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石水さんの一言

「沙智、おはよう」

翌日の朝、いつもより遅く学校に着いた。

「おはよう。冴子、今日遅いじゃん」

「うん。昨日、ママとケンカしちゃったんだ。パパが止めに入ってくれたんだけどね」

「へぇ…珍しい。冴子でも親子ゲンカするんだ?」

「するよ―」

苦笑いしながら答える。

私が答えた後に、ガラッとドアが開く音が教室内に響く。

ドアのほうに目を向けると、海野君と石水さん二人で教室に入ってくる。

そっか…。二人、一緒に来たんだ…。

「冴子?」

「沙智…」

「元気だしなよ! あんな光景見ただけで落ち込んじゃダメだよ」

「そうだよね」

とりあえず、返事はしてみたけど、ため息まじりになってしまう。



ショートホームルームが終わって、いつもの見慣れた光景が私の目に入る。

海野君の周りには、相変わらず石水さんがいて、海野君の一番の友達の有森君もいる。そして、二、三人の男子も集まって仲良く話してる。

「石水さんて、ライバルとする女子っているの?」

何気なくそばにいた男子が、大声で石水さんに聞いた。

石水さんは少し考えて、いつもの笑顔でこう答えたんだ。

「私がライバルとするのは、貝本さんだよ」

「マジで?!」

「貝本、石水さんがライバルだってよ―。どうする?」

「いいな―。オレも貝本になりて―」

男子が私を羨まそうに叫ぶ。

「冴子…」

私、自分の顔がひきつってるのかよくわかる。

私に対して、石水さんは余裕の笑顔でいる。

「なんでライバルが貝本さんなんだよ?」

有森君が聞く。

クラスがしんと静かになる。

「それは、恋のライバルだからよ」

石水さんがそう答えると、突然クラスが爆発したようにうるさくなった。

「石水さんて好きな人いるの?」

「いるよ」

「誰なの?!」

「秘密よ。多分、貝本さんも私と好きな人一緒のはずよ」

余裕綽々て話す石水さんは、まるで自分が好きな人と付き合う寸前までいってるのよという口調だ。

これってかなりマズイ状況だよね。きっと海野君と話したり見つめたりしてるから、石水さんにはバレてたんだ。ど、どうしよう…。石水さんには勝てっこないよ…。

「冴子、バレてるよ」

沙智がそっと耳打ちする。


「うん…きっと私には石水さんは海野君が好きだってことわかってるよ」

私の声、かなり動揺してる声だ。

「こればっかりは仕方ないけど、クラスのみんなにバレないようにしなくちゃ、だよ」

「そうだよね…」

石水さんにバレてるなら、海野君にもバレてるのかな? 最悪だ。誰か、私と変わって欲しいよ。ホントに…ホントに…どうしよう…。




あっという間に放課後になった。

私は一日憂鬱な気分で授業を受けていて、今日は早く帰ろうと何度も思っていた。

「冴子、大丈夫?」

「うん、大丈夫。今日は早く帰るよ…」

ため息をついた後に、沙智の質問に答える。

「そうしたほうがいいかも。あまり無理しないでね。私、これから部活だからいくね」

「ありがとう。また明日ね」

教室の前で沙智と別れると、下駄箱に向かった。

沙智は料理部にいるんだ。週に一日だけの部活で、今日がその日なんだ。

あ―あ、これから石水さんに目つけられるのかな。嫌だな…。別に好きな人がいたっていいじゃない。おかしいことじゃないもん。

そんなことを思いながら、正門へと向かう。

「貝本さん」

誰かが声をかけてきた。

振り向くと、ロングヘアがとても似合っている石水さんが立っていた。

私は声が出ないまま、石水さんを見てるだけ。

「話があるんだけどいい?」

石水さんの問いかけに頷くだけしか出来なかった。

私達は駅前にあるファーストフ―ド店に入り、ジュースを頼み席に着くと向かい同士に座った。

「ねぇ、享平君のこと、好きなんでしょ?」

「……」

「この前、磯部さんと話してたから貝本さんは海野君が好きなのかなって思ったのよ」

「…なんで…わかったの…? あの時、沙智もいたのに…」

やっとの思いで声が出て聞いてみた。

「恋してる人のことがなんとなくわかるのよ」

ふ―ん…そうなんだ…。恋する女の勘ってヤツか…。

「私も好きだから、貝本さんの気持ちがわかるよ」

「え…?」

「好きな人に自分の気持ち、バレたくないって誰でも思うもん。享平君は貝本さんの気持ち、知らないみたいよ」

「そう…」

「私と貝本さんが告ったら、享平君は私を選ぶと思うよ」

「どういうこと…?」

「私と享平君は仲良いもん。貝本さんは言うほど仲良くないじゃない」

「そ、そんなことない! まだわからないじゃない!」

自分でも気付かないうちに大きな声を出しちゃってる。

「そう? 享平君は私のこと好きだと思うけど?」

「そんなことないもん!」

「そんなにムキになることないんじゃない? 高校生なんだから、落ち着いたら?」

石水さんはイジワルなことを言って、いつもの笑顔をする。

私は何かを言いたいことをぐっとこらえた。

も―――っっっっ!! サイテ―――!! 石水さんは性格悪すぎだよぉぉぉ!! 石水さんと付き合うくらいなら、私と両想いになって付き合いたいよ。明るくて活発的なのはいいけど、性格悪いのは困るよ。ひっぱたいてやりたいのを堪えて言い返すだけにしたけど、やっぱりひっぱたいてやれば良かったよ…。

でも、石水さんと喋ってる海野君は嬉しそうで楽しそうにしてるのは確か。やっぱり、石水さんのこと好きなのかなぁ? 海野君は石水さんみたいに活発的な女の子がいいのかなぁ? それにしても、海野君も鈍感かも? 石水さんと喋ってて性格悪いの気付かないのかなぁ? 性格悪くないようにしてるんだと思うけど、なんだか納得いかないなぁ…。早く気付かせなくちゃ。私が気付かせなくちゃいけないんだ。明日からでもいいから、自分の殻を破って少しずつ変わっていかなきゃいけないよね。






「えっ? 呼び出された?」

沙智が驚いた表情をした。

翌日の朝、駅前で沙智と待ち合わせして昨日の出来事を話したの。

「うん。昨日の石水さんのイジワルな言い方を聞いてたら、性格悪いって思っちゃったよ」

昨日の出来事を思い出しながら話す私は、ドンヨリした表情で答える。

「冴子、絶対に負けちゃダメだよ。私、冴子のこと応援してるからね」

「ありがとう、沙智。私、頑張るよ」

ガッツポーズをして気合いを入れる。

海野君と石水さん。モテる男子と美人の女子の組み合わせ。端から見れば、最高のカップルだよね。でも、この組み合わせじゃ上手くいかないような気もするよ。

海野君、石水さんのことが好きなの? 好きなら、私の想いはどうすればいいの…?




「貝本さん!」

休み時間、私はトイレから出てきたところを誰かに呼ばれて、声のするほうへ振り向いた。

「あ、海野君…」

なんだか、気まずいな…。

海野君の顔を見て、思わず下を向いてしまう。

「昨日のあのこと、気にしてんのか?」

私が下を向いてしまったのを見た海野君は、気にかけてくれる。

「え、あ…」

気にしてないって海野君に伝えようとしても上手く言葉に出来ない。

「昨日一日、貝本さんが元気なかったから気にはしてたんだ」

「私は大丈夫よ」

そう一言、精一杯の強がりを海野君に言う。

「…ならいいんだ。あまり石水の言ったこと深く気にすんなよ。気にしすぎると辛いだけだしな」

「ありがとう」

軽く頷いた後に、礼を言った。

海野君は優しいんだね。見てるだけじゃわからないこと。今、わかったよ。行動してわかったこと。たくさんあった。

「でも、石水はイジワルなとこもあるけどいいとこもたくさんあるんだぜ」

――え…?

私の胸の中で何かがざわついた。

「海野君…?」

「気は強いけど友達思いなとこやスポーツ得意なとこは尊敬するよ。結構見てるんだ」

「……」

何も言えなくて、再び下を向いてしまう。

海野君がそんなこと言うと、昨日のファーストフ―ド店で石水さんが言ったこと。私より石水さんを選ぶ。あのセリフを裏付けているようで怖いよ。こんなこと、私信じたくない。信じたくないよ。そう思うけど、心の中で違う何かが叫ぶ。

海野君と同じクラスで良かった。海野君と話せて嬉しかった。昨日のこと心配してくれて嬉しかった。海野君の特別な存在になれたみたいな気がしたの。確証はないけど、やっぱり海野君は石水さんが好きなんだ。

もし、タイムマシンがあるのなら、海野君と出会う前に、高校を入学する前に戻りたい。私の「好き」を消し去って欲しい。海野君を想う気持ちも何もかも消し去りたい。この気持ちにサヨナラして、もう一度やり直せたらいいのに…。もう一度出会った頃にやり直せたらいいのに…。海野君を好きにならなければ良かった。ホントに後悔だよ…。


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