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肖像画  作者: 谷口
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新たなる出会い

 次の日も、なんとなくあの場所へと足が向かってしまった。

 今日も昨日と変わり映えのしない雑草の生えた空き地が見えてきた。違う所と言えば女の子が突っ立っていることくらいか。

 変わらない現実に溜息をしようとした瞬間、突っ立っていた子がこちらを向いた。

 変なやつだと思われたくない為、とっさに顔を逸らしたが、目の奥に残った光景になんとなくの懐かしさを感じた。

 黒く長い髪にどこかで見たような顔、違う学校の制服を着ているが年はそう変わらないだろう。カバンを持っているところを見れば帰宅途中なのだろうが、何故こんなところで立ち止まっているかはわからない。まさか昨日の僕の再現ではないだろうな。

 逸らした顔の所在に困った。そのまま慣性に任せて方向転換。今日は帰ろう。

「あの、すいません」

 思ってもいない声にぎくりとして周りを見回したが、やはりその矛先は僕に向けられていた。

「あの、昔ここにお家建っていなかったですか?」

 またしてもぎくりとした。

「ここにあったと思ったんですが、なくなっててちょっとショックで」

「あったよね、ここに廃墟」

 僕のほかに知っている人がいた。それだけでちょっと嬉しくなったが、僕だけの場所ではなかったという発見もあった。

「あ、ありましたよね。もしかして中に入ったことありますか? 私、小さい頃に入った事あって、それ思い出して来てみたら空き地になっちゃってました」

 振り向く前に顔に描かれたショックを隠すような照れ笑いを浮かべる。

「中入ったことあるよ。僕も小さい頃だったな。ずっと肖像画見てた記憶がある」

 と、言った所で急に目を輝かせ両手に力を入れながら近寄ってきた。

「ありましたよね肖像画! 私最初に入ったときにその肖像画が気に入っちゃって暇さえあればここに通うようになってたんですよ。中学の頃にはぱったり行かなくなっちゃって、それで昨日思い出して今日来てみたらなくなっちゃってました。あ~あ、また見たかったな、あの肖像画」

 まさか僕と同じ事をしている人が他にもいるとは。もしかして人気スポットだったのだろうか。ここで他の人と出くわしたことはないのだけれど。

「実は僕も思い出して昨日来たらすでに空き地で。また見てみたかったんだけどね」

「なんだか思い出がなくなっちゃったみたいで悲しくなっちゃった」

 似たようなことを考えてる。

 これほどまでにあの肖像画に惚れ込んでいるのなら、人生初の肖像画友達として語り明かせるかもしれない。

「ボロボロだったけど、いつまでも見ていられたなぁ。実際ずっと見てたけどね」

「そうなんですよね。とても古い肖像画でしたが、描かれた人物がすごい綺麗で」

 肖像画について語り合うことができるなんて思っても見なかった。一つのことについて語り合う嬉しさや楽しさがこんなにも込上げてくるなんて。

「すごい綺麗な女の人だったな。もしかしたら僕の初恋かもしれない。絵に初恋って変な話だけど」

 変な話をしたつもりはあるが、小さい子ってそんなもんだろっていうニュアンスで話したつもりなのだが、みるみるうちに変人でも見るかのような顔つきになる。そんな目で見なくてもいいじゃんかよ。

「え、あの肖像画って男性の肖像画ですよね? 男性と言うか青年と言うか」

「え?」

 男性? まさかここで話がかみ合わなくなるとは思っても見なかった。

「女の人でしょ? だって髪長かったし顔も体型だって女の人だったよ」

「短髪でしたよ? イケメンでしたし体型だって男性でしたよ」

 肖像画友達が一瞬にして恋敵のようになってしまった。

「じゃあ別の絵でも見たんじゃないかな。あの肖像画の他にあったなんて記憶にないけど」

「私も記憶にないです。あの肖像画だけだったと思います」

 楽しい語り合いガ崩れ去り、記憶に対する探り合いが始まってしまった。

「探してみませんか?」

「探すって何を」

「あの肖像画です。このままじゃなんだかぱっとしないし、それにどっちの記憶が正しいかはっきりさせたいですし」

 はっきりさせたいのはやまやまだが。

「一体どうやって探すのさ」

 うーんと考える仕草をして、再び目を輝かせて提案してくれる。

「とりあえず図書館に行ってこの辺に関する歴史から探してみましょう」

 とても漠然としてとても時間がかかりそうな提案だった。


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