パーティーのはじまり
近くの湖で、私は丁寧に返り血を洗い流す。
冷たい水がひんやりと気持ち良い。
それは熱した頭を冷ましてくれるようだった。
モンスターから少年を助けたのも、奴隷商人を斬ったのも。
ただ許せないと思って、感情のままに鎌を振るっただけだ。
感謝されたいと思っていた訳ではない。
「憎らしい王国民を殺してスッキリした──そう思っていたんですけどね」
怯えられたことに、私はショックを受けているのだろうか?
善良な聖女としての生など、とっくに捨てたというのに。
同じようなことは、この先も起こるだろう。
別に、私の周りに誰も居なくなっても構わない。
今さらこの道を変えるつもりはないのだから。
***
水浴びから戻った私は、そのまま魔王たちと合流する。
食材が十分に集まったところで、そのまま集合場所に戻るようだ。
移動中、気のせいか誰もが口数が少ない。
──私のせいで、変な空気にしてしまったかもしれないな。
そんなことを考えていると、
「あ、あの──アリシア様!」
犬耳の少年──ユーリと言うらしいが、どこか緊張した様子で話しかけてきた。
「なんですか?」
「あ、あの──その、し、失礼しましたっ!」
何故かカアッと赤くなり、少年はサッと目を逸らす。
随分と怖がられてるみたいだなあ。
それでも話しかけてくるのは、魔王に説得されたのだろうか?
別に無理して、私と話す必要もないと思うけれど……。
それからも、チラッチラッとユーリと視線が合う。
どうも彼は、こちらを気にしているようだった。
しかし視線が合うと、バッと凄まじい勢いで目を逸らされてしまう。
「ねえリリアナ。なんで私こんなに警戒されてるんだと思う?」
「いいえ、たぶんそういうことでは無くて……」
私の質問に、はあ、とため息をついたリリアナ。
……解せぬ。
***
やがて集合場所に到達した。
どうやら私たちのグループが最後のようだ。
「お! ピンキーピッグの群れじゃないか!」
「それもそんなに……! じゅるり──」
「どうやって、こんなに狩ったんだ!?」
獲物を抱えて戻った魔王たちを見て、待っていた人たちが喝采を上げる。
魔王の言う通り、ピンキーピッグの肉はとても美味らしい。
「狩ったのはアリシアだよ。見慣れない魔力探知の魔法で探し当てて、いつもの鎌でバッサリと──相変わらず規格外だったよ」
魔王が楽しそうに言った。
ちょっと!?
私に対する期待を底なしに上げていくのは、止めてもらえますかね?
抗議するような私の目線を、魔王は軽く受け流す。
「それじゃあ早速はじめようか。ミスト砦防衛戦でアリシアが果たした役割はみんなも知っての通りだと思うけど──改めて魔王城にようこそ」
「ありがとうございます、魔王さん」
「それじゃあ──さっそく食べようか!」
魔王がそう告げ、
「待ってました!」
「この日を待ってたんだ!!」
歓声が上がる。
そうしてついに、焼き肉パーティが始まった。
***
魔族流の焼き肉パーティ。
それは焚き火スポットがいくつか用意されており、気の合う者同士で勝手に集まり思い思いに肉を焼いて食べるワイルドな形式だった。
「はっはー! この日のために生きてたんだ!!」
「ヒャッハー! 肉だ~!」
見れば、ブヒオの部隊──オーク部隊であるが、狩ってきた肉にそのままかぶり付いていた。
焼き肉だぞ、焼いてくれ?
更にはどこから取り出したのか、浴びるように酒を飲み始めていた。
特務隊に居たときは、魔族といえば恐ろしい集団というイメージだった。
当然ではある。敵は敵でしかなかった。
こうして触れ合ってみれば、こんなにも陽気な集団だったんだな。
まさか魔族に混じって、一緒に食事をする日が来ようとは──あの時からすれば、想像も付かない話だ。
「魔王さん、お鍋を取ってもらえますか?」
おっと、目的を忘れてはいけない。
今日は魔王に料理を振る舞うために企画してもらったのだから。
素直にお肉を焼いても、そのまま食べても良いけれど。
せっかくだし、ちょっと工夫してみようかな?
今日は、料理を振る舞うために来たのだから。





