魔道具の価値
そうしてやってきた訓練場。
魔道具の試験運用と言って、私は無理言ってフレッグにも付いてきてもらっていた。
「うん、うん。やってるわね」
今日も今日とて、ライラたちはフローラ相手に悪戦苦闘していた。
相手をおちょくり、分断し――絡め手を好むフローラの戦い方は、真っ直ぐな戦いを好む魔族には天敵とも言える物だ。
「みなさん、少し集まって下さい」
「おお、主!」
ぴょこっと狐耳を弾ませながら、ライラが近づいてくる。
「今日は、ちょっと試して欲しいことがあって」
「なんじゃ、なんじゃ?」
不思議そうに首を傾げるライラの手に、私は魔道具をそっと握らせる。
「これは……、わらわ達には必要ないものじゃぞ?」
「まあまあ、そう言わずに――」
それは簡単な支援効果を発動させる魔道具だ。
「魔力を込めたら爆発するのじゃろう? 噂は散々聞いたのじゃ」
「いやいや。爆発なんてしませんから……」
誰ですか、そんな噂を広めたのは。
じとーっと見つめると、何人かの魔族が気まずそうに目をそらした。
たしかに研究棟では、最終的には爆弾のように使う魔道具を中心に研究されていた。まずは、そのイメージを払拭する必要があるのかもしれない。
「少し魔力を込めて下さい」
「こうか?」
訝しげな顔をするライラ。
それでも、恐る恐るといった様子で魔力を注ぎ込み、
「な、なんなのじゃこれは!?」
驚愕の表情で、目を瞬く。
魔道具から温かい光が立ち上り、ライラを包み込んだのだ。魔道具に刻み込まれた支援魔法が発動した証である。
――良かった。
闇属性の魔力を、内部で変換する機構――机上の空論にならず、ちゃんと成功したようだ。
「どう、ライラちゃん?」
「すごいのじゃ! 体が羽のように軽いのじゃ!」
ライラは、嬉しそうにその場で飛び跳ねていたが、
「お覚悟なのじゃ……!」
目にも留まらぬ速さで、フローラに斬りかかっていった。
「な、なによその速度は!」
かろうじて反応したフローラであったが、その瞳には驚愕の色が覗く。
「ほれほれ、どうしたのじゃ!? いつもより、動きが鈍く見えるぞ?」
「しゃらくさいっ!」
フローラが杖を振るうと、その周囲を覆うように火柱が立ち昇る。ヒットアンドアウェイを繰り返すライラを、一気に倒そうという魔法であったが、
「甘いのじゃ!」
「……はあぁぁああ!?」
ライラは驚異的な反応を持って、回避してみせた。
くるくるっと宙返りしながら、こちらに戻ってきたライラは、
「何なのじゃこれは!?」
目を輝かせて、私にそう問いかけた。
ライラは、元々、傭兵として活躍していた少女だ。
魔道具への偏見も、他の魔族ほど浸透していなかったのだろう。
「なんだ今の!?」
「ライラ、ちょっとそれ貸してくれ!」
「俺も俺も! アリシア様からの贈り物使ってみたい!」
そして、ライラの素直な反応は、他の魔族たちの興味を引き出すことも成功していた。
「それを説明するのは――」
「そうですね。私から説明しましょうか」
一歩前に出たのは、研究棟のチームリーダーであるフレッグだ。
「その魔道具は、アリシア嬢の依頼を受けて用意していたものです――」
彼は、私が魔道具の提供を依頼したこと、魔道具に刻まれた術式が、私の提供であることを説明していった。
「それじゃあ、そこに刻まれている術式は、アリシア様の発案なのですね!?」
「おいおい、冗談きついぜ――人間は、こんなものを使って戦ってたというのか?」
「というかアリシア様って、魔術式にも精通しているんですか……」
訓練場にいた魔族から、畏怖と、どこか呆れの混じった視線が向けられる。
この人、ちょっと話を盛りすぎである。
「精通してるなんて、大げさ過ぎますよ。ちょっと気になることを提案しただけで――」
「おいおい、謙遜も過ぎれば嫌味だぞ? 最初に見せた魔道具だって、問題点をズバズバ指摘していったじゃないか」
「あれは――ええっと……」
「おまけに、簡単に改善案まで示してみせてよ。その通りに作り直したら、驚くほどに性能が上がったんだ。本当に……、軍の人間じゃなかったら迷わず引き抜くところだ」
「冗談きついですって――」
軽く笑い飛ばす私をよそに、
「な!? 渡さぬぞ!」
「そうです! アリシア様は、私たち特務隊の大事なリーダーなんですからね!」
ライラとリリアナは、何故だか慌てた様子で私を引き止めにかかる。
「なるほど、こちらでも随分と慕われているんですね」
「ええっと……」
反応に困った私は、曖昧に笑うのみ。
そんなやり取りを見て、フレッグは穏やかな顔でクスリと笑うのだった。
「おっちゃん、次の魔道具はいつ出来るんだ?」
「えぇ? それはだな……、少し急げば一週間後には――」
「ぬうう、待ちきれないのじゃ」
そわそわとしっぽを振るライラ。
すっかり魔道具の虜となってしまったようだ。更には他の魔族も、魔道具の試作品を使ってみたくて、うずうずしている様子。
「それにしても――ちょっと作り方を変えれば、こうも簡単に受け入れられるのだな……」
その様子を見て、室長はじみじみと呟くのだった。
「いいや。魔道具の有用性を示せなかった我らの落ち度か。我らが心血注いできた研究には、何の意味も無かったんだな――」
室長は、寂しそうにもう1つの試験用の魔道具に視線を送る。
それは魔族の扱う攻撃魔法を再現する魔道具で、これまでの研究成果が詰まっているもの。魔族たちからは、爆弾などと揶揄されており、その意義が誰にも認められなかったもの。
その様子を見て、
「――それは違いますよ」
私は、はっきりとそう答えるのだった。





