一方的な戦い
戦地に向かった私たちが相対したのは、ダイモーンの里に攻め入ろうという作戦を取っていた王国兵たちだった。
「き、貴様は――魔女・アリシア!」
「本当に国を売ったのか!」
王国兵たちは、面白いように同じ反応をする。
最初は嘲ったような顔で私を見て、続いて恐怖に顔を青ざめさせて、最後には身勝手な憤怒を抱く。
まあ、私のやることは変わらないのだけど。
「あはっ、こんにちは。そして――さようなら」
巨大な鎌を振るい、視界に入った敵を片っ端から斬り伏せる。
返り血を拭い、次なる標的を探す。
「し、死ね! ばけものっ!」
「あはっ、それで隙を突いたつもり?」
私の命を狙うには、あまりに戦い方が杜撰だ。
背後から飛んできた魔法の銃弾を見もせず回避し、次の瞬間、私は声の主に斬りかかる。ろくな抵抗もできずに鎌で切り裂かれ、王国兵の男は絶命し、ドサッと地面に倒れるのだった。
私とアルベルトの役割は、敵陣の奥深くにまで潜り込み、できる限り派手に暴れることだ。
遊撃手として、敵に混乱を招くことが目的だった。
「相変わらず恐ろしい強さだね」
「魔王さんこそ」
魔王は相変わらず、見たこともない魔法で、敵兵を瞬殺していた。
この魔法があれば、たしかに魔道具なんて要らないんだろうなあ――なんて、場違いなことを考えてしまう。
遥か向こうでは、士気の高まったブヒオの隊が、これまた一方的に王国兵を屠っていた。もちろん、こちらの士気が高まっているというのもあるのだろうが……、
「あ、逃げた――」
「……ふむ」
敵わないと見るや否や、一目散に逃走を始める王国兵たち。
こう言っては何だが、あまりにも練度が低い。
ミスト砦で戦ったフローラの部隊と同程度か――下手すれば、それ以下だ。
やっぱり、恐れるべきはイルミナが率いている部隊だけ?
いえ、油断は禁物。相手の戦力を軽く見積もれば、そのまま足元を掬われかねない。
「アルベルト、追いかけますか?」
「今は、その必要はないさ。ここに来た目的は、あくまでブヒオの隊を守ることだったしね」
そう答えたアルベルトは、満足気に頷きかける。
彼の言うとおり、今、最優先で考えるべきは、この場所を守ることだ。少なくとも特務隊の面々と合流するまでは、深追いするべきではない。いずれはディートリンデ砦を取り返したいところだけど……、
「良くやった! 今は、深追いする必要はない――そのまま泳がせておけ」
ブヒオも、同じ考えだったのだろう。
遁走を始める王国兵を勝ち誇った顔で見送りながら、ブヒオは威厳に満ちた顔でそう部隊に命じるのだった。
***
それから数時間が経った。
私が戦いに備えて、魔道具の調子を確認していると、ダイモーンの里に続々と聖アリシア隊こと12小隊の面々が到着し始めた。
「アリシア様に付いていけないなんて、一生の不覚です……」
「よりにもよって戦場で、主の傍に居られないなんて――かくなる上は、責任を持ってこの場で切腹を――」
「待って!?」
しょんぼりするリリアナと、クワッと目を見開くライラ。
騒がしい面々であったが、合流できてほっとしたのも事実で。
「それよりリリアナ、またアルベルトが休んでろと意地悪を言うんです。リリアナからも何か言ってください」
次の戦闘の準備をするため、ブヒオの隊の面々は忙しく動き回っているのだ。
それは、魔王城の残った幹部と連絡を取り合う魔王とて同じこと。
それなのに私は、まさかの救護室でお留守番。
せっかくなので回復魔法をかけて回ろうかと思っていたら、何もせずに横になっていて!? と懇願されてしまう始末。解せぬ……。
「だそうですが、魔王様?」
「だって、アリシアったらあり得ない支援魔法を自分にかけ続けながら、1睡もせずにここまで走ってきたんだよ。その足で、そのまま戦場に向かっちゃうしさ――」
「……分かりました。そのまま横になりましょう、アリシア様!」
「なんで!?」
こうして戦場に立つことは認めてもらえたものの、やっぱりアルベルトの過保護ぶりは健在であった。おまけにリリアナも私には甘いので、この2人が組むと手に負えなくなるのである。
「私なら元気です。これぐらいでどうにかなるような、ヤワな鍛え方はしてませんから!」
キリッとした顔で答える私に、
「はいはい。そう言い出したときのアリシア様は、だいたい限界ですから――今日は眠りましょうね……」
「そうそう。万全に体調を保つのも大事な役目だよ」
駄々っ子をあやすような口調のリリアナに、私はむす~っと唇をとがらせる。駄々っ子をあやすような、というか駄々っ子そのものな気もするが、きっと気のせいだ。
こういう表情が表に出てしまうから、まだまだ子供っぽいと言われてしまうのだろうけど……。
気が抜けたせいだろうか。
こうして横にされると、何だか本当に眠くなってきて――
「アルベルトだって、一睡もしてないじゃないですか……」
すう、すう……、と。
そんな呟きを最後に、私の意識は闇に沈んでいくのだった。
「魔王様も、休んだらどうですか?」
「まだ忙しくて。とても休んでる暇なんて――」
「魔王様、さっきアリシア様になんて言いましたっけ?」
「うぐっ、君は痛いところを付いてくるねえ」
アリシアが寝落ちした後の救護室では、そんな会話がなされていた。
実のところリリアナは、魔道具いじりで徹夜して昼頃に寝落ちするアリシアを、少なくない回数見ていたりする。アルベルトにとって、それはアリシアの意外な一面であった。
「それでも、さすがに一緒に寝ようなんて気には、とてもとても……」
「……え?」
「え?」
「……魔王様!? え、まさかそんなことを考えて……?」
「誤解! 誤解だよ!」
何故、そんなことを口走ったのかアルベルト自身でも謎であった。
えぇっと驚き、若干引いた様子のリリアナを見て、慌てて否定の言葉を口にするアルベルト。
「意識のないアリシア様に対して――万が一があったら、いくら魔王様でも軽蔑しますからね!」
「しないって! しないからね!?」
安心した様子で眠るアリシアは、こう見ていればやっぱり小さな少女の寝顔そのもので。その顔を見守るリリアナもまた、まるでアリシアの実の姉のように優しく微笑んでいた。
「それでも、アリシア様は私たち以外にも、心を許せる人ができたんですね」
「どういう意味?」
「アリシア様――心を許せる人の前じゃないと、決して眠ろうとはしませんから」
***
そうして翌日の朝。
「ああ……、結局朝まで眠ってしまった――」
妙に頭がスッキリしている。
やっぱりリリアナやアルベルトの指摘どおり、気がつかない間に疲れが溜まっていたのかもしれない。戦場で、自分の疲労に無頓着になること――これは明らかな悪癖だ。
「おはよう、アリシア。よく眠れた?」
「おはようございます、アルベルト。はい! この調子なら、王国兵の1000人や2000人、軽く斬り倒せそうです!」
「はは、何だかアリシアらしい答えだね」
私の言葉に、苦笑するアルベルト。
あれだけ見栄を張りつつ、結局朝までぐーすか眠っていたのかと思うと、少しだけ恥ずかしくもなりつつ。
まあ、今更見栄を張る必要もないか、とも思う。
いや、これでも生涯のライバルだから、魔法とか戦闘面では張り合っていくつもりだけど!
ばっちりと目を覚ました私を見て、
「今後の方針だけど――このまま、一気にディートリンデ砦に攻め入ろうと思うんだ」
アルベルトは、おもむろに口を開くのだった。





