私勇気出せたよ!
あっという間にバレンタイン・イブ。少し曇り空。明日、晴れるって言ってたけど大丈夫かな?
学校から帰って、前に沙智についてきてもらって買ったチョコを見つめる。透明のプラスチックケ―スに入った、一個ずつ包んだマショマロのチョコを買った。水玉模様のメッセージカ―ドと封筒をつけてくれて、カ―ドの真ん中に「好きです」そう一言と自分の名前を書いて、封筒の中に入れた。そして、無地の袋にチョコのケ―スと封筒を入れた。
――「チョコ、受け取って下さい」――
心の中で呟く。明日は絶対に逃げない。逃げたくない!!今まではグチグチ悩んでた。やっと決心がついた。チョコを渡す決心がついた。
海野君、明日、私のチョコを受け取ってくれますか? 私のこと好きですか? それとも…。海野君に聞きたいことがあって胸がザワついてる。ずっと海野君が好きだった。出逢った時からずっとずっと…。でも、もうこの想いは隠したくないの。早く海野君に伝えたい。伝えなきゃいけないんだ。
二月十四日、聖バレンタインデ―。ついにこの日がやってきた。学校はいつもよりにぎやわ。チョコを渡す女子がチラホラいる。
「冴子、早く行きなよ」
沙智が私の耳元で言う。
「う、うん…」
返事はしたんだけど、すごく緊張。
決心はちゃんとしたのに、なかなか行動になれない私。
「ま、渡すのは冴子次第だしいつでも渡すチャンスはあるわよ」
沙智は気楽に言う。
「そうだよね。チャンスはあるよね」
「あるけど、渡さないなんてのはなしよ。せっかく渡すって決心して、チョコ持ってきたんだから…」
さりげなく忠告してくれる。
「渡さないなんてことはしないよぅ」
頬をふくらませて言う私に、沙智はクスッと笑った。
チョコを渡せずに放課後まできちゃった。
掃除当番の海野君を、サッカー部の部室近くで待つことにしたんだ。
掃除が終わった海野君が部室にやって来る。
「あれ? 貝本さん? 何してるんだよ?」
ビックリ顔の海野君。
「あ、あのっ…」
「ん?」
「あの…これ…チョコ…受け取って下さい…」
やっとの思いで出した声、すごく震えてる。
海野君、さっきよりビックリ顔になってる。
そのビックリ顔が私にも伝わってくる。
私、緊張と返事が聞くのが怖いのもあって、海野君の顔をまともに見れない。
「ありがとう。オレも貝本さんのこと好きだよ」
照れながらチョコを受け取ってくれる海野君。
「今年に入ってからなんか気になって…」
顔を赤くしながらそう言ってくれる。
私…海野君の彼女なんだよね? なんか…すごい…嬉しい…。切ない思い、辛い思いもしたけど、私の気持ちが海野君に伝わったんだ。
「貝本さんの下の名前ってなんだっけ?」
「冴子だけど…?」
「わかった。下の名前で呼びたいなって思うんだけどダメ?」
恐る恐る聞く海野君に私は首を横に振る。
「ありがとう。じゃあ、今日からよろしくな」
海野君はそう言った後、笑顔になった。
「二人、くっついたんだ?」
翌日の昼休み、私と沙智と海野君と有森君の四人で食べることになったんだけど、有森君は意外そうな口調で言った。
「そうだよ」
「前は岡田さんが好きだなんて言ってたのにな」
「前は前。今は今だよ」
「人の気持ちって変わりやすいな」
「だよね―」
「磯部もそう思うか?」
「うん。気持ちは自分だけしかわからないもんね」
沙智はしんみりと言う。
なんか、沙智と有森君て仲良いよね。似合ってるよ。二人付き合ったらいいのに…。
そう思いながら、私は二人を見ていた。
「冴子、何二人をジロジロ見てんだよ?」
「あ、ううん、なんでもない」
慌ててご飯に手をつける。
「羨ましいな。あ―、私も彼氏が欲しいな―」
沙智がわめきながらお茶を飲む。
「大丈夫よ。沙智に好きな人出来たら、私、手伝ってあげるね」
「何よ? その笑顔は?」
「なんでもないよ―」
私は笑顔のままご飯を食べる。
もし、チョコを渡してなかったらどうしてただろう? 後悔してたと思う。もしかしたら、海野君は他の女の子と付き合ってたかもしれない。それにタイミングが違えば、岡田さんと付き合ってたかもしれない。他の女の子と付き合って欲しくないから、勇気を出してチョコ渡したんだ。
バレンタイン、自分でもダメだと思ってた恋が実りました。楽しい事もあった。嫌な事もあった。辛い事もあった。色んな気持ちを乗り越えてきたんだ。でも、私勇気を出せたよ。