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つぶれた恋

石水さんが転入してきて一ヶ月が経ち、十月になり外はもう秋になった。

海野君と石水さんは相変わらず仲が良くて、石水さんは男子にモテている。

私はというと、なるべく二人には近付かないようにしてる。海野君は私に今まで通りに接してくれてるのに、私はぎこちない笑顔で接してしまっている。石水さんにファーストフ―ド店であんなこと言われても、海野君が好き。好きにならなければ良かったって後悔もしたけど、やっぱり海野君が好き。自分の気持ちに嘘はつけないよね。


「そんなんじゃダメでしょ?」

昼休み、沙智がいつもどおり相談にのってくれる。

「もう一度、頑張ってみる。諦めたくないの」

「いいんじゃない? 諦めたら辛いだけだもん」

「そうだよね」

「さっ、行こう」

沙智は何かを決意したようにイスから立ち上がる。

「行こうって…どこに…?」

「海野君のとこよ。昼休みだと中庭で有森君と話してるみたいだしね」



「海野君と有森君!」

中庭で二人仲良く話してるのを見つけた沙智は、二人を呼ぶ。

「おっ、磯部さんと貝本さん」

「何話してたの?」

「まぁ、色々とな」

有森君は遠回しに答える。

「そっか。ホント、二人は仲良いよね」

「ハハハ…そうだな。よく言われるよ。そういう、磯部さんと貝本さんも仲良いじゃん」

「まぁね。私達は凄い仲良いよ。ねっ? 冴子」

「そうだよ」

笑顔の私と沙智と有森君。

だけど、真剣な表情の海野君。

一応、海野君の表情には気をとめていたけど…。

「海野君、どうしたの? 元気ないよ?」

沙智が海野君の顔をのぞきこんで聞く。

多分、私の思っていたことに感づいたのか、沙智も私と同じことを思ったのかわからないけど、沙智が口を開いたんだ。

「実は、オレ、好きな人いるんだ」

海野君の衝撃的なセリフに、私は頭の中がわけがわからなくなった。

「享平って好きな人いたんだ?」

「うん。そりゃあ、オレだって好きな人ぐらいは…」

「誰だよ?」

「さぁな」

海野君は答えをはぐらかすと、立ち上がった。

「海野君、どこ行くの?」

「教室だよ。もうすぐで昼休みが終わるチャイムが鳴るだろ?」

「ああ…そっか」

私達四人は教室に戻った。

私は不安な気持ちを抱えながら…。


海野君の好きな人。有森君にも言ってなかった好きな人。それは一体誰なの? 石水さんなの? 私なの? それとも違う人なの? 「さぁな」って答えてたけどはぐらかさないでよ。そんな答えだと不安になって、胸が潰されてそうなんだよ。ちゃんとホントのこと言って欲しいよ。海野君…。

もし…もしもだよ。海野君の好きな人が石水さんだとしたら、私はどうしたらいいの? 私の気持ちはどうしたらいいの? もう忘れなきゃいけないの? 諦めなくちゃいけないの? ねぇ、教えてよ。そうじゃないと私何もわからない。海野君の気持ちも、海野君が想ってる人も…。

そして、海野君の好きな人が私だとしたら、石水さんはどうなるの? 私みたいに忘れなきゃいけないの? 海野君が選ぶことで、どちらかが不幸になる。それだけは嫌だよ。いっそのこと、海野君が二人いたら良かったのに…。そうすれば、どちらかが不幸にならずに済んだのに…。





あれから、五日が経った。

なんか、海野君と石水さんの仲がギクシャクしてる。いつもなら朝も「おはよう」って元気よく挨拶してるのに、頭を下げあってるだけ。休み時間も二人仲良く喋ってるのに、石水さんは違うクラスに行ってしまってる。なんだか、しっくりこない。それが始まったのは三日前。初めはこういうこともあるかって思ってたけど、三日もそんな調子じゃ何かあったのかなって考えちゃうよ。もしかして…とは思うけど違うよね…。

「海野君と石水さんてなんかおかしくない?」

昼休み、学食で二人で食べることになったんだけど、沙智は海野君のことを話題に出した。

「確かに。他人行儀っていうか、そんな感じだよね」

「うんうん、言えてる」

「何かあったんだろ? 気になるよね」

「どちらかがフラれたんじゃない?」

「どういうこと?」

「例えば、石水さんが海野君に告ってフラれたとか。それなら筋が通るじゃない?」

「そっか。考えたくないけどその逆もあるかもしれないもんね」

「海野君、好きな人いるって言ってたし…。でも、それなら二人は付き合ってるよ」

「それもそうだよね…」

私は考え深くなりながら頷く。

そう、私と沙智みたいに二人のことを噂してる子達がたくさんいるんだよね。同じクラスの子は勿論、他のクラスの子が噂してるんだよね。でも、二人は気にも止めていないみたいで何事もないように過ごしてる。




「海野君っ!」

沙智は部活のミ―ティングだから別れて、私は学食から教室に戻る時に、中庭で一人で座っている海野君を見つけた。

「あ、貝本さん…」

「最近、元気ないみたいだけど何かあった?」

「うん、ちょっとな…」

どことなく元気ない返事をする海野君。

「どうしたの?」

もう一度、聞いてみる。

でも、海野君は何も話してくれない。

「海野君…」

私は海野君の名前を呟いたまま黙ってしまう。

そして、海野君はゆっくり口を開いた。

「オレ、好きな人にフラれちゃって…」

「えっ?!」

ビックリしてしまう私。

「オレらのクラスに岡田さんているだろ?」

「うん」

「フラれたんだ。それを石水が気付いたんだ」

「ケンカしたの?」

「まぁな。石水って性格悪いよな。今になって気付いたよ」

悲しい表情で話してくれる海野君。

ギクシャクしていた二人の仲。気になっていた理由がやっとわかった。そして、海野君の好きな人も――。

海野君が岡田さんに告白した。

私でも石水でもなかった、海野君の好きな人。海野君のこと好きなのにどうすることも出来ない。海野君が石水さんが性格悪いって気付いてくれたのは嬉しいけど、海野君は岡田さんのことでいっぱいなんだよね。失恋のことはわからないけど、わかる部分もある。好きな人に振り向いてもらえない辛い想いをすること。

「フラれても頑張るよ!」

空元気の海野君。

それがなんだか辛い。

「岡田さんのこと忘れて次の恋でもしようかななんて…」

「大丈夫だよ。海野君モテるから…。何も出来ないかもしれないけどなんでも話してよ。話すだけでも気が楽になるしね」

私は言葉を選びながら海野君に伝える。

「ありがとう、貝本さん。次は貝本さんに恋しようかな?」

海野君は何気なく言う。

「う、海野君?! 何言ってんの?!」

「ハハハ…。ま、貝本さんは性格悪くないから彼女にするならいいかもな」

海野君の精一杯の笑顔で言ってくれる。

とても嬉しい。こんなこと言われるは嬉しいよ。

海野君がフラれたのと同時に、石水さんは海野君にフラれたことになるんだよね。私だってフラれたことになる。ううん、私も石水さんもフラれてない。海野君が岡田さんにフラれただけ。そうだよ。海野君がフラれただけ。自分に言い聞かせて、心の中を海野君いっぱいにする。


…次は貝本さんに恋しようかな?…


岡田さんのこと以外に考える余裕なんてないのに、私と付き合おうかななんて言ってくれた。海野君だって岡田さんのこと好きだった時も、岡田さんのこと考えてたんだよね。私も海野君のことしか考えられない。海野君と同じことなんだよね。海野君はフラれたばかりだもん。すぐには人を好きにはなれない。

もうすぐで秋から本格的に冬になる。冬は人と人を近付ける季節。その通りだと思う。私も海野君に近付いてる。海野君のこと好きだから、頑張ればなんとかなる。

私、海野君の側にいたい――。


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