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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
10章 魔王様の大切な人
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アリシア、研究棟の面々を驚愕させる

「ええっと、これを身に着ければ良いのですか?」


 私は、魔道具に刻まれた術式の効果を読み解く。

 どうやら魔力を吸い取り、貯蓄しておくための魔道具のようだった。


 魔術師にとって魔力は生命線だ。

 実際、私も昔は愛用していた。


 しかし、この魔道具に刻まれた術式は、どうにも効率が悪そうに見える。

 これでは吸い出した魔力の半分ぐらいしかストックできないし、そもそも限界を超えたら魔道具が自壊してしまうと思うのだけど……、


「どうしたのですか?」

「いえ、あの……、私が付けても大丈夫なんですよね?」


「ああ。もちろんだよ」


 鷹揚にフレッグが頷いた。

 なら――大丈夫か。私のような素人が見て感じた疑問を、プロが気が付かないはずがないし。

 私は、静かに指輪を装着する。



 だ、大丈夫かな?

 私は、そろそろと魔道具の魔力を渡していく。

 魔力を吸い出そうとするペースに合わせて、なるべく慎重に――



 それでも…、

 ピキピキッ


「なっ!?」

「嘘だろう……!?」


 あっ……、しまったと思う間もなく魔道具にヒビが入る。

 そのまま手の施しようもなく、魔道具は粉々に砕け散ってしまった。



「す、すいません……!」


 やってしまった!

 あんぐりと口を空けている研究員を前に、私はぺこぺこと頭を下げる。


 元々、研究棟と軍部は仲が悪い。

 これがきっかけで、更に関係性が悪化したらどうしよう。

 

 

 そんな心配をしていた私だったが、


「それほどの魔力を注いで、体はなんともないのか?」


 研究員たちは、何故か、私の体を心配してきた。


「ええ、別に……」


「くそっ。魔道具の暴走か? まさか、こんなになるまで魔力を吸い続けるなんて……!」

「あれだけの魔力を渡して、なんでアリシア嬢は平然と立っているんだ!?」


 研究員たちは、混乱した様子で、壊れた魔道具と私を交互に見ている。



「さすがはアリシア様! どうしてくれようと思っていましたが、このような方法で意趣返しするんですね!」

「ご、誤解ですって、リリアナ!?」


 そしてリリアナは、何故か目を輝かせていた。



 弁償を求められるのかな……?

 そう不安に思う私だったが、研究員たちは、バツが悪そうな顔でこちらを見てくるのみ。私の視線を受けたフレッグは、重々しく口を開き、


「まさか、このようなことになるとは――」

 

 事の顛末を説明し始めた。


「結局、我々は魔王様のお気に入りであるアリシア嬢に、嫉妬していたんですよ――」


 フレッグが語ったのは、研究員としての苦悩だった。

 チームがどんな成果をあげても、その魔道具が日の目を見ることはない。軍が少しでも魔道具に興味を示せば、また話は変わったはずなのに――このままでは、そう遠くない将来、このチームは解散になってしまうだろうと言う。


「え、そんな勿体ない!?」

「……え?」

「あ、いや。すいません――続けて下さい」


 そんな上手くいかない日々の中。

 ただでさえ魔王のお気に入りであり、軍でも目覚ましい勢いで小隊長になった私が、白々しい言葉とともに自分の領域に踏み込んできたのだ。魔道具に興味もない癖に――



「魔力を吸い取る魔道具を渡して、ちょっぴり脅かせば、すぐに逃げ帰るだろうと思っていたんです……」

「信じられません! まったく、アリシア様に何てことを……!」

「返す言葉もありません。ですが、私の下らない嫉妬に突き合わされた彼らに責任はありません――罰なら、どうか私一人に」


 フレッグが、深々と頭を下げる。

 頭を下げるぐらいなら、最初からやらなければ良いのに……、と今更言っても仕方のないことか。



 別に、実害はない。

 どちらかといえば、魔道具を1つ破壊してしまった私の方が悪いまである。

  


「アリシア様……?」

「いいえ、そうですね――」


 リリアナの顔に浮かんでいたのは、どうしますか? という無言の疑問。



 室内の魔族が私を見る目には、どことなく畏怖が混じっている。

 自分のしたことを恐れ、得体の知れない力を見せた私に怯えるような視線――面倒くさい。脅して言うことを聞かせてしまおうか、とも、私は一瞬考えた。

 今、罪悪感につけこんで、ここを使わせて欲しいと命令すれば、きっと許可を貰えるだろう。



「いいえ、それは良くありませんね」


 魔族として復活した直後の私なら、強硬手段に出ていたかもしれない。

 だけど魔族たちに力を貸すと決めた今、少し冷静に考える必要があるだろう。味方は多い方が良い――思い出すのは、分かり合うことを諦めてはいけないよ、という孤児院長の言葉だった。


 もちろん、私たち特務隊が舐められてはいけない。

 私は、考え込みながら魔術式を空中に描いていく。描いたのは、先ほど魔道具に刻まれていた術式だ。


「なっ!? 貴様、どこでその設計図を知った!?」

「設計図なんて見るまでもありません。一度見れば、この程度の術式は理解できますが?」


「ば、馬鹿なっ!」


 ギョッとした顔で、フレッグは目を見開いた。

 そんな様子に頓着せず、私は、刻まれた術式を見て思ったことを口にしていく。



「ここの術式……、変換効率が悪すぎますね」

「…………は?」

「ここをこうするだけで、魔力が円滑に流れるとは思いませんか?」

「た、たしかに……!」


 私は、魔術式を小さく書き換えていく。

 その様子を見て、私に怯えるばかりだった研究員が、興味深そうに覗き込んできた。良い傾向だ。



「そもそも、ここの術式は束ねられます。ここを、こうして、こうすれば――こんな感じに小型化できると思います」

「おおぉぉ……!」


 最終的に生まれた魔術式を見て、研究員たちが感嘆の声を漏らした。中には、熱心にメモを取っている者までいる。


 私の魔術式の知識は、本の知識を元にした独学だ。

 現役のプロから見れば、大したものではないだろうに。きっと王国の技術が、魔王城では珍しく映ったのだろう。



 これで少しは、私が本気で特務隊で魔道具を使いたいと願っていることは伝わっただろうか。


「いや、アリシア様の術式アレンジは、王国でも五本の指に入っていたと思いますよ?」

「リリアナは大げさですって……」


 リリアナは、何故かじとーっとした目で私を見てくるのだった。

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