婚約解消の申し入れ
「ノルド公爵令嬢システィナとの婚約を解消してもらう!」
ここは我らが王国の大会議場。
そこで多くの貴族が集まった中、俺、王太子のランスロットは婚約解消の申し入れを宣言したのだった。
俺には婚約者がいる。
この国の3大公爵の一つ、ノルド公爵の長女で、名をシスティナという。
俺より一つ年下のこの少女は、幼い頃は愛らしく純粋で、当時の俺は彼女のことを好ましく思っていた。
ただ、最近になって状況は変わる。
貴族の子弟は13歳になると王都の学園で3年間の共同生活をするのだが、そこで彼女は変わってしまった。
とある男爵令嬢に対し、執拗なイジメを行うようになったのだ。
俺は彼女を諫め、状況の改善を行うために周囲の協力を仰ぎつつ手を打ったのだが、それらは尽く失敗に終わる。
何をやっても言っても反発する彼女は、叱られたことでよりイジメに固執し、状況が悪化してしまった。
これについては俺の不徳が致すところである。頭を下げるほか無い。
俺のせいで状況が悪化したという事で、俺は彼女や被害者である男爵令嬢と距離を置きつつ、それでも人を使ってイジメを止めるようにと間接的に動いた。
何もしないというのは婚約者として許容できなかったのだ。
このあたりの話はすでに両親や公爵夫妻に報告済みなので、今更詳しく語ることでも無いだろう。
さて、今回婚約解消の申し出を行ったのは、彼女の振るまいが自分の中で我慢の限界を超えたからだ。
システィナと結婚し、彼女が王太子妃となる未来を認められなかったのだ。
度重なる注意に反発し、イジメを続けたシスティナは王太子妃に相応しくない。やっていることはイジメの限度を超え、犯罪の域に達している。
今は爵位の差により見逃されているが、このままいけば断罪される未来しか無いのは明白である。
よって、その前に婚約を無かったことにすることこそが、王太子である自分の務めだ。一時であっても、犯罪者を王太子妃候補とするべきでは無いと言わせてもらう。
俺の話は誰からも遮られなかった。
この場に居る者は王太子妃候補、すなわち未来の国母が国にとって重要だと理解しているからだ。
そして俺が話すまでも無く、彼らも彼女の乱行悪行を知っているだろう。
俺の意思を確認し、将来を見据えた判断を下すべきだと考えているのだ。
そして、それを決定するべき者。父親である国王と実母である王妃は、俺に対してこう告げた。
「愚か者が。そのような話が通ると、本当に思っているのか」
「ランスロット。彼女はまだ若いわ。考えを誤ることもあるでしょう。それが分かりませんか?」