特訓しましょう
翌日、私は訓練場を訪れていた。
ライラたちが真面目に訓練に打ち込んでいるか気になったのと、フローラの監視のためだ。
「あははは、聖アリシア隊なんて言って――その程度なの?」
目的地にたどり着いた私が見たのは、魔族たちをなぎ倒して、訓練場の中央で高笑いするフローラの姿だった。
実に、良い笑みを浮かべている。
「おのれ、偽聖女の癖に!」
「くそっ、なぜ届かない……!」
地に伏した魔族たちが、悔しそうに呻いていた。
「今のアプローチは良かったですよ。タイミングを合わせて襲いかかるだけでも、随分と対応しづらそうにしてましたからね」
「じゃが、最後にはあっさり躱されたぞ。いったい、どうすれば良いのじゃ!?」
「これだけ人数がいるんです。良いですか、相手の隙を付くんです」
戦闘の内容をもとに、リリアナがアドバイスしている。
魔族たちは苦手とする連携を練習するために、色々と我慢してきたのだろう。不満も溜まっているはずだが、不思議と彼らが不平を口にすることはなかった。
「もう1回、もう1回なのじゃ!」
「まだやるつもりなの? いい加減に諦めてくれないかしら?」
「命令じゃ、これは命令じゃぞ!」
「ちっ……。面倒な――」
フローラは、真面目に役割をこなしているようだ。
もちろん、従属紋の命令に逆らえないというのもあるだろうが、割とノリ気で訓練を引き受けているように見える。
「あ、アリシア様!」
私が興味深く眺めていると、リリアナが数人の特務隊の隊員を引き連れて、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「今日は何の用ですか?」
「いえ、訓練が上手くいってるか確認しようと思って」
「それなら心配要りませんね。ライラさんを筆頭に、みなさんやる気に満ち溢れてます!」
「ええ、殺る気に満ち溢れてるわね……」
どりゃあああ、と魔族たちの咆哮が聞こえてきた。
煽るようなことを口にしたフローラだったが、魔族たちの本気の殺意の籠もった拳が迫り、涙目になっていた。必死の形相で回避しながら、無力化に成功しているのは、聖女を名乗った者の意地といったところか。
「フローラ、意外と真面目にやってるのね」
「あー、それは副長が初日に決闘でボッコボコにしたのも関係しているかもしれませんね」
「アリシア様の前で、余計なこと言わないで下さい!」
傍に来ていた特務隊隊員の言葉に、恥ずかしそうにリリアナが突っ込む。
「ええっと、ボッコボコに?」
「元奴隷どもが、なにを一丁前に教官を気取ってるのなんて仲間を馬鹿にされて――つい」
「あー、なるほど……」
不穏な言葉に眉をひそめたが、なんてことはなくフローラの自業自得だった!
リリアナとフローラなら、そりゃリリアナの方が圧倒的に強い。優位に立とうとしてきたフローラを相手に、逆に決闘という形で格の差を見せつけたらしい。
それからというもの、従属紋関係なく、フローラはリリアナには頭が上がらないとかなんとか。
「リリアナは、あいつのことが憎くないの? もっと、奴隷としてこき使ってるのかと思ってた」
「そりゃ憎いですよ。アリシア様をあんな目に合わせて、私たちだって何をされたことか――」
私の質問に、リリアナは淡々と答えた。
「だからといって、私たちがあいつと同じ場所まで堕ちる必要はない――そう思ったんです」
「私は、別に構わないと思うけど……?」
「だとしても、ですよ。あいつが何を言っていても気にせず、相手にせず、ただ同じ隊の隊員として働かせること――あいつのことを、もう考えないこと。それが、私にとっての復讐です」
そう話すリリアナの顔は、晴れやかだった。
リリアナの中で、結論が出たのだろう。過去の出来事とどう向き合うか――それは、本人にしか導き出せないことだ。
実のところ、私はまだフローラとの折り合いの付け方を見つけられていない。
地下牢でただ痛めつけられるフローラを見て、これは愉快な景色ではないと思ったのは事実。やるなら自分の手で――そう思って、一度は殺そうとして……、あまりに安堵した顔をするから殺意が失せてしまって。
「精々、役に立ってちょうだいな」
戦争を生き残るため――そして、復讐を完遂するため。
魔族たちの攻撃を必死にいなすフローラを見ながら、私は小さく呟くのだった。





