だ。

 遠巻きで見ている村人たちは、同情の視線を送りながらも、誰も止めようとはしない。村人たちは、皆、諦観の混ざった諦めの眼差しをしていた。



「あの子は、なにをしたんですか?」

「それが……、騎士団員様の言うことに逆らって、食料をこっそり自分の物にしようとしたんだ」

「それと、こんな力で村を押さえつけるような騎士団のやり方は間違ってるって、立ち向かおうって村長を説得しようとして――それが見つかっちまったんだ」

「そ、そんなことで……?」


 到底、信じられない理由だった。

 


 集落の中心には、物騒なことに処刑台が用意されている。

 歯向かう者は徹底的に排除し、恐怖により人々を押さえつけているのだ。


「なんで皆、黙ってるの! お母さんの言ってたことは間違ってない――こんなの絶対おかしいよ!」

「黙れ、この裏切り者が!!」

「こんな戦争は――シュテイン王子のやり方は間違ってる! どうして私たちだけが、こんな目に遭わされないといけないの!」


 ギロチン台に括り付けられたまま、少女はそう声高に主張する。

 怖くないはずがない。恐怖にすくみそうになりながらも、勇敢に、王国が、この村の現状がおかしいと声高に主張する。



「もう良い、目障りだ。殺せ」


 村を治めていると思わしき男が、そう指示を出した。

 断頭台の刃が少女に降り注ごう、というその時――、



「あはっ、よりにもよって……。」


 私は、瞬時に少女のもとに駆け寄った。

 鎌を振るい、今にも降りようとしていた刃を弾き飛ばし、



「私の前で、そんな不快なものを使おうとするなんてね」

「……え!?」


 驚きの声をあげる少女を肩に乗っけるように抱き上げ、私は静かに立ち上がる。

 何度も繰り返されてきた悪夢のような光景。それが目の前で崩れ去ろうとしている――目が合った村人は、みなあんぐりと口を開けていた。



「なんだ貴様は!」

「裏切り者を助けようというのか!? 者ども、かかれ!!」


 ――集落には、混乱が広がろうとしていた。

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