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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
11章 ディートリンデ砦の戦い
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どうして恐れる必要があるのかしら?

「ば、馬鹿な……!」

「なんだあの動きは……。奴はバケモノか!?」

「あはっ、バケモノとは失礼ですね?」


 縦横無尽に動き回り、私は鎌を振るう。

 一振りで断末魔の悲鳴をあげることも叶わず、王国兵の男たちはバタバタと倒れていく。たちまち半狂乱になっていく兵たちを、私は容赦なく斬り伏せていく。



「恐れるな! 敵はたったの1人だ!」

「囲め、囲め! 映えある王国騎士団たる者、勇敢に戦え!」


 パニックに陥りながら、無謀にそう叫ぶ指揮官の男も居た。

 怯える兵を相手に、愚直に突っ込むように指示を出す。そんな兵たちは哀れなことに、すぐに同じ末路をたどることになった。

 


 やはり練度が低い。

 各々がバラバラに動いていて、まるで人数を活かせていない。強大な魔族とぶつかり合ったなら、まずは盾役の人間で固めて、遠距離から魔法を浴びせるなど組織的に戦うべきだ――狼狽えるままに突撃を繰り返すなど、狩って下さいとアピールしているようなものだ。


 みるみるうちに王国兵は数を減らしていき、



「撤退! 撤退だああああ――!」


 ディアベルは、驚愕の表情のままそう叫ぶ。

 恐怖で顔を歪めながら、尻もちをつき、感情に突き動かされるように走り出し――、




「あはっ、どこに行くんですか?」


 その真正面に、私は回り込んだ。

 そう簡単に逃がすわけがないだろうに。



「ヒィィ……」


 ディアベルは、尻もちを付いて後ずさる。 



 忘れようもない黒い炎が、胸を焦がそうと燃え広がっていく。

 そうだ、王国にはこいつのように、平気な顔で私のような人間を踏みつけ、甘い蜜をすすっている奴が大勢居るのだ。


 けれども、もう、突き動かされるままに行動する訳にはいかない。

 この感情は飼いならそう――もっとも、やるべきことは何も変わらないが。この屑の命をどう使うのが戦場において効果的か、私は燃えたぎる感情とは別の部分で、冷静に考えていた。



 私は、冷淡な前でディアベルを見下ろした。


「す、素晴らしい力だ! 君ほどの力があれば、是非とも我が隊に入って……、そうだ、王国に反旗を翻そうじゃないか。俺とおまえの力があれば――」


 耳を傾ければ、耳障りな声で何かを口走っている。

 こいつらは、どうして皆、同じ反応をするのだろう。あまりに滑稽で、同時にひどく腹立たしく――



「うるさいですね」


 私は一気に距離を詰め、




「ま、待――」

「あはっ、さようなら」

「ひっ――」


 そのまま鎌を振るう。

 ディアベルの首は吹き飛び、胴体と別れを告げることになった。



「あはっ、結果オーライですかね?」


 私は、その首を手に抱える。

 今ここで私がやるべきは、敵軍の戦意を下げること。

 待ち伏せを喰らったときはヒヤリとしたが、砦を任された指揮官を倒したのは上出来だろう。




「次に私がやるべきことは――」


 私がちらりと視線を向ければ、王国兵たちは、蜘蛛の子を散らすように逃走を始めた。別に追う必要はない。それよりも大事なことがある。




 私は、助走を付け飛び上がり、


「ここで良いかしら」


 私が降りたのは、砦の中でも見晴らしの良いバルコニーのような場所だ。

 戦地を見渡す、見張り台の役割も持っているのだろうか。戦場を見下ろすことができ、向こうからも容易にこちらを確認できる――端的に言えば、非常に目立つ場所であった。



 そのまま私は拡声魔法をかけ、


「――既に砦は、私たちの手に落ちています!」


 そう宣言しながら、ディアベルの首を高々と掲げる。

 敵の指揮官が討たれ、砦が落ちたという証明――それは敵の士気を下げるには、十分な意味を秘めていた。



「これ以上の戦いは無意味。死にたくなければ、すぐに投降――いいえ、違いますね」


 意識していなかったが、私は王国兵の返り血がベッタリ浴びていた。

 そんな私が、首を片手に掲げたまま浮かべた笑みは、さぞ凄惨なものだったとリリアナは後に語っており……、



「あはっ、死にたい人だけ戦いを続け下さいな」


「うぉおおおおお!」

「アリシア様がやってくれた!」

「我々も、負けてられない! さあ、アリシア様に続け……!」


 時間稼ぎに徹していた魔王軍の士気は、これ以上ないほどに跳ね上がり……、



「今が好機なのじゃ! 一気に決着を付けるのじゃ!」

「あ、こらライラ! そんな無茶な突撃命令を出したら――」


「「「うぉおおおおおお!!!!」」」


 怒声とともになだれ込む魔族たち。

 そんな彼らは、支援魔法と魔道具により、大きく能力が向上している。士気の下がりきった王国兵では、まるで相手にならないほどに。



「二人とも、良い連携です」


 驚くべきことに、あれほどの激闘が繰り広げられていたにもかかわらず、12小隊はほぼ無傷でまるまる残っていた。

 それはライラとリリアナの功績が大きい。


 個々の戦力では、大きく勝っているのは揺るがない事実。

 恐れるのは、囲まれて各個撃破されること。ライラは、なるべく集団で行動するべし、とシンプルな指示を出した。以前なら聞き入れられることは無かったであろう指示は、日頃の訓練の成果、というか意識改革のおかげか、素直に受け入れられたのである。

 対するリリアナたち特務隊は、これならと戦局を俯瞰しながら、魔族たちの後方支援に徹していたらしい――咄嗟に決めた作戦とは思えぬほどに、良い連携を見せる魔族と人間の混成部隊であった。


 そんな訳で、ほぼ無傷で残っていた12小隊。

 私の宣言を好機と見たライラの指示で、彼らは水を得た魚のように王国兵に襲いかかっていく。狼狽した王国兵には、到底、その混乱を鎮められるものなどおらず、


 

「ば、バケモノどもめ!」

「撤退、撤退だ……!」


 そう悲鳴を上げながら、撤退していくのだった。



「まあ、ブラフなんですけどね」


 砦の中に、どれだけの兵が残っているか分からない。

 まるで砦を制圧したかのように語ってみせたが、この中がどうなっているかなど知る由もない。敵に優秀な指揮官が居れば、すぐに無力化されるような作戦であったが……、



 私は砦のやぐらから飛び降り、


「上手く行きそうですね」


 そう小さなつぶやきを漏らす。

 姿の見えないイルミナが、未だに不安要素ではあるものの、趨勢は魔王軍に有利に進んでいる。


 更には、追い打ちをかけるように。

 聞こえてきたのは、ドーン! と派手な爆発音。

 こんな圧倒的な魔法を使えるのは、アルベルトを置いて他にいない。



「――やっぱりアルベルトの魔法は派手ですね」


 私の宣言を聞いて、乗り込むことを決めたのだろうか。

 一気にディートリンデ砦を落とすため、良い判断だと思う。



「さてと、仕上げといきましょうか」


 最後にやるべきは、砦に潜む王国兵の残党狩りだ。

 私は、もうひと暴れするつもりで、砦の中に攻め入るのだった。

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