教育の責任者
視線を向けた二人は、システィナの教育に関わっている。
父親であるノルド公爵は淑女教育を。王妃である俺の母は王妃教育をシスティナに施している。
システィナが人をこれ見よがしに笑いものにするような、醜悪なイジメを行うようになった原因は、この二人にもあると思っている。
俺に責任が無いとは言わない。
学園での接し方を間違え、止められなかった事は、俺の痛恨のミスだ。
しかし、彼女に教育を施してきた二人もまた、その責を負うべきである。
俺は視線を親父、国王陛下に戻して話を続ける。
「まだ若いシスティナに教育を施し、矯正することを基本路線とする。そしてその結果如何で進退を決める。まず、ここまでは分かりました。
しかし、それではその教育はこれまで通りでいいのでしょうか? 私はそのようには思えません」
「これまでの教育に問題があると、お前はそう言いたいのだな?」
「はい。その通りです」
教育に問題あり。俺はそのように提言する。
親父はそんな俺に対し、迂遠な言い方でチクリと針を刺すのではなく、直接的な物言いで切りかかるように言葉を返した。
俺は堂々と、それを肯定してみせる。
このやり取りで、周囲からざわめきが聞こえるようになる。
それもそうだろう。
この言い方では、教育に関わる二人が無能だと言っているのと変わらない。評判を大きく引き下げるような、庶民であればジョッキの酒を頭からかける、無礼な行為でケンカを売るような会話だからだ。
母もそうだが、特にノルド公爵は俺の後ろ盾。これでは婚約が続いたとしても、後ろ盾として望める物かどうかという展開すら予想される。
俺の先行きは暗いと、貴族たちが不安がっているのが手に取るようにわかる。
「認めよう。これまでの教育にも問題はある。
あの娘の振る舞いは、淑女としての振る舞いではなく、王妃に相応しい物でもない。
婚約者たるお前一人の責任ではなく、これはより多くの者が反省すべき事であろう」
ここで、親父は俺の主張を全面的に認めた。畜生め。
もしもここで親父が反論したとする。教育に問題など無く、俺の接し方が悪かったから、ああなったと。
俺にとってはそれが一番都合がいい展開だった。
もしもそう言われた場合、俺が離れるだけでまともに育つという見方ができ、俺は今後、すべての責任を二人に押し付けることができたからだ。
しかし俺たち三人に責任があるとなると、俺が離れただけでは事態が解決しないという事になり、責任の割合もあやふやになってしまうので、三人の協調路線で話を進めねばならない。
やるべき事が複雑かつ高難易度で、俺は立場上、逃げる事ができない。
狸親父め。当たり前のようにこちらの逃げ道を塞ぎに来やがったか。
俺は「禿げやがれ糞親父」と心の中で呪いつつも、最後の交渉に入ることを決めた。