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評価やブクマありがとうございます!

遅くなりましたがプロローグ最終話です。

 水飴の露店、ガラス工房、魔法具店。色々な店を連れられて回る。普段はまず店に入ることがないから、見るだけでワクワクしてちょっとした冒険だった。時間としては1時間となかったのに、見るもの全てが新しくてずっと長い時間出歩いた気分だった。


「そろそろ時間ね」


 アリスの言葉に、もう少し遊びたいと思ったが見合いを抜け出してきたことを思い出す。しかもお遣いとして出てきたのだから長時間はいられない。むしろ1時間もかかったことに近衛が何か言わないかの方が不安だった。そんなことに今更思い至ってアリスを見る。一切焦った様子もないアリスは、いきなり僕が視線をよこしたことに不思議そうに首を傾げた。


「今更だが、こんなに長時間で歩いて良かったのか?」

「ああ。私のお気に入りの店はね、この時間だと購入に1時間は並ぶの。だから今くらいに帰ればちょうどいいわ」

「そうなのか」

「そうだよ」


 パチンと片目を瞑って笑ったアリスに連れられて帰路を進む。終始、どこのお店のパンが美味しいだとか、あそこの鍛冶職人の剣は格好いいだとか、僕の知らないことを喋りながらアリスの足は早かった。半ば駆け足で付いていくと、行きには通らなかった道に引っ張られていく。近道だろうかと思っても、ならば行きに使わない理由はなく首をかしげる。名前を呼んでも「あと少し」と言われるだけで、何がしたいのかわからない。アリスの屋敷は随分と離れていく気がする。


「着いた!」


 細い道をぐんぐん進んでようやく出たところには、一面の花が広がっていた。よく見る花から知らない花まで、色とりどりの花々はさっきまでいた街のようだ。圧巻と呼ぶにふさわしい草花の量に反して、人は僕たち以外誰一人としていない。


「すごいな」

「ここ、私以外知らない秘密の場所なの。どういうわけか知らないけど、一年中いろんな花が咲いてるのよ」


 アリスは眼を細め、じっと僕を見つめた。それに首をかしげると、アリスは僕の手を取って指に何かを嵌める。薬指には蒼い石が鎮座した少々無骨な指輪があった。


「……これは」

「指輪の魔具だよ。婚約者様からのプレゼント!」

「普通、逆じゃないか?」

「王子様にこっそり用意とか無理でしょ」


 嬉しいと思ったのに、優しげな眼差しにドギマギして素直じゃない言葉が口につく。アリスはそれをさらっと流すと、満足そうに指輪に視線を移した。同じように指輪に視線を移して、いつの間にこんなものを用意したのだろうと疑問が浮かぶ。それをそのまま口にすれば、あっけらかんとアリスは笑った。


「ルード様と婚約が決まった時だよ」

「サイズはぴったりだが」

「着ける人に合わせてサイズが変わるように作ったから。それに本当は渡すつもりもなかったし」

「ならばどうして」

「うーん、怒らないで聞いて欲しいんだけど……」


 アリスは言葉を濁しながら、こちらをちらりと上目遣いで見つめる。


「ルード様のこと、もっとつまらない人だと思ってたんだよね。自分でもわかってるんだけど、私は大人しくしてるの得意じゃないし、婚約も正直したくなかったの。外に連れ出そうとしたのだって、ルード様が言いつければやっぱり婚約はなかったことに……ってなるかなって思ったからだし。あ、もちろん危害を加える気は無いしちゃんと無事に返すけど。まあ、とにかくそう言うつもりだったの。最初は」


 申し訳なさそうにアリスは言うが、僕がつまらないというのは自分でも思い当たるところだった。確かに、僕が言いつければきっと婚約はなかったとこになるだろう。まだ当日なのだから、縁談がまとまらなかったことにしても外聞は悪く無い。

 ベルラーシ家にはアリスの2個下に長男がいるが、窮屈な王妃という立場になるよりも、多彩な彼女が女公爵をするのも悪く無いのでは無いだろうか。行動力のある彼女なら、他にも自由になる方法は考えていたのかもしれない。


「なのにルード様は素直に着いてくるし、屋台の焼き串を何も考えずに食べるし、びっくりした。お店に入るだけで眼をキラキラさせるし、あんな楽しそうな顔されちゃったら王子様も同じ人間なんだなって思うじゃん。私よりもずっと窮屈な世界で生きてるんだなって思ったら、なんか……」


 アリスはそこで一度言葉を切ると、僕の両手を包むように握った。


「もっと楽しいこと、教えてあげたいなって」


 真剣な瞳が僕を捉える。空を流れる雲が動いて、現れた太陽がアリスを照らした。ハニーブロンドが煌めく様がいっそ神々しい。心臓が鷲づかまれたように痛かった。

 会う前はあんなに嫌だったくせに、なんて単純なのだろう。握られた手が熱い。ああ、きっとこれが――……。



 ***



 眼を覚ますと、毛布もかけずにベッドに横になっていた。アリスのことを考えているうちに寝入ってしまったらしい。

 従者が部屋にいないことを見るに、まだ早い時間だろう。毛布をかけずに寝るなど怒られるに決まっている。見られなかったことに安堵して、ふと、幼い頃から身につけている指輪に眼を落とした。


「これが決意表明だから、など色気のかけらもないよなぁ」


 アリスから初めてもらった指輪はたまにサイズを整えてもらいながら、今も薬指に収まっている。私も同じものを返したいと思っているが、これがなかなか制作は難しい。不格好でもいいのにとアリスは言うが、それは私が嫌だった。早く追いつきたいものだと思いながら、今日からの生活に胸を躍らせる。

 起こしに来た従者に、そんなに楽しみだったんですかと笑われそうだと思いながら、できる支度でもしてしまおうかと起きることにした。



次回からは基本コメディ予定です。


その前に今回の投稿が遅れた原因、首無し騎士とお姫様の短編を投稿予定です。

見かけたらそちらもよろしくお願いします〜!

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