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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
8章 末路、そして新たなる戦いへ
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ともに歩む未来

ユーリの家族を助けるためにグラン商会を襲撃した事件は、その後、思わぬ方向性に発展していった。

シュテイン王子をはじめ王国への不満が高まっていたのも束の間、彼らはその矛先を巧みに外――私たち魔族へと誘導したのである。



「悪逆の限りを尽くす魔族は、滅ぼさなければならない――か」

「言ってくれますね」


 人間と魔族は、たしかにずっと戦争をしていた。

 それでもどこかで矛を収めて、手を取り合うという選択もあっただろう。

 魔族は決して話の通じない獣ではないのだから。



分かり合える僅かな可能性すらも、シュテイン王子たちは捨て去ったのだ。

もっとも今さら和平を求められても、私は応じるつもりはない。


「アリシア、どうして笑ってるの?」

「ごめんなさい。でも、あまりに可笑しくて」


 ああ、私は笑っていたのか。

 シュテイン王子の選択を聞いて、私が感じたのは喜びだった。

 私の心は、やっぱりあの日にどこかが壊れてしまったのだと思う。


 戦場での高揚感が忘れられない。

 魔王城での日々は楽しかったけれど、胸にくすぶる黒い炎はどうしても戦場でしか消えないのだ。

 私は、どこかでこの戦争が終わってしまうことを恐れていたのだろう。

 それは私が生きる意味を無くすに等しい。


 ――変ですね。


 別に、復讐は魔族と共に果たす必要もないというのに。

 もし魔族と王国との間で和平が結ばれたなら、その両方を相手取って殺す。

 それぐらいの覚悟は持っていたはずなのに、どうして私は魔王城で暮らすことを前提に考えてしまったのだろう。



 ああ、もしかして私は、この心優しい魔王と敵対したくないのか。

 気がついてしまえばストンと胸に落ちた。

 それは自分でも信じられない感情だった。


「アリシアの気持ちはアリシアにしか分からない。アリシアの心の痛みは、アリシアにしか分からない。……だけどさ、これだけは覚えておいてほしい。信じられなくても構わない――どんなときでもボクは、必ずアリシアの味方で居るからさ」


 どうしてこのタイミングで、そんなことを言うのか。

 まるで心を見透かされているようだ。


「そんなこと、軽く言わない方が良いですよ? もし私が、魔族と敵対することを選んだらどうするつもりなんですか」

「そんな日は来ないと信じてるけど――」


 魔王さんは考え込んでいたが、


「何がなんでも止めようとするよ。そんな道を選んで欲しくはないからね――決して敵としてじゃない。ボクは君と分かり合うことを諦めないよ」


 言葉を選ぶように、だけど迷いなくそう告げた。

 

 ──いいかい、アリシア。話し合いで解決出来ないことなんて、存在しない。

 ──決して分かり合うことを諦めてはいけないよ?



 どうしてこんなときに、孤児院長の言葉を思い出してしまうのだろう。


「何でそんなこと言うんですか。頼むから迷わせないで下さいよ――そんなこと言って、結局どうにもならなかったら、きっとあなたは私を排除するんです」


 まるで駄々っ子のような言葉。


 彼が魔王という存在である以上、魔族と私を天秤にかけたときに魔族を取るのは当たり前。

 意味のない否定をぶつけて、遠ざけようとするだけの言葉。


「どうにもならなかったら、か……。そうだなあ、アリシアと対立するぐらいなら――」



 魔王さんは、何ら屈託のない笑みを浮かべると、


「そしたら魔王の座を譲っちゃおうかな。アリシアを忘れてこれからの人生を生きていくなんて、もう無理だ。ボク個人なら問題ないよね――どこまでも付いていくよ」


 あっけらかんとそう言い放つ。


 問題ない訳ないだろう。

 私はそんな答えは望んでいない。

 復讐なんて行為は一人で果たして、静かに死んでいくものだ。

 だから心が喜びの声を上げているのは気の所為だ。



「どう、して?」


 掠れた声で問いかけると、長い沈黙があった。



「……幸せになって欲しいから、かなあ」


 やがて返ってきた答えは、そんなもの。

 以前の私なら、信じられないと切り捨ててしまっただろう。

 だけども魔王さんとずっと過ごしてきた今なら、その言葉が心からのものだと信じられた。



「私にとっての幸せは、私が決めます」

「……分かってるよ」


「私の願いは復讐です」

「痛いぐらいに分かってるよ」


 私にも譲れないものはある。

 それを魔王さんは知ってるし、彼にも譲れないものがあることを私は知っている。


 そこすら譲歩しようとしていたけれども、そんな行動は取らせてはいけない。

 少なくとも魔王さんは、二度と私に戦うなとは言わないだろう。



「ひとまずは滅ぼされないように頑張りましょうか」

「そうだね。舐めた宣言をしてくれたヴァイス王国とレジエンテには、目に物見せてやらないと」



 この関係が永遠である保証はない。

 けれども同じ方向に進み続けようと努力は出来る。

 少なくともこの人となら、分かり合うことを諦めなければ絶対に分かり合える。


 そう思えた。


 私と魔王さんは頷き合った。

 戦いはこれから激化する――やるべきことは山積みだった。

 最新話までお読みいただき、ありがとうございます!

 これにて【8章完結】です。



《最新話までお読みいただいたあなたに、大切なお願い!》


 本作は「1章~3章」「4章~8章」で、大きな区切りとなります。

 (まだ続きます・・・!)



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・続きが楽しみ

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今後もガシガシ更新していければと思いますので、是非とも【応援】して頂けると嬉しいです。



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