魔道具って便利ですね!?
「ここを、こうして――こう!」
「な、なるほど!」
数時間後。
私は――研究棟の面々と、魔道具の術式について熱く語り合っていた! 時間は深夜になろうとしていたが、私も研究員たちもすっかり夢中になっていた。
「いっそのこと威力だけを求めるなら、もっと術式を増やしても良いかもしれませんね?」
「そ、そんなことをしたら、扱い間違えると自爆してしまうのでは!?」
「ふっふっふ、そこはですね――」
実のところ、魔道具いじりは数少ない私の趣味である。
闇魔法を中心に栄えた魔族の魔道具は、私にとっては物珍しく興味は尽きない。
「さすがは王国の聖女! 魔術式にここまで精通しておられるとは……!」
「褒めても何も出ませんよ? 私も魔族の術式をこの目で見られて、とても楽しいです!」
「はっはっは、そうだろう、そうだろう!」
「アリシア様、そろそろお時間が――」
リリアナが、おずおずと声をかけてきた。
あっと、いけない。
明日も訓練があるのに、ついつい夢中になり過ぎてしまったようだ。
ここに来た、当初の目的は――
記憶を頼りに、私は空中にいくつかの魔術式を描き出した。
「その……、こんなものを作って欲しいのですが――」
私がここに来たのは、魔道具を新調するためだ。
私がせっせと作って特務隊のみんなに渡していた魔道具は、王国での事件で失われてしまったのだ。またイチから作り直していては、時間がかかりすぎる。確かな腕を持つ者の助けが欲しかったのだ。
研究棟と言いつつ、作っていたものはシンプルな魔術式が刻まれた爆弾のみ。最初は魔道具作りを任せることに不安もあったが、今は、ここに居る研究員たちの腕は確かなものだと確信していた。
「見たことのない術式ですな。それは?」
「以前、私たちが使っていた魔道具の術式です。できる限り小型化して、せっかくなので量産できればと――」
報酬は、特務隊の経費から落とすとして……。
私の提案に、研究員たちはあんぐりと口を開いていた。
さ、さすがに、こんな急な依頼は迷惑ですよね。
「それは――王国の聖女の魔道具の術式!」
「企業秘密なのでは? 我々に教えても大丈夫なのですか!?」
と思ったら、全然、別の理由だった。
「私たちは、ともに王国と戦うパートナーじゃないですか――知ってる知識を提供するのは当然ですよ」
「そう、……そうだな」
思えば、王国では足の引っ張りあいに巻き込まれ、真っ当な成果は、誰にも認められることはなかった。どうしてあの人たちは、誰も大切なもののために協力しようと素直に思えないのだろう。
私にとっては、当たり前のこと。
それでもフレッグは、しみじみとうなずき、
「依頼、たしかに承った。我々が、できる限り協力しよう」
と力強く言い切るのだった。
***
数日後。
私の執務室には、研究棟の面々が寄越した魔道具のサンプルがいくつか届けられた。
「アリシア様、どうですか?」
「少々のチューニングは必要そうですが――バッチリです。私たち用の術式と――こっちは……、魔族用の物ですね」
私が、魔道具を手に取ると、リリアナが恐る恐るといった表情で手に取った。
それは簡素な金属板に、魔術式を刻み込んだだけのシンプルな作りだ。おそらくは試作品なのだろうが、彫られた魔術式の精度は十分に見える。
「リリアナ、どう思いますか?」
「はい。相変わらずアリシア様の術式は美しいなと――」
「いや、そうじゃなくて……」
大真面目な顔でボケるリリアナに突っ込みつつ、
「使い物になると思いますか?」
「真面目に分析するなら――アリシア様の規格外の魔道具に比べれば、どうしても効率は下がりますが……、十分だとは思います」
「やっぱり、使い慣れた魔道具が一番ですからね」
リリアナの大げさな褒め言葉は置いておいて、たしかに私も自分で作った方が扱いやすいとは感じていた。
それでも、実戦で使えないことはないと思う。
「よし、そうと決まれば行きましょうか!」
「……どこに?」
「まずはライラたちに、魔道具のありがたさを理解してもらわないとね」





