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激化する戦争

本日二度目の更新です!

読んでないかたはご注意を……

 シュテイン王子による演説から1ヶ月。

 魔王軍の幹部会議では、日々、激化する戦闘についての対処に追われていた。あの宣言からヴァイス王国軍の活動が活性化しており、各地での戦いは激化の一途を辿っていたのだ。



「魔王様、こちらからも打って出るべきです!」

「舐めた真似をしてくれた人間どもを、血祭りにあげてみせましょうぞ!」


 血気盛んに、そんなことを主張する者も居る。

 12名居る幹部のうち、半数は今も戦地で防衛にあたっていた。映像を映し出す魔道具により、作戦会議室内には、不在者のホログラムが映し出されていた。



 戦線は一見、拮抗しているように見える。

 しかし兵の総力は、ヴァイス王国とレジエンテの連合軍の方が大きいのは明らかだった。このまま消耗戦が続けばジリ貧だ。


 特に戦闘が激化しているのは、ヴァイス王国から最短距離で魔族領に向かおうとすると通ることになるディートリンデ砦だ。


 非武装地帯を挟んで二つの拠点が睨み合っており、そこは魔族領と人間領の境界になっていた。長年、戦いが無かった緩衝地帯にも、ヴァイス王国は民間人の犠牲など意に介さず踏み込んできたのだ。ディートリンデ砦が落ちれば、戦局は一気にヴァイス王国に傾くことになる。

 魔族幹部たちの焦りも当然だった。



「相手の兵力も、作戦も不明。そんな中、突撃するのは自殺行為だぞ!?」

「だからといって、このまま手をこまねいているのは黙って死を待つようなものだろう」

「我々、魔王軍の武器はなんだ! 圧倒的な個々の戦力だ。小賢しい策など必要ない――真正面から叩き潰せば良い!」


 喧々諤々と、幹部たちは言い合っていた。

 とても意見がまとまる様子はない。そんな話し合いを、アルベルトは渋い顔で聞いていた。


「どうするつもりなのですか、アルベルト?」

「ディートリンデ砦には、ブヒオの隊を援軍で向かわせよう。あそこは今後の戦局を左右する大事な拠点だからね――黙って明け渡す訳にはいかないよ」


 アルベルトの判断は、慎重なものだった。

 一気に戦局を押し戻すなら、魔王城に残った兵力の大半を向けて、一気に決着を付けるという選択肢もあり得たからだ。


 しかし、これがおとりだという可能性もある。

 すぐに動かせる兵力を、魔王城に残すことも大切という判断だった。



 各地で王国軍との戦いが勃発している。

 しかし未だに、私は待機。


「アルベルト、やっぱり私も出ます!」

「君ならそう言うと思ってたけど……」


 アルベルトは、苦笑する。


「まさか……、まだ戦わないで欲しいなんて言うつもりじゃ――」

「アリシアの願いは分かってるよ。そんなこと、今さら言うつもりはないよ。だけど魔王軍を率いる者として、君ほどの戦力をみすみす失う訳にはいかない……、分かるよね?」


 アルベルトは、諭すように私にそう言った。


 私やアルベルトには、単騎で戦場を覆せる実力がある。

 それは厳然たる事実だ。だからこそ戦争の行方を左右するほどの力を持っている人間を、闇雲に戦わせて失う訳にはいかないとアルベルトは言うのだ。


 これは魔族と人間の戦争なのだ。

 私は、その戦いに、力を貸すと決めたのだ――以前のように復讐心のままに先走る訳にはいかない。




「今のアリシアの役目は、君の部隊が戦場で戦えるように訓練することだよ。分かるよね」

「そうですけど……」


 アルベルトの言葉は理解できる。

 それでも不満そうに唇を尖らせる私を見て、アルベルトは呆れたように苦笑した。



 私が、一番力を発揮できる場所はどこか――それは特務隊だろう。

 それはアルベルトも同意見だったらしく、再び特務隊が結成されることになったのだ。


 フローラとの戦いで救出した仲間たち。

 せっかく助かった彼らを、また戦いに巻き込むようで気が引けたのが本音だ。だけども彼らは「やっぱりアリシア様と戦ってると落ち着きますね!」などと言いながら、心よく手を貸してくれた。

 ……これで良かったのだろうか。 



 考え込む私をよそに、アルベルトが、てきぱきと各地に指示を飛ばしていく。


「――今日の会議はここまで。ブヒオ、頼んだよ」

「お任せ下さい。必ずやディートリンデ砦を守り抜いてみせましょう」


 ブヒオが槍を携えたまま、ドンと誇らしげに胸を叩いた。

 彼は、アルベルトからの信頼が厚い魔族だ。そんな彼が出陣するほど、ディートリンデ砦の状況は悪いのだろう。



 効率的な訓練法か……。

 特務隊の面々の顔を思い浮かべながら、私は与えられた執務室――幹部の者に与えられるものだ――に向かうのだった。


***


「あの。何か用ですか、アルベルト?」

「用が無いと来ちゃ駄目?」

「そんなことはありませんが……」


 幹部会議が終わった後、アルベルトはそのまま私の執務室まで付いてきていた。

 何が嬉しいのか、ニコニコと無邪気な笑みを浮かべている。


 アルベルトは、魔王だ。

 いわば一国の長とも言える訳で、戦争のこと以外にも、大量の執務が溜まっている。決して暇な訳ではないと思うのだけど……。



「あ、アルベルト様! お茶を入れますね」

「気にしないで、ちょっと寄っていくだけだから」


「まあまあ、アリシア様も喜んでます」

「リリアナ!?」


 一方、リリアナは、私とアルベルトの顔を交互に見ると、嬉しそうに紅茶を入れに行った。

 なんだか無駄に張り切っているように見えるリリアナを見て、私はこてりと首を傾げる。



 そういえば、この機に相談しても良いかもしれないな。

 私は、最近の悩みの種だった書類の束を、アルベルトに相談してみることにした。

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