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ちょっぴり不公平

学年末テストも思って、気分はすっかり春休み状態。今日は終業式。

「来月から二年だね―」

暖かい風が吹く中、沙智が伸びをしながら言う。

「ホントだね。ちゃんと進級出来て良かったよ」

「そうだね。進級出来なかったらどうしようって感じだったけど、無事に進級出来て一安心だよね」

私と沙智は、いつもの帰り道を歩きながら話す。

「それにしても、海野君と秀明の部活がなかったら四人で一緒に帰れたのにね」

「うん。最近、海野君と一緒に帰ってないんだ」

私は口をとがらせる。

「も―、そんな顔しないの」

そう言いながら、沙智は私のほっぺたをつっつく。

「沙智はいいよね。沙智が有森君に帰りたいって言えば、必ず有森君帰ってくれるし…。海野君なんて部活ばっかりだよ」

「仕方ないよ。海野君は次期部長って言われてるんだから…」

「次期部長かぁ…。一日くらいは部活から離れてくれたらいいのに…」

ため息まじりの私。

「次会えるまで我慢だよ。ねっ?」

「そうだよね」

ちょっと不安を抱えながら頷く。

「よしっ! 今からケ―キ屋さん行こうよ」

「え?」

「ケ―キ屋さん行って、ケ―キ食べると冴子も元気になれるんじゃない?」

沙智は笑顔で言う。

そう言われると辛いな。当たってると言えば当たってるからね。

「う〜ん…じゃっ、行こっ!」

元気よく走り出す私。

「冴子、待ってよ!」

沙智も走り出して、私の後を追いかけた。





「冴子、サクランボのタルト食べてみようよ」

カウンター前で沙智が、サクランボのタルトを指差して言う。

「おいしそう。サクランボのタルトのセット、二つ。私はレモンティ―」

「私はカフェ・オレで」

支払いを済ませて、席で待つ私達。

「冴子、いつまでもそんな顔しないでって。私まで辛くなるじゃない」

「うん…」

そばにいれないから不安になる。そばにいれた時の嬉しさは二倍に膨らむ。何度も心の中で、一緒に帰りたいって呟いていても言葉にしなきゃ伝わらない。

「明日にでも“会いたい”って言っちゃえば?」

「部活だって言われちゃうよ」「辛いことは一人で抱え込まない。そうでしょ?」

「そうだけど…」

「クラスでも喋らないし、どうすんのよ?」

「どうって…」

言葉につまってしまう。

「見てるだけなんて片想いの時と同じじゃない」

「思いきって、会いたいって言ってみようかな?」

「グジグシ悩んでないで素直にならなきゃ、だよ」

「沙智…」

「恋なんて二人でするものなのに…」

沙智はクスクス笑いながら言う。

「沙智ってば笑わないでよ―」

「ゴメン、ゴメン」

沙智は笑いながら謝る。

そうやって沙智と話しているうちに、サクランボのタルトのセットがやってきた。

サクランボのタルトを一口ずつ口に運んでいく。サクランボが口の中に広がっていく。私の不安まで溶けていく。

「冴子、元気になったんじゃない?」

「そうかなぁ?」

「何かあったら言ってよ。相談にのるから…」

「ありがとう」

ニッコリ笑顔を作る私。そして、窓に目をやる。

窓越しに仲のいい私達と同じ制服のカップルが歩いている。そんな光景を見ると、不意に泣き出しそうになる。

「会いたい」簡単に言えたらいいのに…。一度断られると不安になる。私だってワガママばかり言えない。海野君、サッカーが好きだから、サッカーをやらせてあげたい。だけど、サッカーばかり夢中になってる海野君は私のこと忘れてる。これでも「サッカー部のマネージャーになりたい」って言ったことはあったんだよ。だけど、「今マネージャーは二人いるからいらね―」って海野君に言われちゃった。あとで他の友達に聞いたんだけど、マネージャーの一人は同じ学年の子で海野君の事が好きらしい。しかも、私と同時期に好きになって、海野君に色々アタックしてるって言ってた。

…海野君に色々アタック…

私と全く正反対だよね。私なんて全然いかなくて付き合ってて、その子は積極的にアタックして付き合えない。なんか、切ないよね。でも、積極的にアタックしてる子がいるなら私だって少しはヤル気がでる。

窓越しのカップルみたいに、私と海野君も今よりもっと仲良くならなきゃ。私からいかなきゃ。待ってても仕方ないもんね。言わなきゃわからない。メールでもいいから、海野君に自分の気持ちを伝えなきゃいけないよね。自分の中でためこんでいる想いを、伝えなきゃ。





「ただいま―」

元気よくドアを開けて家の中に入る。

あれからずっと沙智と喋ってて帰るのが遅くなっちゃった。

「冴子、おかえり」

ママがキッチンから顔をだす。

「パパ、帰って来てるんだ?」

私は玄関に置いてあるパパの靴を見て言った。

「そうよ。冴子、パパが話あるみたいだから居間においで」

ママに呼ばれて、居間に向かう。

なんだろう? ママの表情が深刻そうだったけど…。なんだか、嫌な胸騒ぎがする。

居間に向かうまでの短い道のり。こんな短い時間で色々な想いが交差していく。

「おっ、冴子、おかえり。ここに座れよ」

パパはママ同様深刻そうな表情をしてる。

「実はね、四月から冴子の学校に赴任することになったんだ」

そう言うと、パパは深刻そうな表情から笑顔になった。

「え? ホントに?」

「うん。まだ正式に決まってないけど、冴子の学年に行くかもしれないんだ」

「私の学年に…?」

「そうだよ。当たり前だけど、クラスも決まってないけどな」

嬉しいそうに答えるパパ。

どうしよう…。私、まだ言ってないんだよね。海野君と付き合ってること。もしかしたら、私の学年に来るかもしれないなんて…。

私のパパは学校の先生で、教科は体育なんだ。部活はサッカー部の顧問をしてる。自分の好きなスポーツだから担当してるんだよね。結構、生徒からは好かれてるみたいなんだ。

「冴子…?」

ママが私の顔をのぞきこむ。

「何か心配事でもあるの?」

「ううん、違う」

笑って否定したけど、ホントにどうしよう…。

「今日の午後に冴子の学校に行ってきたんだ。冴子の学校は環境のいい学校だな、ホントに冴子をこの学校に入れて良かったなって思ったよ」

嬉しそうに話すパパ。

「冴子の担任になればいいわよね」

「そうなったら光栄だけどな」

パパとママの嬉しそうな会話。その反面、どうしたらいいのかわからない私。言わなくてバレたら…きっとパパは怒る。今言ったら許してくれそうな気がする。

パパは私が男の子と仲良くするのを喜ばないんだ。娘の私を心配してるからなんだけどね。中学の時に、仲良かった男の子を家に連れてきた事があって、その時パパにこっぴどく怒られた。それ以来、仲良くしてる男の子事が言えなくなってる。だから、海野君と付き合ってること未だに言えてない。

「クラスっていつぐらいにわかるのかな?」

恐る恐る聞いてみる私。

「四月になればわかると思うよ」

「まだ早いよね」

「そうだなぁ。三月だもんな」

「赴任のお祝いで、今日はご馳走ね!」

ママははしゃぎながらキッチンに行く。

ママってばはしゃぎすきだよ。

「江海、今日はいつもより美味しい物を作ってくれよ!」

はしゃぐママに、パパが言う。

仲いいな。私と海野君は、パパとママみたいに公認の仲になるのかな? なんて、遠い目でパパとママの姿を見ながら思っていた。


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