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肖像画  作者: 谷口
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肖像画との出会いと別れ


 数年前の、小学生になったばかりの事だったと思う。

 住んでいる所は都会でもなければ田舎とも言えない中途半端な住宅街で、その近くに誰も住んでいない洋風の建物があった。

 周囲の住宅よりも少しだけ大きく、錆びて歪んだ鉄柵からは手入れが成されずに雑草だけが多少伸びた通路があり、重い色の玄関が見え、その前を通る度に不思議がって見ていた。

 僕が生活する家とは異質な空間。

 周囲に溶け込めていない空気。

 歩み続ける現実と対照的に止まっているかのような時間。

 だから惹かれたのだと思う。

 だから引かれたのだと思う。

 今の僕ならまずやろうとはしない事でも、幼さ故の行動力は計り知れないものがあり、幼さ故の無知や好奇心がそれを加速させる一因となったのだろうが、今となってはそれが一体どの要素なのか皆目検討もつかなければ思い出すこともできない。

 覚えているのは、ある部屋に飾られた肖像画だけ。

 それはとても古く、色褪せ、描いてあるのが人間であることだけがわかる絵だった。

 しかしその絵は、とても美しく、可憐で、凛とした表情からは何かの決意を持った様な、綺麗な女性の肖像画だった。

 初めて見た時に心を奪われた。いや、もしかしたら入る前に奪われていたのかもしれない。

 見惚れてしまった。

 どれだけ長い時間見ていたかもわからない。

 それからと言うもの、僕はその肖像画を見に通ってしまっていた。

 飽きることもなく、暇さえあれば忍び込み、肖像画の前で立ち、座り、色々な角度や距離で見入っていた。

 何年も通った場所であったが、中学生になった頃だっただろうか、今までの生活が嘘だったかのように、行かなくなってしまった。忘れてしまったのだ。

 そしてさらに数年が経った今、ふと思い出してしまい、あの肖像画に会いにきたのだが。

 一体いつ頃なのか。はたまた場所が違ったのか。いや、何度も通った場所を忘れるわけがない。ここで間違いないのだが、建物がない。

 すでに空き地であり、鉄柵もない。当時と変わらないのは雑草だけ。

 思い出の地がこの有様だと悲しさも込上げてくる。

 もう一度、あの肖像画に会いたかった。

 なんとなく空き地の真ん中へ、肖像画があっただろう場所へ、記憶の限り歩いてみるも、建物もなければ絵もない。あるのは雑草だけの、ただの空き地。

 僕にできることは唯一つ。一抹の寂しさを胸に帰宅することである。

「あぁ、また会いたかったなぁ」



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