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元に戻らない二人

年が明けて、一月ももう真ん中。女子みんな、バレンタインのことでいっぱい。手作りにするだとか高級チョコを買うだとか、色々話してる。雑誌やお菓子の本を持ってきて、明けては悩むって感じなの。

「本命のチョコの色はホワイトなんだって」

「マジで? 私、彼に手作りのホワイトチョコをあげよっかな?」

「それいいかも。でも、私は今年は買うことにしたんだ」

「手作りのほうが思いこもっててよくない?」

「そうだけど私は買うんだ」

街中、学校中、学年中、クラス中がバレンタインの話でいっぱい。


「冴子、どうすんの? 海野君にあげるんでしょ?」

学食で二人で昼食中に沙智が聞いてくれる。

「うん…」

気のない返事の私。

「どうしたの?」

「うん…」

「何よ? 言ってごらん」

「なんか、海野君と石水さんが仲良くないなって…」

「そんなことか。冴子が気にすることないんだって。今はバレンタイン、チョコのことだけ考えなって」

「そうだよね」

「でも、冴子の言うとおり二人仲良くないよね」

「でしょ? 海野君が岡田さんに告白した時からね」

「いいんじゃない? 冴子のライバル減ったんだし…」

「まぁね」

そう、去年のあの日から海野君と石水さんは仲良くなくて、一言も喋ってない。

「海野君は好きじゃない」って、石水さんは言ってた。もう元に戻らない。二人はどこかで歯車がずれたんだ。そう思ってもいいよね。

「沙智、チョコ買いに行くの、ついてきてよ」

「オッケー! 駅前にチョコ屋さんあるから行ってみようよ」

「そうだね」

笑顔で答える私。


チョコをあげる決心をしたものの、ちゃんと渡せるかな。あの日から海野君と向かい合って話せてない。挨拶しかしてない。だから、少し不安が残る。大丈夫。海野君ならわかってくれる。私の気持ちわかってくれる。

今までは海野君が好きな人と一緒になるならそれでいい。そう思ってた。でも、今は違う。私の気持ちを伝えたい。出来ればハッピーエンドになりたい。現実はそんなに簡単じゃないけど、甘くないけど海野君に気持ちを伝えるだけでも違うよね。立派な恋だもんね。失恋はしたくないけど、出来ることはするから、私頑張るから、神様、ちゃんと見守っていてください――。





「うわ―、人たくさんだね―」

放課後、駅前のチョコ屋さん沙智と来たんだけど、予想以上に人が多くてビックリしてしまう。

「バレンタイン前だね。冴子、あまり甘くないほうがいいんじゃない?」

「程々に甘いほうがいいってこと?」

「そう。試食用のチョコ食べてみたらいいと思うよ」

沙智の意見を取り入れつつ、ちょっと自分の好きなチョコも取り入れていく。

「冴子、これいいんじゃない?」

四個目のチョコを食べた沙智が指差して言う。

「餅チョコかぁ…」

「人とは違うと思うよ」

「そうだよね。私が気になってるのは、マショマロのチョコなんだよね。う〜ん…どっちにしようかな?」

二つのチョコを前にして真剣に悩む私。

そんな私に沙智はクスクス笑いだす。

「沙智?」

私はチョコから目を話して沙智を見る。

「ううん。冴子が真剣だなって…」

「そうかな?」

「うん。前よりか行動的になってる」

「行動的になった、か…」

行動的になった。確かにそうなのかもしれない。去年、沙智と一緒に海野君と話しに行ってなければ、今の私はなかった。


二月十四日、バレンタインデ―。今まで辛いことや大変だったけど、私頑張る。今、頑張っておかないと後で後悔する。それだけは嫌だから、一生懸命頑張る。

それにしても、石水さんは海野君にチョコあげないのかな。「好きじゃない」って言ってたけど、まだ好きなんじゃない? 石水さん、海野君のこと好きなんじゃない? もし、まだ好きなら私…。不安なハ―トが呟く。






翌日の朝、私より早く来ていた石水さんを正門近くに呼び出した。

「貝本さん、話って何よ?」

少しイラつかせた口調の石水さん。

「海野君にこと好きじゃないって前に話してたから、ホントのところどうなのかなって…」

自分が呼び出したくせに弱々しく言ってしまう。

「もう好きじゃないわよ。私、転入した時から好きだって言ってて、海野君も好きだって言ってくれたのに、それが岡田さんのこと好きだったなんて…。そんなのひどいし、優柔不断過ぎるわよ」

そう言った石水さんの表情、悲しかった。

「もうすぐでバレンタインだけど、貝本さんフラれるんじゃない?」

「なんで、そんなことわかるの?」

「海野君、まだ岡田さんのこと好きみたいだし…。バレンタインまで片想いを楽しんだほうがいいわよ」「そ、そんな…」

言葉につまってしまう。

「フラれるんなら、チョコあげないほうがいいんじゃない?」

「そんなことわかんないよ!!」

私はカチンときて大声で叫んでしまう。

大声で叫んだ私にビックリしている石水さん。

そんな私達を登校するみんながチラチラ見てる。

その時だった。

「石水と貝本さん…」

海野君が近付いてくる。

「海野君…」

石水さんが海野君に気付くと、バツが悪そうな表情になる。

この二人を見てると、胸がつまってきて、私走って逃げてた。気が付いたら、自分の教室まで逃げてた。


「貝本さん、急にどうしたんだよ?」

私を追いかけてきた海野君が私をのぞきこむ。

「石水と何かあったのか?」

「う、ううん…なんでもない」

「顔悪いぜ?」

「大丈夫だから。海野君は心配しないで」

そう言うと、私は自分の席に座った。


フラれるんなら、海野君にチョコをあげないほうがいいの? 海野君は岡田さんのことがまだ好きなの? 私、どうしたらいいのかわからないよ。こんなに好きなのに、こんなに想ってるのに…。

さっき二人から逃げたのは、石水さんのこと色々言う資格がないっ気付いたから。石水さんが海野君のこと好きでも嫌いでも、石水さんの勝手だって気付いたから。海野君が岡田さんのこと好きでもいいじゃないって思ったから。矛盾してるけど、そう気付いたから逃げたの…。

そして、今さっき気付いたの。もう二人は戻れないって…。海野君が好きだった石水さんには戻れない。石水さんと仲がいい海野君には戻れない。誰が悪いんでもない。とにかく、私がとやかく二人のことを言う資格なんてない。

今はバレンタインのことだけ、海野君のことだけ考える。沙智にも応援してもらって頑張らなきゃ。一人ではどうすること出来ないけとあるかもしれないけど、沙智となら出来るかもしれない。やってみなきゃわからないこと、たくさんある。私に必要なものは、たった一つ。「勇気」――。ただ、それだけ。

十六歳のバレンタイン。勇気をもらって、海野君にチョコを渡す。臆病な殻を破りすてなきゃ。失くすことがあるかもしれないけど、出来るだけやってみなきゃ。


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