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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
10章 魔王様の大切な人
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魔道具の価値

 そうしてやってきた訓練場。

 魔道具の試験運用と言って、私は無理言ってフレッグにも付いてきてもらっていた。



「うん、うん。やってるわね」


 今日も今日とて、ライラたちはフローラ相手に悪戦苦闘していた。

 相手をおちょくり、分断し――絡め手を好むフローラの戦い方は、真っ直ぐな戦いを好む魔族には天敵とも言える物だ。



「みなさん、少し集まって下さい」

「おお、主!」


 ぴょこっと狐耳を弾ませながら、ライラが近づいてくる。



「今日は、ちょっと試して欲しいことがあって」

「なんじゃ、なんじゃ?」


 不思議そうに首を傾げるライラの手に、私は魔道具をそっと握らせる。



「これは……、わらわ達には必要ないものじゃぞ?」

「まあまあ、そう言わずに――」


 それは簡単な支援効果を発動させる魔道具だ。


「魔力を込めたら爆発するのじゃろう? 噂は散々聞いたのじゃ」

「いやいや。爆発なんてしませんから……」


 誰ですか、そんな噂を広めたのは。

 じとーっと見つめると、何人かの魔族が気まずそうに目をそらした。



 たしかに研究棟では、最終的には爆弾のように使う魔道具を中心に研究されていた。まずは、そのイメージを払拭する必要があるのかもしれない。


「少し魔力を込めて下さい」

「こうか?」


 訝しげな顔をするライラ。

 それでも、恐る恐るといった様子で魔力を注ぎ込み、



「な、なんなのじゃこれは!?」


 驚愕の表情で、目を瞬く。

 魔道具から温かい光が立ち上り、ライラを包み込んだのだ。魔道具に刻み込まれた支援魔法が発動した証である。


 ――良かった。

 闇属性の魔力を、内部で変換する機構――机上の空論にならず、ちゃんと成功したようだ。


「どう、ライラちゃん?」

「すごいのじゃ! 体が羽のように軽いのじゃ!」


 ライラは、嬉しそうにその場で飛び跳ねていたが、



「お覚悟なのじゃ……!」


 目にも留まらぬ速さで、フローラに斬りかかっていった。



「な、なによその速度は!」


 かろうじて反応したフローラであったが、その瞳には驚愕の色が覗く。



「ほれほれ、どうしたのじゃ!? いつもより、動きが鈍く見えるぞ?」

「しゃらくさいっ!」


 フローラが杖を振るうと、その周囲を覆うように火柱が立ち昇る。ヒットアンドアウェイを繰り返すライラを、一気に倒そうという魔法であったが、


「甘いのじゃ!」

「……はあぁぁああ!?」


 ライラは驚異的な反応を持って、回避してみせた。

 くるくるっと宙返りしながら、こちらに戻ってきたライラは、


「何なのじゃこれは!?」


 目を輝かせて、私にそう問いかけた。


 ライラは、元々、傭兵として活躍していた少女だ。

 魔道具への偏見も、他の魔族ほど浸透していなかったのだろう。



「なんだ今の!?」

「ライラ、ちょっとそれ貸してくれ!」

「俺も俺も! アリシア様からの贈り物使ってみたい!」


 そして、ライラの素直な反応は、他の魔族たちの興味を引き出すことも成功していた。


「それを説明するのは――」

「そうですね。私から説明しましょうか」


 一歩前に出たのは、研究棟のチームリーダーであるフレッグだ。



「その魔道具は、アリシア嬢の依頼を受けて用意していたものです――」


 彼は、私が魔道具の提供を依頼したこと、魔道具に刻まれた術式が、私の提供であることを説明していった。



「それじゃあ、そこに刻まれている術式は、アリシア様の発案なのですね!?」

「おいおい、冗談きついぜ――人間は、こんなものを使って戦ってたというのか?」

「というかアリシア様って、魔術式にも精通しているんですか……」


 訓練場にいた魔族から、畏怖と、どこか呆れの混じった視線が向けられる。

 この人、ちょっと話を盛りすぎである。



「精通してるなんて、大げさ過ぎますよ。ちょっと気になることを提案しただけで――」

「おいおい、謙遜も過ぎれば嫌味だぞ? 最初に見せた魔道具だって、問題点をズバズバ指摘していったじゃないか」


「あれは――ええっと……」

「おまけに、簡単に改善案まで示してみせてよ。その通りに作り直したら、驚くほどに性能が上がったんだ。本当に……、軍の人間じゃなかったら迷わず引き抜くところだ」


「冗談きついですって――」


 軽く笑い飛ばす私をよそに、



「な!? 渡さぬぞ!」

「そうです! アリシア様は、私たち特務隊の大事なリーダーなんですからね!」


 ライラとリリアナは、何故だか慌てた様子で私を引き止めにかかる。



「なるほど、こちらでも随分と慕われているんですね」

「ええっと……」


 反応に困った私は、曖昧に笑うのみ。

 そんなやり取りを見て、フレッグは穏やかな顔でクスリと笑うのだった。



「おっちゃん、次の魔道具はいつ出来るんだ?」

「えぇ? それはだな……、少し急げば一週間後には――」

「ぬうう、待ちきれないのじゃ」


 そわそわとしっぽを振るライラ。

 すっかり魔道具の虜となってしまったようだ。更には他の魔族も、魔道具の試作品を使ってみたくて、うずうずしている様子。



「それにしても――ちょっと作り方を変えれば、こうも簡単に受け入れられるのだな……」


 その様子を見て、室長はじみじみと呟くのだった。



「いいや。魔道具の有用性を示せなかった我らの落ち度か。我らが心血注いできた研究には、何の意味も無かったんだな――」


 室長は、寂しそうにもう1つの試験用の魔道具に視線を送る。

 それは魔族の扱う攻撃魔法を再現する魔道具で、これまでの研究成果が詰まっているもの。魔族たちからは、爆弾などと揶揄されており、その意義が誰にも認められなかったもの。


 その様子を見て、


「――それは違いますよ」


 私は、はっきりとそう答えるのだった。


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