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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
10章 魔王様の大切な人
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一件落着、そして戦場へ――

「――それは違いますよ」


 研究棟で研究されていた魔道具は、たしかに魔族にとっては必要のないものだったのかもしれない。


 魔道具は、あくまで出来ないことを補佐するものだ。

 魔族たちの扱う魔法は、私たちが不得手とする破壊力に優れたものだ。少しの魔力で大きな破壊力を生み出す魔道具は、私たちにとっては喉から手が出るほど欲しいものだった。



「リリアナ、使ってみて下さい」

「良いんですか?」


 渡したのは、特務隊用に用意してもらった魔道具だ。

 これまで研究されていた爆弾型のもので、室長はどこか苦々しい表情でそれを見ていた。

 彼にとって、これは失敗の象徴となっているのかもしれない。



「魔力を注いで――」

「そろそろですね。遠くに放り投げて下さい!」

「……っ!」


 私の声に応えるように、リリアナが怪しく発光を始めた魔道具を天高く放り投げた。

 次の瞬間、轟音を立てて爆発する。

 天高くで爆発したにも関わらず、振動がこちらにまで伝わってくるほどの破壊力。



 やがて沈黙が訪れる。

 集まっていた魔族たちは、またか、とどこか呆れた表情で。一方、特務隊の面々はあ然とした表情で――それぞれ魔道具を見つめていた。


「長年の研究の成果がこれとはな――アリシア様の術式の素晴らしさを見た後では、なんと見劣りすることか……」


 自嘲気味に呟く室長だったが、



「え、ぇぇぇええ!?」

「嘘ぉ!? 魔族の魔道具、怖っ!」


 そんな言葉は、特務隊の面々から巻き起こったどよめきにかき消される。


 予想外の反応だったのだろう。

 その様子を見て、室長は目を瞬いた。


「これは、凄いですね」

「ええ。本当に――想像以上です」


 そう、これは私たちには手に入らなかったもの。

 リリアナの魔力で、発動させられたことに意味がある。


 私とリリアナもうなずき合う。

 あの冷静なリリアナが、ここまで取り乱すなんてよっぽどのことだ。



 魔族の扱う闇魔法は、攻撃に特化している。

 どうしても決定打に欠けがちな私たちにとって、改めて魅力的なものに映ったのだ。


「無駄になることなんて、ありません。あなたの研究は――間違いなく、私たちが一番欲しかったものです」


 こくこくと、特務隊の面々も頷いていた。

 補助魔法を駆使して、瞬発力を高めて、不意をついて、弱点を突いて――それでようやく届こうかという威力。少しの魔力を注ぐだけで、容易に生み出せる魔族の魔道具は、私たちにとって革命そのものだった。



 フレッグは、自らの成果を誇るでもなく、


「いいえ。我々だけでは、この価値を示すことは出来なかったでしょう――あなたが見出してくれたおかげです」


 晴れ晴れとした顔で、フレッグはそう言った。

 ようやく、これまでの研究成果が認められること――私が、そのきっかけになれたなら何よりだ。



「室長さん――いえ、フレッグ。末永くお願いしますね」


「わらわのも! わらわ達にも魔道具も、お願いするのじゃ!」

「これまで馬鹿にして悪かった! 俺も、俺もさっきのやつ使いたい!」

「俺だって――!」


 私の提案に、便乗するように口走る魔族たち。

 現金な話である。それでも率直な反応は、心から魔道具が欲しいと思っている証でもあり――



「ああ。こちらこそ……、できる限りのことはしよう」


 少しだけくたびれた様子で、だけども吹っ切れたような表情で、室長は深々と頭を下げるのだった。


 軍と研究棟のいがみ合いは、一応の決着を見せた。

 魔道具の入手先にも目処が経ち。



 一件落着かな。

 ――そう思っていたとき、



『緊急会議を開く! 魔王城内に居る幹部は、すぐに会議室に集まるように! 繰り返す――』


 魔法により、魔王城全体に呼びかけているのだろう。

 聞こえてきたのは、珍しく焦るアルベルトの声だった。



「どうしたんでしょう?」

「アリシア様、行ってください」


 リリアナに後のことを任せ、私は急ぎ会議室に向かうのだった。

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