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父と私の合作

作者: 不治原

「キラキラネームなんてけしからん。」父の口癖だった。

子供の頃、食卓を囲んで観ていたTVに対して父はよくこう言っていた。

母は「そうねえ。」と相槌を打っていたっけ。


「津々美、お前の名前は太鼓の鼓面の意味で付けた。たたけば美しく響くという意味だ。

お前を美しく響かせてくれる良き人と出会い、良き一生を過ごして欲しいという願いを込めた。」


子供の頃は、この名前があまり好きではなかった。

幼稚園の時のお遊戯会ゆうぎかいの催しで、園児によるつづみを打つ演目の練習では、

先生が「皆さんツヅミを打ってください」という度に、友達からこずかれた。


母にそのことを相談すると、すぐさま父は飛んできて、

「お前に良い音を出させないような子とは友達になるな。」と言い放った。


中学生の頃の私は、キラキラネームにあこがれていた。

クラスメイトに『メイ』というおっとりした子がいて、私は友達になった。

中学の修学旅行の就寝時の、プチ女子会の時に、私はキラキラネームがうらやましいと彼女に話した。

「つづちゃんの名前の方がうらやましいよ。

保育園の時はトトロ観るとき自分の事のようにドキドキして観られたけど、

小学校の時はちょっと気恥しいって気持ちになってたよ。

英語の授業では5メイって言葉が出る度にクラス中からじろじろ見られたし、

先生からは『英国では5月は若々しい青葉の繁る力強い季節を意味してます、

メイさんはもっとしっかりしないと』って言われたりしたよ。」


彼女も私と同じような名前にまつわるごたごたした経験があった。だから馬が合ったのだろう。


「メイちゃんはオンが良いじゃない。

(名前として)あまり無い響きで名前をすぐに覚えてもらえる。

つづちゃんの『つづみ』なんて、かっこよくてかわいいじゃない。

私らにしたらどっちもうらやましい。」他の子がそう言った。


高校の修学旅行先はアメリカだった。

「トゥドゥーミ・・・?」

「NO! NO! ツ・ヅ・ミ!」

現地交流先の高校の、アメリカ人の先生や生徒とこうしたやり取りは何度もあった。

卑猥ひわいな意味(そうだと思う)で「to do me」とアメリカ人の男子生徒からは言われ、くすくす笑われたりした。


帰国後、母に其の事を話すと、父が割って入ってきた。

「外国人には、お前の名前は発音し辛いだろう?わっはっは。」

外国嫌いの父がわざと外国人には発音しにくい名前を付けたようだった。


私は大学の夏休みを利用した青年海外協力隊(JICA)に参加した。

父への反発心からだったと思う。

外国人と出会い結婚してやろうと思っていたのかもしれない。

私はそこで『堂雄』と書いて『ドオ』と読む「ドオ君」と出会った。日本人だった。


「父が剣道をやっていて、どうのぼりてしつる、

 って格言が好きで俺の名前を付けたんだ。だったら、普通は『ドウ』って付けるよな?

 漢字でこれなんだから、たかお、って読ませるとか。」

茶目っ気たっぷりに彼は笑っていた。


「私の名前『津々美』の『々』なんて、名前に付けるなんてテキトー過ぎよね。あはは。」

出会ったときに、彼の名前がおかしすぎて私は笑ってしまった。


JICAの活動の時、外国人のスタッフが私たち二人を指して

「do to do me」と紹介をし、現地の笑いを誘う事があった。

困窮こんきゅうした世界に一時いっとき清涼剤せいりょうざいを与えていたと思う。悪い気はしなくなっていた。

そして私は同じ境遇を歩んでいただろう彼と結婚をした。


あれから70年の月日が流れた。

一時いちじ危篤きとくを経て、奇跡的に回復した私の病室には沢山の子供と孫がいた。

私にはなぜか死期が分かっていた、そのため、親族を呼んだのだ。


「私の名前にある『々』はあとにつづく人が美しく過ごせますように

といった意味も込めてあるのよ。」

いまわのきわに、私のついた嘘を、父は気に入ってくれるだろうか。

余談:漢字の「々」にルビが振れません。


アイディアは大学の頃の体験です。ツヅミという音は、外国人には発音しにくい音だと知ったときに面白いな、と思っていました。


ヲタクは迫害された時代に生きていた世代なので、

名前に関するジェネレーションギャップが生じるとは夢にも思いませんでした。


※ちょうどこれをupした頃、10代の人が「オタクは日陰者だったとかどこの平行世界の話だよ」みたいなツイートをし、それを聞いたおっさん連中は、ネットでありがちな脊髄反応して叩く事もせず、ただただ、しみじみと良い時代になったね、と返していたことが話題となりました。


主人公の名の漢字名は「津々美」か「都津美」か迷いました。

また、タイトルは「父と私の合作」より「津々美」の方が良いのかなとも思っています。

「津々美」か「都津美」は、一般的な古風な名前(つゆ、うめ「かな2字2音節」)とわけではありませんが、古風な部類に入る名前だろうと考えております。

小泉八雲によると江戸時代の女性名は木や花や鳥の名前を付けていると西欧に紹介をしています。

西欧は洗礼名を持ち、天使や聖人の名からとるのがセオリーなので新鮮だったのでしょう。


女性名を二文字にするというのは現代において、というか今、古風な響きを演出するものなのかなとも思いました。


一方、「メイ」というのは、まだキラキラネームであろうと考えます。

「姪」という言葉がある以上、メイという名前が普通なこと(社会通念上是認しうる一般的なもの)にはならないと思いますから。他方、太鼓を指してすべて「つづみ」だとは言いませんから。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 「津々美」と書いてツヅミと読む。 自分の感性だと、これも立派なDQNネームなんですが…。 ツヅミとメイなら、メイのほうが圧倒的に普通の名前感があります。
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