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恋のキュ―ピット引き受けます!!

バレンタインから一週間、私は海野君と仲良くしてる。沙智は「彼氏欲しい」ってずっと言ってる。だけど、有森君はなんか元気ない。海野君と付き合い始めて、海野君の友達の様子まで見るようになってる。有森君は授業にも身に入ってない感じなんだよね。


「有森君て恋してるんじゃないかな?」

休み時間、私は沙智に言ったんだけど、

「誰に?」

沙智はぶっきらぼうに逆に聞いてくる。

「そんなのわからないけど、そうじゃないかなって…。バレンタインもらえなくて、それで…」

「それはあるかも。ちょっと元気ないもんね」

「でしょ?」

「もし、そうだとしたら、その好きな人って冴子だったりして―?」

冗談まじりの口調の沙智。

「まさかぁ…。そんなの絶対ないってばぁ」

「そのまさかだったりして。冴子が海野君とくっついたからショック受けてるかもよ」

「そんなのはない。なんで有森君が私のこと好きなのよ? 普通、海野君に言うでしょ? 海野君に言わないなんて変だよ」

「海野君だって岡田さんが好きだってこと言ってなかったじゃない」

「そりゃあ、そうだけど…」

弱気になる私。

海野君が言わなかったからって、有森君は同じことしないと思うけど…。

「噂をすれば二人が教室に入ってきたよ。ホント、二人共仲良いよね」

「そだね」

私は教室に入ってくる二人を見つめながら返事する。

有森君が私のこと好きなら、私は有森君をふったことなの? それに、有森君も海野君と同じことをしてたのなら、なんで私に一言言ってくれなかったんだろう? 「好き」って言ってくれたら有森君は傷つかずにすんだのに…。

まだ私のこと好きだって決まったわけじゃない。他の女の子が好きで、それで辛い想いをしてるのかもしれない。好きな人の事で悩んでるわけじゃないかもしれない。他の悩みかもしれない。私ってば勝手に有森君が好きな人がいるって決めつけてるよ。






放課後、私は海野君と有森君とカフェにやってきた。

海野君に「話があるから」って引っ張られてきたんだけど、休み時間に沙智と有森君の話をしてたから余計に気になってしまう。

「冴子、有森の悩み聞いてやってよ。これは冴子にしか言えね―らしくてさ」

海野君はオレンジジュースを飲んだ後に言った。

その言葉に私の肩が少し動いたのがわかった。

もしかして、有森君、「オレと付き合ってくれ」なんて言い出すんじゃ…。まさか…とは思うけど…。

「有森、早く言えよ」

「うん…」

返事だけすると有森君は顔を赤くする。

「実は、磯部さんの事が好きなんだ」

突然の有森君の告白によくわからない。

「さ、沙智の事…?」

「ずっと磯部さんが好きなんだ」

「悩んでたんだ?」

「うん。バレンタイン、もらえるかなって思ってたけどもらえなくて…。貝本さんに相談してみようって思ってたんだ」

恥ずかしそうにしながら頭をかく有森君。

「沙智、好きな人いないみたいだよ。それに、沙智は優しいし大人っぽくて、有森君とは似合うって思ってたんだよね」

「貝本さん…」

「わかった。私がなんとかしてみるよ」

「冴子、バレね―ようにさりげなくな」

「大丈夫よ」

ガッツポーズをする私。

「有森、良かったな」

「ああ…」

有森君はホッとしたような表情をする。

私でもいいのなら有森君の相談にのれるのは嬉しいんだけど、どうやって沙智に有森君の気持ちを気付かせよう? 悩むなぁ…。

次は私の番だよね。でも、逆のような気がするな。普通は海野君に相談するのにな。私は海野君と付き合ってて、沙智と友達だからだよね。沙智と有森君、付き合ってなってほしい。こうなったら、張り切っちゃう。一緒にWデ―トしたいもん。

有森君、私、頑張るよ!!





翌日、さりげなく沙智に昨日の話をしたの。

「有森君てやっぱり好きな人いるんだって。昨日、聞いたんだ」

「そうなんだ。で、誰なの?」

「そ、それは…」

そんなこと本人の目の前で言えない。

「名前聞いたんでしょ?」

「う、うん、一応はね」

しどろもどろで答える私。

「じゃあ、教えてよ」

沙智の顔が教えてっていう表情になってる。

「内緒!」

「いいじゃない。ここまで言わないなんて…気になるわよ」

「内緒よ。沙智は有森君の事どう思ってんの?」

「どうって…」

沙智の顔がみるみる赤くなる。

「沙智…?」

「私、有森君の事好きだよ」

「なんだ。そういうことか」

「何、一人で納得してんのよ―?」

「なんでもないよ」

私は嬉しくなって首を横に振る。

沙智も有森君が好き。両想いだね。沙智の場合、私みたいに恋のライバルはいないみたい。すぐに有森君の彼女になれる。沙智まで私と同じ想いをさせたくない。辛い想いなんてさせたくない。恋で悩むのは私だけでいい。

でも、心のどこかで羨ましいって思ってるのかもしれない。だって私みたいに悩まずに好きな人と両想いだもん。有森君は沙智の事を想ってて、沙智も有森君の事を想ってる。私の片思いは、海野君に好きになってもらう前に岡田さんが好きだった。そして、石水さんと色々あって私を好きになった。すごく遠回りしたけど好きになってもらっただけでも良かったと思わなきゃダメだよね。

「今日、有森君とデートしたら?」

私は思い切って言ってみる。

沙智はわけがわからずポカンとしてる。

「いいよぉ」

沙智は私の言った言葉を理解して照れて言う。

「私の時は“行け、行け”って言ってたのに…」

「だって…」

「いいから…。有森君に伝えておくね」

「うん…」

「じゃっ、決まり――!!」

「冴子…」

不安そうな沙智。

「何よ?」

「やっぱりいいよ」

「ダメよ」

「わかった。わかったよ」

沙智は首を縦に振る。

「沙智が羨ましいな」

私はポツリ言ってみる。

「なんで?」

「実はね、有森君の好きな人は沙智なんだよ」

私は隠しきれなくて伝えてしまう。

「ホントに…?」

「うん。ホントは本人から伝えたほうがいいんだけど言っておくね。聞かなかったことにしててね。有森君から気持ちを伝えると思うから…」

私はお節介だと思いながら、言葉を選びながら沙智に伝える。

「だから、私は沙智が羨ましいなって思ったんだ」

私は沙智の顔をまっすぐ見て言った。

「私達、両想いなんだね。私も冴子みたいに色々悩んでみたいな」

空を見つめながら言う沙智。

「すぐに両想いなんて味気ないもん。冴子のほうが羨ましい。色んな想いをして好きな人と付き合う。そのほうが好きな人と付き合えた喜びが大きいしね。私もそんな恋をしてみたいもん」

「そうかもね。私ってば遠回りの恋で嫌だったけどね」

「両想いになれたんだしいいんじゃない?」

「そうだよね」

私が答えると、沙智と笑いあった。



…すぐに両想いなんて味気ないもん…

沙智の言葉が頭で回る。

私が沙智だったら同じこと思ってた。私と沙智、逆の恋が良かった。そう思ってたけどそんなことはないんだね。人から見れば私みたいな恋がいいっていう人もいるんだね。人には色んな恋物語があるんだ。今まではこんな恋は嫌だと逃げそうになってた。でも、逃げなくて良かった。





放課後、私達四人は正門の前にいる。

有森君と沙智、二人はデートすることになった。なんか、二人は沙智の様子が変なんだ。昼休みまでは喜んでたんだけど、なんかあったのかな? 沙智とは正反対の有森君は海野君に冷やかされて恥ずかしそうにしてる。「冷やかすなよ―」なんて言ったりしてる。

「色んなとこ行けよ」

「わかってるよ」

「有森君、部活いいの?」

沙智は緊張しながらも有森君に聞いてる。

「今日は休みだ。まぁ、昨日はサボったんだけどな。明日、部長に怒られるだろうなぁ…」

有森君、バツが悪そうに頭をかきながら答える。

「磯部さん、行こうか?」

「うん」

沙智はうなずくと私達のほうを見る。

「じゃ―な! 享平!」

「オゥ!!」

二人に手を振る海野君。

「あの二人上手くいくといいな」

二人の後ろ姿を見ながら海野君が呟く。

「上手くいくよ」

二人の気持ちを知ってる私はうなずきながら言う。

「そうだな。じゃあ、オレ部活行くな。冴子、今日はありがとう」

「ううん。大したこと出来なかったけど…」

「また明日な!」

海野君は手を振って部活へと向かった。


多分、沙智は不安になってるんだと思う。好きな人を想って切ない気持ちになること。誰かに取られてしまうんじゃないかと思う気持ち。わかる気がする。私も同じこと思った。一人じゃどうすることも出来ないこと。誰かとやらなきゃ出来ないことあるんだよね。

冷たい風が私の頬に流れてくる。この風バレンタインデーと同じ風。そう、あの日もこんな冷たい風だった。よく覚えてる。こんな冷たい風が吹くぐらいだから、もしかしたらフラれるかもしれない。そんなこと思ってた。でも、そんなことなかったんだね。冷たい風もちゃんと私の味方をしてくれたんだね。ねぇ、海野君と付き合う前の辛い想いや嫌な想いをしたのは、遠回りしながら片想いしたのは、神様が仕組んでくれたことなの…?

…ありがとう。オレも貝本さんのこと好きだった…

…今年に入ってから、なんか気になって…

安らかな海野君の声。やっと届いた私の想い。海野君の中で芽生え始めた私への想い。この言葉を聞くために色んな出来事があった。息が出来ないくらいの辛い事もちゃんと耐えてきた。だから、今、海野君の彼女でいられるんだね。もし、バレンタインデーに海野君にチョコをあげることをやめていたら、私はどうなってただろう? きっと臆病な自分から抜け出せなかったと思う。




部屋の中、ベッドに寝転んだと同時に、ケ―タイが鳴った。

「もしもし?」

「もしもし? 冴子?」

「沙智? どうだった?」

「楽しかったよ。有森君ね、気を使ってくれて面白いこと言ってくれてすごく笑えたよ」

沙智の声から楽しかった事が伺える。

「それは良かった」

「早く有森君の彼女になりたいなぁ…」

「大丈夫! すぐなれるよ!」

「そうだよね。冴子にそう言ってもらえたら彼女になれる気がしてた」

「有森君に告られてOKしなかったら、私許さないよ」

「わかってる。ちゃんとOKします」

電話の向こうで沙智が笑ってる。

沙智、元気になって良かった。有森君とのデートで元気倍増したんだね。元気印の沙智が落ち込んでたら、私どうしたらいいのかわからないもん。

「冴子は海野君とどうなの?」

沙智が急に話をふってくるもんだから、

「はっ?」

気を抜けた声を出す。

「とぼけちゃって―。ロマンチックしてんじゃないの―?」

「し、してないってば! 私達は健全な交際してるんだからねっ!!」

思わず、大声で否定してしまう。

「私の知らないとこで…」

「してない、してない! も―、沙智ってば変な誤解しすぎだよぉ」

「そんなことないと思うけど?」

「そんなことより沙智も両想いになってよ」

話を反らす私。

「はいはい。わかってるわよ」


ロマンチックかぁ…。当分なさそうだな。それでもいい。海野君は部活が忙しいから、「付き合ってる感じはしね―けど我慢してくれ」って言ってたもんね。好きな人のために我慢は出来るって言ったら嘘になるけど、こればっかりは仕方ないもんね。好きな人には好きなことをやらせたいもん。無理には好きなことを辞めさせたくないもんね。

私はケ―タイを切ってベランダに出て、星を眺めた。

私のハ―ト、ほんのり色づいて高鳴った。


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