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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
11章 ディートリンデ砦の戦い
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一方的な戦い

 戦地に向かった私たちが相対したのは、ダイモーンの里に攻め入ろうという作戦を取っていた王国兵たちだった。



「き、貴様は――魔女・アリシア!」

「本当に国を売ったのか!」


 王国兵たちは、面白いように同じ反応をする。

 最初は嘲ったような顔で私を見て、続いて恐怖に顔を青ざめさせて、最後には身勝手な憤怒を抱く。

 まあ、私のやることは変わらないのだけど。



「あはっ、こんにちは。そして――さようなら」

 

 巨大な鎌を振るい、視界に入った敵を片っ端から斬り伏せる。

 返り血を拭い、次なる標的を探す。



「し、死ね! ばけものっ!」

「あはっ、それで隙を突いたつもり?」


 私の命を狙うには、あまりに戦い方が杜撰だ。

 背後から飛んできた魔法の銃弾を見もせず回避し、次の瞬間、私は声の主に斬りかかる。ろくな抵抗もできずに鎌で切り裂かれ、王国兵の男は絶命し、ドサッと地面に倒れるのだった。



 私とアルベルトの役割は、敵陣の奥深くにまで潜り込み、できる限り派手に暴れることだ。

 遊撃手として、敵に混乱を招くことが目的だった。


「相変わらず恐ろしい強さだね」

「魔王さんこそ」


 魔王は相変わらず、見たこともない魔法で、敵兵を瞬殺していた。

 この魔法があれば、たしかに魔道具なんて要らないんだろうなあ――なんて、場違いなことを考えてしまう。


 遥か向こうでは、士気の高まったブヒオの隊が、これまた一方的に王国兵を屠っていた。もちろん、こちらの士気が高まっているというのもあるのだろうが……、



「あ、逃げた――」

「……ふむ」


 敵わないと見るや否や、一目散に逃走を始める王国兵たち。


 こう言っては何だが、あまりにも練度が低い。

 ミスト砦で戦ったフローラの部隊と同程度か――下手すれば、それ以下だ。


 やっぱり、恐れるべきはイルミナが率いている部隊だけ?

 いえ、油断は禁物。相手の戦力を軽く見積もれば、そのまま足元を掬われかねない。



「アルベルト、追いかけますか?」

「今は、その必要はないさ。ここに来た目的は、あくまでブヒオの隊を守ることだったしね」


 そう答えたアルベルトは、満足気に頷きかける。

 彼の言うとおり、今、最優先で考えるべきは、この場所を守ることだ。少なくとも特務隊の面々と合流するまでは、深追いするべきではない。いずれはディートリンデ砦を取り返したいところだけど……、



「良くやった! 今は、深追いする必要はない――そのまま泳がせておけ」


 ブヒオも、同じ考えだったのだろう。

 遁走を始める王国兵を勝ち誇った顔で見送りながら、ブヒオは威厳に満ちた顔でそう部隊に命じるのだった。


***


 それから数時間が経った。

 私が戦いに備えて、魔道具の調子を確認していると、ダイモーンの里に続々と聖アリシア隊こと12小隊の面々が到着し始めた。


「アリシア様に付いていけないなんて、一生の不覚です……」

「よりにもよって戦場で、あるじの傍に居られないなんて――かくなる上は、責任を持ってこの場で切腹を――」

「待って!?」


 しょんぼりするリリアナと、クワッと目を見開くライラ。

 騒がしい面々であったが、合流できてほっとしたのも事実で。


「それよりリリアナ、またアルベルトが休んでろと意地悪を言うんです。リリアナからも何か言ってください」


 次の戦闘の準備をするため、ブヒオの隊の面々は忙しく動き回っているのだ。

 それは、魔王城の残った幹部と連絡を取り合う魔王とて同じこと。


 それなのに私は、まさかの救護室でお留守番。

 せっかくなので回復魔法をかけて回ろうかと思っていたら、何もせずに横になっていて!? と懇願されてしまう始末。解せぬ……。



「だそうですが、魔王様?」

「だって、アリシアったらあり得ない支援魔法を自分にかけ続けながら、1睡もせずにここまで走ってきたんだよ。その足で、そのまま戦場に向かっちゃうしさ――」

「……分かりました。そのまま横になりましょう、アリシア様!」

「なんで!?」


 こうして戦場に立つことは認めてもらえたものの、やっぱりアルベルトの過保護ぶりは健在であった。おまけにリリアナも私には甘いので、この2人が組むと手に負えなくなるのである。


「私なら元気です。これぐらいでどうにかなるような、ヤワな鍛え方はしてませんから!」


 キリッとした顔で答える私に、


「はいはい。そう言い出したときのアリシア様は、だいたい限界ですから――今日は眠りましょうね……」

「そうそう。万全に体調を保つのも大事な役目だよ」


 駄々っ子をあやすような口調のリリアナに、私はむす~っと唇をとがらせる。駄々っ子をあやすような、というか駄々っ子そのものな気もするが、きっと気のせいだ。

 こういう表情が表に出てしまうから、まだまだ子供っぽいと言われてしまうのだろうけど……。


 気が抜けたせいだろうか。

 こうして横にされると、何だか本当に眠くなってきて――


「アルベルトだって、一睡もしてないじゃないですか……」


 すう、すう……、と。

 そんな呟きを最後に、私の意識は闇に沈んでいくのだった。




「魔王様も、休んだらどうですか?」

「まだ忙しくて。とても休んでる暇なんて――」

「魔王様、さっきアリシア様になんて言いましたっけ?」

「うぐっ、君は痛いところを付いてくるねえ」


 アリシアが寝落ちした後の救護室では、そんな会話がなされていた。

 実のところリリアナは、魔道具いじりで徹夜して昼頃に寝落ちするアリシアを、少なくない回数見ていたりする。アルベルトにとって、それはアリシアの意外な一面であった。


「それでも、さすがに一緒に寝ようなんて気には、とてもとても……」

「……え?」

「え?」

「……魔王様!? え、まさかそんなことを考えて……?」

「誤解! 誤解だよ!」


 何故、そんなことを口走ったのかアルベルト自身でも謎であった。

 えぇっと驚き、若干引いた様子のリリアナを見て、慌てて否定の言葉を口にするアルベルト。



「意識のないアリシア様に対して――万が一があったら、いくら魔王様でも軽蔑しますからね!」

「しないって! しないからね!?」


 安心した様子で眠るアリシアは、こう見ていればやっぱり小さな少女の寝顔そのもので。その顔を見守るリリアナもまた、まるでアリシアの実の姉のように優しく微笑んでいた。



「それでも、アリシア様は私たち以外にも、心を許せる人ができたんですね」

「どういう意味?」

「アリシア様――心を許せる人の前じゃないと、決して眠ろうとはしませんから」


***


 そうして翌日の朝。



「ああ……、結局朝まで眠ってしまった――」


 妙に頭がスッキリしている。

 やっぱりリリアナやアルベルトの指摘どおり、気がつかない間に疲れが溜まっていたのかもしれない。戦場で、自分の疲労に無頓着になること――これは明らかな悪癖だ。



「おはよう、アリシア。よく眠れた?」

「おはようございます、アルベルト。はい! この調子なら、王国兵の1000人や2000人、軽く斬り倒せそうです!」

「はは、何だかアリシアらしい答えだね」


 私の言葉に、苦笑するアルベルト。


 あれだけ見栄を張りつつ、結局朝までぐーすか眠っていたのかと思うと、少しだけ恥ずかしくもなりつつ。

 まあ、今更見栄を張る必要もないか、とも思う。

 いや、これでも生涯のライバルだから、魔法とか戦闘面では張り合っていくつもりだけど!



 ばっちりと目を覚ました私を見て、


「今後の方針だけど――このまま、一気にディートリンデ砦に攻め入ろうと思うんだ」


 アルベルトは、おもむろに口を開くのだった。

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