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ブクマ、評価有難うございます!
今回とても短いです。気に入らなかったのでちょっぴり加筆。(20.06.11)
行動力の塊であるアリスは、案の定アイリス嬢の友人の座を手に入れた。あの時紹介しなければよかったかなと思ってもすでに遅い。
「あんま落ち込むなよ。アリス嬢ってなんだかんだ女友達少ねえんだから喜んでやれ。束縛してると嫌われるぞ」
「……わかってはいるが」
魔法の授業でペアを組むアリスとアイリス嬢を横目で見る。険しい顔してるぞというジャックの言葉に自覚はある。だが仕方がなくないか?
ジャックのいうとおり、アリスは令嬢に友人が少ない。ちょっと、いやかなり活発なアリスはあまり他の令嬢と話が合わないようで、友人付き合いが希薄だった。それでもアリスに好意を寄せる女子は多く、親衛隊のようなものはいるのだが。
今まで不特定多数とゆるく付き合っていたアリスなので、入学してすぐは結構私といる時間があった。しかしアイリス嬢と仲良くなってからその時間はかなり減った。具体的に言えば週三くらいで昼食を共にしていたのが週一になった。寂しい。
「鬱陶しい奴だな」
心底面倒臭そうなジャックにジト目を向ける。主人に対して冷たすぎないか、こいつ。一つため息を吐いて、教師の指示通りに魔法を詠唱した。的に向かって火の玉が飛んでいく。
遠巻きにこちらを見ている令嬢たちの黄色い声が耳に煩い。熱い眼差しとでも言えばいいだろうか。直接言葉にされることはないが、下心が透けて見えるそれは不愉快だ。そう言うのはアリスから貰いたい。
「あの、私あまり魔法が得意ではなくて……よろしければ教えてくださいませんか?」
聞き覚えのないソプラノに話しかけられ、思わず眉を顰めそうになった。露骨に嫌な顔をするなんて王族として許されない。危なかった。
声をかけてきたのだから同じクラスの女生徒なのだろう。面倒に思いながら振り返れば、見覚えのある貴族令嬢が立っていた。確か伯爵家の令嬢だったか。
私やアリスのように自主的に魔法を学ぼうとしない限り、普通は学園に入学してから魔法を習得する。そのため、初年度の学期頭では初歩的なものから学ぶ。アリスに影響されて魔法をしっかり学んだ私には簡単すぎて、流すように授業を受けたところで優秀な生徒に見えるのは間違いなかった。
だからと言ってわざわざ教えてやる義理はなく、と言うか下手に手を出して気があると思われても厄介なので、こう言うことは断るに限る。
「私もまだまだ勉強中の身なんだ。人に教えられるほど熟してはいなくてね。希望に添えなくてすまない」
「え、でも……」
「ジャックは剣術だけじゃなく魔法も出来るが……どうだ?教えてやったら」
「いえ、俺も魔法は教えられるほどではないので」
ジャックに押し付けてみるも、こちらも面倒臭そうに断りを入れる。まあわかってはいたが。
もう一度すまないなと声をかけて、教師の指示に従って魔法を唱える。断られると思っていなかったのか、ショックを隠しきれない顔で友人の元へかけていく女生徒に安心して、ジャックと二人練習を続けた。
後ろで聞こえてくる教師の賞賛を受け流して、魔法は続けたまま視線をアリスに向ける。そんな私を見て、虫を見る目をしたジャックが視界の端に映るがもちろん無視だ。荒んだ心はアリスで癒されたい。
存外面倒見のいいアリスは今、アイリス嬢に魔法を教えているらしい。会う時間があまりなかったとは言え、私だって教えてもらったことがないのだが。
「……羨ましい」
「素直に教えてくれって言えばいいだろ」
「情けないだろう」
ジャックはなんとも言えない顔をしてくるが、男の矜持的にも今更アリスに教えを請うのは微妙だった。それに何より、新しい魔法を習得してみせると、アリスが「いつの間に?」と子供のように無邪気な笑顔を見せてくれるのだからそれで満足だったりする。歳を重ねるにつれ、そんなアリスの表情は貴重だった。
「ま、殿下がいいならいいんだけどな」
「……問題ない」
「問題ないって顔じゃねえけど?」
「うるさいぞ」
ムッとしながら的へと放った魔法は思っていたよりも威力を発揮し、的を壊して消失した。
そろそろ二人はちゃんと絡んで欲しい。