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魔族たちに足りないもの

「「「れんけい?」」」


 私の言葉を聞いて、きょとんと首をかしげる魔族たち。

 そんな概念は初めて聞いたと言わんばかりの様子に、頭が痛くなる。



「勝てないなと思った相手にあったとき、今まではどうしてきたんですか?」

「勿論、真正面からぶつかってみるまでじゃ。わらわの方が強ければ生き残って、相手の方が強ければ死ぬ。それだけのことじゃ」


 何故か胸を張って答えるライラ。


 それはたしかに自然の摂理である。

 ライラが発した言葉に、誰も異を唱えない。それが魔族たちにとっての常識なのだろう。



「相手の方が強くて、それでも生き残らないといけない場合は?」

「逃げるが勝ちじゃ!」

「囲まれてて逃げられないなら?」

「それは――」


 ライラは、困ったように口ごもる。


「そんな状況でも生き残れるように考えるのが、私やライラ――リーダーが考えるべきことなの」

「むう……、分かったのじゃ!」


 これで反対されたら、魔族と人間で価値観を同じくするのは大変そうだ――そう考えていたが、どうやら杞憂で済みそうだ。

 私の言葉に、ライラはしっかりと頷いてみせた。



「例えば、ユーリの戦い方は良かったと思います。自分のやれることと、相手の強さをきちんと認識して――その上で、やれる最善のことをやっていたと思います」

「アリシア様には、あっさり防がれました……」

「結果的には、ですけどね。そうですね――まずは、そういう力だけに頼らない戦い方を、皆で少しずつ探してみて下さい」


 連携とは己に足りない部分を補い合うために、他者と協力することだ。そもそも自分の強みや足りない部分を知らずに工夫することもなければ、到底たどり着きようがないだろう。


「そんなに悩まないで大丈夫ですよ。少しずつ、少しずつやっていきましょう」

「それが人間の強さ、なのじゃな――」


 難しい顔をして黙り込んでしまった魔族たち。

 そんな空気をやわらげるように、リリアナがライラを励まそうと話しかけていた。



「まずはアリシア様の考案された、いろいろな作戦を試していくのが良いと思います。ライラさん、よろしければこの後、図書館に行って――」

「うう、頭を使うのは嫌いなのじゃ……」

「なら、アリシア様直筆の戦術指南書も要らないんですね?」

「(ガタッ!)それは読むのじゃ!」


 何しているんだ、あの2人……。

 模擬戦が終わり、不思議と特務隊メンバーと魔族の新メンバーの間に交流が生まれつつある。

 そうして和やかな空気が流れかけたとき、



「随分と、無駄なことやってるのね」


 その空気をぶち壊すような冷ややかな声が響いた。


 声の主は、フローラ。

 彼女は王国で私を処刑に追いやった張本人で、ミスト砦の戦いで魔王軍の手に落ちた王国の聖女だ。殺すか聖女の力を人体実験するか、魔王城では扱いに悩んでいたが、最終的には私が従属紋を施し、奴隷とすることで決着している。

 ちなみに今は、従属紋を通じた命令により、特務隊のメンバーの誰にも逆らえない状態で、日々こき使われているはずだった。



 フローラは、煽るように口を挟んでくる。


「弱っちい人は、なにをやっても敗北者。そこの犬耳少年だって、結局、手も足も出なかったじゃない」


 フローラが矛先を向けたのは、ユーリだった。

 ユーリが、自分より弱いと見ての言葉だろう。フローラは、いちゃもんを付けて悲しむ相手を嘲笑おうと考えているのだ。


 その目論見は、あっさり空振りすることになる。



「あなたはつまらない人ですね」

「なんですって!?」

「アリシア様には敵わないから、僕に声をかけてきたんですね。弱っちいからこそ、あがくんです――何者かになりたくて。そんな言葉が僕を傷つけると思ってるなんて……、本当にアリシア様の足元にも及ばないつまらない人ですね」


 ユーリの言葉は、辛辣だった。

 強烈なカウンターを喰らい、フローラは口をパクパクさせている。


「虚勢を張っても無駄よ。あなたが誰よりも弱いのは事実で――」

「黙りなさい。誰の許可を得て、口を挟んだのかしら」


 なおも何かを言い募るフローラ。

 そんな彼女に、リリアナが冷たい目を向けた。従属紋による命令――それだけでフローラは、強制的に黙らされる。


「申し訳ございません、アリシア様。不快な思いをさせて――あなたは向こうで、倉庫の掃除でもしてなさい」


 そうフローラに命じるリリアナ。

 そういえば以前、フローラはリリアナを奴隷として酷使していた。今、すっかり立場が逆転しているのは、因果応報といったところだろうか。


 立ち去ろうとするフローラを、憎々しげに睨みつける魔族たち。彼らにとってもフローラが私と敵対していたのは周知の事実であり、態度も合わさりフローラはすっかり憎むべき対象となっているようだった。


 もっとも捕虜であり、私の所有物となったフローラに私刑を加えることは、許されないのだけど。

 ……そうだ。



「待ちなさい、フローラ」


 腐ってもフローラは、聖女のちからを持っている。

 仮想敵として、持って来いではないだろうか。


 フローラは、うって変わって怯えた目で私を見てきた。

 ああして一方的に喧嘩を売ってきた割に、ちょっと呼び止められただけでこの怯えよう。一時期は、前にしただけで、視界が真っ赤になるほどの殺意に襲われる憎い相手だったけどど、今は、ああつまらない人間だなあ、という感想が湧くだけだ。



「フローラ、明日から魔族のトレーニング相手をしなさい。怪我させるのは無し――模擬戦ではできるだけ傷つけず、無傷で捕縛なさい」

「かしこまりました」


 なんで私がそんなことを!

 という表情のフローラだったが、渋々、口から出てくるのは承諾の言葉。

 恨むなら、面倒な絡みをしてきた自分を恨むのね。



 私は引き続き、魔族たちに向き合った。


「知ってのとおり、フローラは聖女としての力を持つ人間。魔族にとっては天敵とも言える力――普通に戦えば厳しい相手でしょうけれど……できる限りの工夫をして、見事に打ち倒してみせなさい」

「……良いのか?」

「ええ、殺さなければ何をしても大丈夫。とにかく個人プレーじゃなくて色々な戦いを――」

「「「うおおお、アリシア様の許可が出たぞ! 正々堂々と、憎き偽聖女に目に物を見せてやれるぞ!!」」」


 盛り上がる魔族たち。

 この人たち、どれだけフローラのことが嫌いなんだと呆れるほどの熱気。これにはフローラも、ヒエッと、引きつった笑みを浮かべていた。

 恨むなら、己のこれまでの振る舞いを恨むことね。



 私の見立てでは、今の魔族たちとフローラなら、おそらくフローラの方が強いだろう。あまり連携に乗り気でなかった魔族たちも、フローラを倒すためなら全力を尽くすだろう。

 魔族たちの士気は限りなく高く、理想的な強さの相手だろう。


「ふう。良い訓練法が見つかって良かった」


 私は満足して、特務隊の面々と合流するのだった。



「……うそでしょ?」


 そんなフローラの呟きを背中に受けながら。

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