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折られる希望、絶望の日々

※ 残酷描写あり

 それからも、地下牢での日々は続いていく。


「一度、裁判を受けさせて下さい。フローラさんの霊薬を調べて下さい──私が魔族だなんて、真っ赤な嘘ですから」


「黙れ! まだ諦めないのか、魔女め!」

「まだ痛い目を見ないと分からないのか‼」


 私は、どうにか潔白を証明しようとした。

 突如として私が見せた反抗的な態度に、騎士団員による取り調べは激しさを増していった。それでもリリアナにばかり、働かせる訳にはいかない。

 私にも、まだ出来ることがあるはずだ。


 ──状況が好転すると信じて

 ──襲いくる暴力に耐えながら、私は苦しい日々を必死に耐えていた


***


 そんなある日のこと。 


 私の唯一の楽しみを押し潰すように。

 完全に私の心を折るように。

 面会時間になってリリアナの代わりに、フローラが姿を現した。


「お久しぶりね、アリシア~。ふふ、相変わらず惨めな姿! 元気にしてた~?」

「──フローラっ!? なんで? ……リリアナは?」

「ああ、あの子? そうねえ、目障りだったから──」

「……まさかッ」


 血の気が引いた。


「うふふ、そんな顔しないでよ~。特務隊の任務に戻って貰っただけだから。……今の所はね? いっそ脱走でも企ててくれれば、あなたの目の前であの子を処刑するなんて楽しみ方も出来たんだけどね~」

「フローラッ!」


 くすくすとフローラは笑っている。

 狂っている──心の底からそう思った。

 あの時、リリアナを思いとどまらせて良かった。

 

「お~、こわい。こわい。それだけ元気なら、大丈夫そうね~。今日からは私の実験に付き合って貰うわよ~。毒薬耐久実験、魔族のあなたにはお似合いでしょう?」

「嘘……でしょう?」

「あら、もちろん本気よ。最後ぐらいは人類のために役立って死になさいよ、魔女さん♪」


 フローラは、けらけらと笑った。

 それはまさしく悪魔の笑みだった。


「じゃあ、始めましょうか。アリシアは頑丈だから楽しみにしてたのよ~。少しは楽しませてね!」


 フローラは鼻歌まじりで薬瓶を1つ取り出し、私の口に液体を流し込んだ。

 逆らっても、もっと酷い目に遭わされるだけだ。すでに抵抗の意思は、狩り取られていた。


 こ、これはヤミアの熱草……!

 分かったところで、どうしようもない。

 瞬く間に強烈な悪寒に襲われ、私はがちがちと震えはじめた。暗殺に備えて、ある程度は毒にも慣らされていたが、その耐性がかえってフローラの楽しみを長引かせることになった。


 私は、ひどい嘔吐を繰り返す。

 真っ青な顔で全身を苛む毒の諸症状に耐える私を、フローラはいつまでも楽しそうに眺めているのだった。


***


 それからというもの、フローラは毎日のように私の元を訪れた。

 地下牢の中で絶望する私を見て、ただただ嘲笑うためだけに。


「さすがはアリシア! う~ん、ゴキブリ並の耐久力ね! 次はこっちなら、どうかしら?」

「惜しい~! もう少しで毒が拔けるまで、耐えられたかもしれないのにね~。でも耐えられなかったから、おしおきの時間だよ~」


 フローラは、私にゲームを持ちかけた。

 断る権利なんてない一方的なゲームだ。


 フローラの渡す毒物を飲み干し、1時間意識を保っていられたら私の勝ち。気絶したら罰ゲームと称して、フローラが新しく覚えた魔法の実験台になる。フローラの薬物の知識は確かなもので、彼女は死なないギリギリのラインで私を攻め続けた。

 そのゲームは、フローラが飽きるまで延々と繰り返された。


 ──目の前の少女が、悪魔にしか見えなかった。

 休ませて欲しいと懇願しても、弱々しく頼み込んでも、人間の顔をした悪魔は、笑顔のまま私をいじめ抜いた。

 私が苦しむ様を見て、ひたすら笑い転げていた。


***


 フローラとの"ゲーム"が終われば、次は騎士団員による"取り調べ"が待っていた。

 散々フローラに痛めつけられ、すでに限界だったがお構いなしだ。


「も、もう許して下さい…………」


 完全に心が折れていた。

 涙を流しながら許しを乞う私の髪を、騎士団員が乱暴に掴む。



「この程度で音を上げるとは情けないね」

「もし聖女様なら、まだまだ楽勝だろう?」


 騎士団員たちの要求は、魔力の奉納。

 それは罪人の義務でもあったが、私に課されたノルマは常軌を逸していた。とても1人で賄える魔力量ではない。

 結局、私は魔力が空になるまで魔力を搾り取られることになった。魔力欠乏症でフラフラになった私を見て、騎士団員たちが大笑いしていた。


「おいおい、まだノルマの半分にも届いてないぞ」

「聖女様なら、これぐらいなら楽勝だとシュテイン王子はおっしゃってたよな」

「まあでも、こいつは魔女だからな。罪人の義務である魔力の奉納をサボるなんて、悪い奴だ」

「そういう場合は、刺激を与えてやれば絞り出せるんじゃなかったっけ。こんな風に──な!」

「がっ……!?」


 勢い良く壁に叩きつけられ、私はくぐもった悲鳴を上げる。それから彼らは、面白半分に私に魔法を振るった。

 魔力の奉納なんて、結局は私を痛めつけるための口実に過ぎない。ノルマの達成は、最初から不可能だった。


 常に魔力を搾り取られ、働きが悪いと気まぐれに魔法を撃ち込まれる。

 それが私の日常だった。


***


 ──永遠にも思える地獄の日々が続いた。

 それでもせめて、人を恨むことだけはしない。

 だって、それは間違ったことだから。

 魔女と罵られようとも、私は最期まで聖女として気高くあろう。血反吐を吐きながら、私は祈るように日々を過ごした。


 ──悲鳴を聞いて、誰もが喝采を上げる。

 狂っている。おかしい。

 いつから世界は、こんなに歪んでいた?


 こちらの声は、何も届かない。

 変わらない日々が続く。

 ただ毎日が苦しい。


 自分以外の人間が、まるで別の生物のように見える。

 ああ、本当に自分は魔族だったのだろうか?

 だから、こんな目に遭うのだろうか?

 

 眠い。痛い。苦しい。

 ぼこぼこに殴られた全身が、熱を持つ。

 毒に侵された身体から、悪寒が消えない。

 焼かれた背中が。刺された眼が。痛い。苦しい。

 もう──早く楽になりたい。


 最近は、ずっとそんなことを考えていた。

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