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帰還

 このまま魔王城に連れて帰るべきか。

 フローラと同じように、魔王城の一室で、永遠に終わらない地獄を見せてやろう。生まれてきたことを後悔するまで、徹底的に蹂躙して、苦痛を与えて、最後は王国を攻め滅ぼすきっかけにしてやろうか。


 それは、考えるだけで胸がすくようで。

 同時に、どうしようもなく虚しくて。


 ――胸を張って進めるなら、ほかの誰が認めなくてもあたしが認めてあげるから

 再会したホリンナ院長の言葉を思い出す。



 地下牢で、フローラとシュテイン王子をいたぶり続ける日々。

 そんな生き方を、私は胸を張ってホリンナ院長に喋れるのだろうか。



 ――これで、復讐が終わる。

 過去は忘れて決別するのだ。私は大切は人を連れ戻し、これからも国を守るための戦いに身を投じていく。

 いずれ死ぬときが来ても、その日に胸を張って追われる生き方をしたい。

 だから……、


「さようなら、つまらない人」

「ま、待て……!」


 私が鎌を振り下ろそうとした時、



「アリシア、嬢。どうか少しだけ判断を待ってほしい――」


 聞こえてきたのは、そんな声。

 それは長らく国を空けていた国王の声だった。


 まさしく、今帰国したという風貌。

 一国の長たる威厳は、そこにはなく。

 どうにか間に合ったことに安堵するような表情。



「良かった。どうにか、間に合った……!」

「あはっ、そのまま尻尾を巻いて亡命すれば良かったんじゃないですか?」


 今更、国に戻ってきて何ができるというのか。


 国王――ヴィルフリードは、国の最高権力者だ。

 いわば私のことを斬り捨てた貴族の親分的な立ち位置で、当然、良い感情など持ち合わせていない。


 おまけに、この男は国を留守にしていることも多かった。

 だからこそシュテイン王子が権力を手にして、今回のようにやりたい放題する結果に繋がったのだ。



 シュテイン王子を殺すのは決定事項だ。

 止めるというのなら、まとめて叩き斬るのみ。



「お久しぶりです、ヴィルフリード陛下。何の用ですか?」


 一応の対話の意思を見せた私に、



「父上!?」


 シュテイン王子が、よろりと身を起こした。

 そんな様子を、ヴィルフリードは、凍りつくような視線で睨みつけた。


「助けてください、父上! このままでは俺……私は、魔族に殺されてしまいます!」

「黙れ! おまえ、何をしたか分かっているのか! この国を、よくも、よくも――!」


 ヴィルフリードの相貌は、深い失望に彩られていた。

 同時に、どうしてこんなことになるまで気がつけなかったのかという絶望。



「アリシア嬢。いいや、アリシア様――此度の件、本当に我が息子が、我が国がとんでもないことをしでかした。こんな言葉で許されるとは思わないが、どうか謝罪させて欲しい」


 恥も外聞もなく。

 そう表現するほかない。

 ヴィルフリードは、頭を地面にこすりつけんばかりの勢いで土下座を始めたのだ。一国の長が、敵国の魔族に頭を下げる意味――その意味は、決して小さくはない。



「へえ、それで?」


 もっとも、そんなことは今更なんの意味もないのだ。

 アルベルトは薄い笑みを浮かべ、ヴィルフリードに視線を送る。


「まさか、謝ったから許して欲しいなんて。そんなおかしなこと、考えてるんじゃないよね?」

「まさか。わが国には何かを要求できる立場にない。レジエンテも引いた今、戦局はすでに魔族に偏っている――それが分からぬのは、この馬鹿息子ぐらいよ」


 全面衝突は本位ではない、と国王はハッキリ言い切った。


「今やこの国の未来は、あなたたちの意思に委ねられている。馬鹿息子の首も、私の命も差し出そう――騙されていた国民に罪はない。どうか寛大な処置をお願いしたい」


 覚悟を決めた様子で、ヴィルフリードはそう宣言する。


 シュテイン王子の暴走を止められなかったのだ。

 良い国王ではなかった――それでも、最低限の尻拭いは。国のためにできることは何でもする、という強い意思を感じた。



「アリシア、君は……。まだ王国民を皆殺しにしたい?」


 アルベルトは、気遣わしげに私を見てくる。

 私が頷いたら、きっと優しいアルベルトは、その希望を叶えてくれる。

 王国民を根絶やしにするまで、魔族は侵攻を続けることだろう。



「いいえ。私が憎むのは――」


 答えは決まっていた。

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