リリアナと模擬戦!
それから私は、久々に特務隊の面々の訓練に混ざることにした。
まずは体力作りの基礎トレーニング。
軽く走り込み、続いて魔力制御の練習に移る。ほどよく汗をかいたところで、今日は1対1での模擬戦をすることになった。
「リリアナ、久々にどう?」
「喜んで。手加減はしませんよ!」
特務隊で、私と一番実力が近いのはリリアナだ。
こうして共に訓練できることを喜びを分かち合うように、私たちは武器をぶつけ合う。王国の陰謀に巻き込まれた直後には、二度と叶わぬだろうと思った時間だ。
こうして、敵地で蘇ったのに。
戦わないで良いと言われても、結局、私はこうして武器を手にしている。こうして武器を振るっていると落ち着くのだ。
それにしても、リリアナもまた腕を上げたな……。
感慨深くリリアナと対峙していると、
「ところでアリシア様、魔王様とはどこまで進んだのですか?」
リリアナがそんなことを言い出し、私はむせてしまう。
「ぶはっ……!? リリアナ!?」
「隙ありっ!」
しまっ――!
一瞬、私の意識が乱れたのと同時に、リリアナが魔法で追撃をしかけてきた。くるくるっと鎌が弾かれ、気がつけば武器を突きつけられていた。
「ふふ、アリシア様の意外な弱点見つけちゃいました」
「む~……、卑怯ですよ!?」
負けは負けだ。
そういえばリリアナは、昔から私の気を逸らす作戦を多用してたっけ。珍しいきのこが生えてますよ~、なんて誘いに引っかかていた私も私だけど……。
どこか子供っぽい仕草で負けを認める私を、リリアナは呆れたような目で見てきた。こんなやり取りすらも、どこか懐かしい。
とりあえず言っておくべきこととしては!
「別に私とアルベルトは、そんなんじゃないですからね!? まったく……、リリアナったら、いきなり何を言い出すかと思えば――」
「ごめんなさい、まさかそこまで反応するとは……」
リリアナは不思議そうに、目を瞬かせているようだった。
それから私たちは、他愛のない話をした。
「魔王様は良くしてくださって不満はないのですが、どうにも魔道具が手に入りづらいのが難点ですね――」
魔族の間では、魔道具が広く浸透しているとは言い難いのが実情だ。
人類と魔族では、基本的には魔族の方が身体能力は優れている。その差を埋めるために、私たち人間は戦術や補助魔術を駆使してきたわけだが、魔族たちはあまりその重要性に気が付いていないようだった。
「アリシア様の作った魔道具が奪われてしまったのが、手痛いですね……」
「大量に作れる物じゃありませんしね……」
魔道具を活かした戦い方をしてきた私たちにとって、魔道具が手に入らないのは死活問題だった。
「研究棟の方たちに頼めば、手に入りますかね?」
どうしたものかと考えていると、
「アリシア様、なんだか向こうが騒がしいですね?」
リリアナが首を傾げながら、訓練場の一角に視線を送る。
いつの間にか訓練場の片隅に、見慣れない集団が現れていたのだ。今の時間は、私達が予約している。それに魔王軍の人間なら、多少なりとも見覚えがあると思うのだけど……。
「ライラたちは、フローラ相手に訓練してるはずよね? いったい、どうしたのかしら……」
「アリシア様、どうなさいますか?」
「放っておく訳にはいかないですね」
面倒事の予感。
それでも部隊の長として、放置する訳にはいかないだろう。
「困りますなあ。我々の新商品開発のためには、そこの女から取れるデータが必要だというのに……」
「なんだと!? わらわ達の訓練を邪魔しようというのか!?」
近づいてみると、そんな言い争う声が聞こえてきた。
リーダー格の男は、蛙顔の魔族で、真っ白な白衣を身に着けている。それは魔王公認の研究棟に所属していることを示す証だった。
あまり私は関わったことは無かったが、日々怪しげな実験をしていた集団(ブヒオさん談)とのことだっけ。
「別に訓練の邪魔をするつもりはない。ただその女を、我らに提供せよと言っているのだ!」
「だから訓練中だと言っているだろう!」
「そうだそうだ! 用があるなら訓練の後にしてくれ!」
聞いてみれば、研究棟の面々は、実験のためにフローラを引き渡せと要求しているようだった。フローラが捕虜として地下牢に囚われていた時、研究棟の面々は、フローラを使って聖魔法の実験を盛んに行っていたようだ。
私の配下になってから、フローラへの非人道的な扱いは無くなっている。しかし研究棟の職員にとっては、フローラが来なくなったことにより、研究が滞っているのだろう。
訓練していた魔族たちは、険悪な空気で研究棟の面々と睨み合っていた。
研究棟の人間は、エリートも多い頭脳派集団だ。腕っぷしで成り上がってきた軍の人間と、いがみ合っている者も多い。
一触即発の空気だったが、
「仕方ない。アリシア隊の訓練が終わるのはいつ頃だ?」
「なんじゃ? 遅くても日が沈む頃には解散しておるぞ」
「それなら――」
研究棟の人間が、妥協することにしたようだ。
訓練が終わった後に、フローラを貸して欲しいという考え。それは彼らにとっては、自然な発想なのだろう。張本人のフローラは、口を挟むこともなく恐怖で真っ青になっていた。
フローラは、今や魔王城で最も弱い立場にある人間だ。
命じられれば逆らえるはずもなく、この場に彼女を助けようと思う人間も居るはずがない。
自業自得と言えば自業自得だ。魔族たちに、それを止める理由はない。……それは私にとっても同じだったが、
――やだな
と、そう思ってしまった。
自分でも不思議な感情だったけれど。
地下牢でボロボロになって拘束されていた姿を見たときと同じ不快感で……、ああ、そうか。魔族に協力して戦うと決めた今、魔王城に住む人たちに、王国の奴らと同じことをして欲しくないのか。
「みなさん、なんの騒ぎですか?」
だから私は、口を挟むことにした。





