それから
戦争は、あっさりと終結した。
ヴィルフリードは、実の息子であるシュテイン王子を戦争犯罪人として断罪。
魔族相手に無条件降伏を申し出たのだ。
アルベルトは、これを受諾。
これによりヴァイス王国と魔導皇国は、驚くほどあっさりと和平を結ぶことに成功したのだった。
***
ある日の昼下り。
アルベルトの執務室を訪れた私は、良い香りのする紅茶に舌鼓をうっていた。
「魔族領の茶葉も慣れると美味しいですね」
「そう? 気に入ったなら、また仕入れとくよ」
「もう。私が欲しがったら何でも買っちゃうの、アルベルトの良くないところですよ?」
アルベルトは、いつも私に甘い。
いつか私のせいで、国庫が傾くんじゃないかと心配なレベルだ。
これからも元聖女らしく、質素な生活を心がけていこう。
そんなことを考えながら、ぼーっとアルベルトを見ていると、
「これで良かったんだよね、アリシア?」
「何が、ですか?」
アルベルトは、不意に真剣な表情で聞いてきた。
「復讐――王国と和平を結んで、本当に良かったのかと思ってさ」
「ああ。そのことですか」
そのことなら、何度も話した通りだ。
「ええ。私は――前を向いて歩きたいと思いましたから」
王国民を虐殺して回るより。
ここでアルベルトと一緒に暮らす方が、きっとこれからも楽しい。
それにその方が、胸を張って生きられる。
今は"魔女"である私だけど、そう自然と思えたのだ。
「アルベルト、そう思えたのもあなたのおかげです。復讐に生きて死んでいくだけだったはずの私を、あなたが繋ぎ止めてくれたんです」
「――っ!」
たぶん、言おうと思ったときに言わないと、口にする機会がないから。
そう言った私に、アルベルトは驚いたように目を丸くしたが、
「そう思えたなら、それはアリシアが選び取った道だよ。ボクは、アリシアが好きなように生きて幸せになって欲しい――それだけだからさ」
なんて温かい目で微笑むのだった。
「そうだ、アリシア! 今日はボクと――」
「アリシア様! 今日は特務隊の訓練日ですね!」
アルベルトが何かを言いかけたとき。
特務隊副長のリリアナが、そんな言葉と同時に扉を開け放つ。
――一緒に城下町に……
そんな言いかけた言葉は、誰の耳に入ることもなく。
「久々に組み手ですね! 負けませんよ!」
「ふふ、アリシア様は素直な性格を直さない限り私には勝てませんよ?」
「あれは、ズルです!
楽しそうに言い合いながら出ていくアリシアとリリアナを見て。
「まあ、良いか――」
アルベルトは、小さくため息をつく。
その距離は、決して遠くはないけれど。
その先に行くには、まだまだ時間がかかりそうだった。
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