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初夏の風

新学期が始まって二ヶ月。もう六月になった。梅雨の季節。早いよね。この前、やっと二年になったところなのに。パパには認めてもらってない。二人できちんと伝えようって言ってるんだけど、まだ言えてない。早く伝えなきゃいけないよね。



「享平、今日部活休みだったよね?」

「うん、休みだぜ」

「じゃあ、パパのとこ行こう」

「もしかして、認めてもらいに…?」

「そのもしかして、だよ」

私は明るく返事する。

「別にいいけど…」

享平ってば不満顔。

「行くの嫌?」

「嫌じゃないよ。今日、行こっか?」

「オッケー! 享平、ありがとうね!」

「決まるとソワソワするな」

享平、今から緊張してる。

緊張しても何も変わらないんだけど、私も緊張してきたよ。

「言う時は、もっとソワソワするんじゃない?」

「多分な」

「大丈夫? なんか、心配だな」

「言えるよ。冴子は心配しなくてもいいよ」

享平は苦笑しながら答える。

「享平だから心配だな」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「まっ、パパは言えばわかる人だから…」

「わかってるよ」

そう言いながら、享平は笑顔になる。

「冴子!」

「あ、沙智と有森君!」

「何話してんだよ?」

有森君は私達に聞いてくる。

「なんでもね―よ」

「なんだよ、それ」

「お前らこそ二人でどこ行ってたんだよ?」

「職員室に用事で行ってたんだよ」

「へぇ…二人の付き合いがバレたってか?」

享平はケラケラ笑いながら言う。

「そんなことで呼ばれね―よ。オレは部活で、沙智は委員会で呼ばれて、職員室から二人で来たんだよ」

「仲良いよな」

「お前らもだろ」

二人の会話に、私と沙智は笑いあった。






放課後になって、私と享平はパパがいる職員室まで行った。

私達の緊張も最高潮に達した。

三階にある会議室、私と享平とパパの三人でいる。

誰一人として口を開かない。

どうしよう。何か言わなきゃ。パパに伝えたいことあるのに…。

そう思った瞬間――。

「認めて欲しいのか?」

パパは重い口を開いた。

「そうです」

享平ははっきりとした口調で答える。

「そうだな…」

考え込んでしまうパパ。

享平の真剣でまっすぐな目は、パパに向けられている。

早く返事をして欲しい。そんな目をしているようにも見える。

「よし、認めてやろう」

「えっ? ホントですか?」

「あぁ…。お前達の気持ちには負けたよ。海野、冴子を大切にするんだぞ」

パパは笑顔で言ってくれた。

「わかってます」

享平の笑顔。

私も思わず笑顔になってしまう。

「パパ、これから駅前のケ―キ屋さんに行こうよ! すっごくケ―キがおいしいんだよ!」

「行きたいけど部活があるんだ」

「え――っ。じゃあ、享平も部活ってことだよね?」

思いっきり不満声の私。

「仕方ない。次の休みの時な」

「海野もそう言ってるんだ。次の休みにでも行こう」

「わかった。ホントにホントだよ」

「約束するよ」

「ヤッタね。その時は三人で行こう。それと、沙智と有森君もね」

「随分、大勢なんだな」

苦笑気味のパパ。

「いいの。大勢のほうが楽しいもんね!」

「そうだな。じゃあ、行くぞ」

パパは立ち上がる。

私ってば嬉しさのあまりペラペラ喋ってた。




「良かったね、享平」

「うん。オレ、ずっと緊張してた」

「私も。短い時間なのに長く感じたもん」

「そうだな。これからもヨロシクな!」

そう言うと、享平は右手を出す。

私も右手を出して、二人の手が重なりあう。

「オレ、部活行くな。また、明日な!」

「うん! 明日ね!」

私は部活に向かう享平の後ろ姿を見つめる。

今までは色々あった。でも、今日、やっとパパに認めてもらえた。岡崎さんのことで、すごく嫉妬してた時もあった。それで、私一人でずっと悩んで、熱も出して倒れて、享平に迷惑かけちゃった。それに、二人で会わないほうがいいって言っちゃったりした。私って最低だよ。享平と別れることになったら…って思った。でも、こんなことがあったから乗り越えられた時のこの瞬間が嬉しいし、これからも享平と仲良くしてきいたいって思ってるよ。

岡崎さん、享平に告白したみたい。享平はちゃんと断ってくれた。マネージャー辞めるって聞いた。享平にフラれたから辛いんだよね。岡崎さん、あなたの気持ちもよくわかる。好きな人の側にいれない辛さ。フラれた後の辛さ。岡崎さんにもいい人見つかるといいな。

私と享平、たくさん辛いこともあるけど、楽しいことがたくさんあったほうがいいし思い出も作っていきたい。

享平とずっと仲良しでいられますように――。


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