仲良しになった二人
あれから数日が経った。私とパパの仲は相変わらずで、私達の事を認めてくれない。
早くに言わなかった私が悪いんだけどさ、娘の付き合ってる人の事で、いつまでも認めないってのもどうかと思うんだよね。早く認めてくれたらいいのに。ホンット―にパパってば頑固なんだからっっっ!! なぁんてね、私もボ―ッとしてるわけにはいかない。どうしたら認めてもらえるか考えなくちゃ。
放課後、私はサッカー部が見える中庭で一人で座ってた。
「貝本さん?」
「あ、石水さん。今日、バスケ部は?」
「今日は休み。何してんのよ? こんなところで…」
「見てのとおり、サッカー部見てるの」
「あぁ…享平君ね。相変わらず、サッカー好きだね」
石水さんは私の横に座ってから言った。
サラサラの長い髪。パッチリした目。私と正反対の性格。ハキハキしてる反面、どこか持陰をってる。
「そういえば、岡崎さんも享平君の事好きなんだっけ?」
「そうみたい。私、ビックリしちゃって…」
「岡崎さん、サッカー部のマネージャーだしね」
「……」
石水さんからサッカー部のマネージャーって言葉が出て、何も言えないでいる私。
「気にすることないんじゃない?」
私の気持ちを見透かしてか、石水さんは何気なく言った。
「そ…そうよね!」
わざと明るい声で言う。
「そうよ。貝本さんは享平君の彼女なんだし、いつも通りいいと思うよ」
「そうだよね…」
…気にしない…。この言葉に何度、助けられただろう…。
「私達、一年の時より仲良くなってるね」
「そうだね。一年の時は享平君の事で張り合ってたもんね」
石水さんは思い出すように言った。
「色々あったねぇ。享平は岡田さんが好きだって言ってたし…」
「言ってた、言ってた。あの時、私、凄くショックだったんだよね」
「私もだよ」
「貝本さんも? 一緒だ」
ニコッといつもの笑顔で笑ってくれる石水さん。
「一年の時はキツイ事ばっかり言ってごめんね」
「いいの。石水さんがいなかったら、私…」
「……?」
「今の私はいなかった」
「そっか…」
しばらくの沈黙後、
「サッカー部が終わったら、差し入れなんてどう?」
「差し入れ…?」
差し入れか…。考えた事もなかった。マネージャーの岡崎さんがやってくれてる。だから、余計にそんなこと考えた事なかった。享平は私からの差し入れして欲しいって思ってる?
「料理部に友達がいるから、少しお裾分けしてもらいに行こうよ」
「でも…」
「いいの、いいの。今日、料理部の活動日だから…」
そう言うと、石水さんは私の腕を掴んで、料理部のいる調理室まで行かされることになった。
プ―ン。
鼻につく甘い匂い。料理部の子達が料理してる。
今日はクッキーとプレーンマフィンを作ってる。ちょうど先生がいないから、私達こっそり入ってきたんだ。石水さんの友達からマフィン一個とクッキー二枚もらうことになったんだ。作ってる間、私は購買部で飲み物を買ってきたんだ。
今の私には、差し入れすることで精一杯。ちゃんと享平にあげなきゃ。そういう気持ちでいっぱい。
「はい。これ持っていくのよ」
「うん、わかった」
「私はこれで帰るけどファイトよ、ファイト!」
「ありがとう、石水さん」
石水さんに散々頑張れコ―ルを受けて、グランドに向かう。
午後六時半、サッカー部が更衣室に入っていく。それを見た私は急いで走っていく。
「享平!!」
更衣室に入ろうとする享平を呼び止めた。
「冴子、どうした?」
「あ…あのね…」
「ん?」
「これ、差し入れ」
袋に入れたマフィンとクッキーと飲み物を、享平の前に差し出す。
「差し入れ? ありがとう。スゲー嬉しい」
嬉しそうな笑顔で受け取ってくれる享平。
「海野君?!」
岡崎さんが呼ぶ声。
「岡崎…」
「なんで受け取るの?」
岡崎さんの問いかけに、困っている享平。
「なんでって…冴子はオレの彼女なわけだし、差し入れを受け取るのが普通だって」
きっぱり言ってくれる享平。
今にも泣きそうな岡田さん。
「そうだよね…。ゴメンね、海野君」
泣き出しそうな声で言うと、岡崎さんは走っていっちゃった。
「冴子、すぐに着替えるから待ってて」
「オッケー」
ブイサインを享平に向ける。
…なんで受け取るの?…
岡崎さんの言葉が、私の頭の中でリピートする。片想いしてた時の私に似てる。石水さんに嫉妬してた私に似てる。岡崎さんの表情や気持ちや全て。なんか、岡崎さんの気持ちわかるような気がする。どこか期待してて、どこか嫉妬してる。
「美味しいよ」
「ホントに? 私が作ったんじゃないのに…」
「それでも冴子の気持ちは伝わったよ」
「ありがとう」
お礼を言うと、深いため息をついてしまう。
「さっきのこと、気にすんなよ」
「あ、うん…」
気のない返事の私。
「大丈夫だって。冴子は心配しなくてもいいって、なっ?」
「そうだよね。それより早く食べてよ」
「オゥ!」
気にすることないんだよね。私は享平の事を考えればいいんだよね。無理して岡崎さんの事、心配しなくてもいいんだよね。
「今日、練習キツくて腹減ってたんだよな」
享平は嬉しそうに話す。
「ちょうど良かったよね」
「凄いグッドタイミングだな」
「享平の場合はいつも練習キツいんでしょ?」
「まぁな。でも、サッカー好きだし苦にはならないけどな」
「部長候補だもんね」
「え? なんで知ってんの?」
目をパチクリさせる享平。
「噂で聞いてたし、沙智も言ってたよ」
「なぁんだ。知ってたのか―?」
享平はガックリしている。
「なぁんだって何よ?」
思わず、頬をふくらませる私。「いや、部長になったら自慢しようかなって…。知ってたならいいか」
「別にいいのに…」
部長候補でも、部長候補じゃなくても、私は享平のサッカーしてる姿が好きだよ。マネージャーになれなかったぶん、ずっと応援する。ずっと側にいてあげたい。私は享平がサッカーしてる姿が自慢だよ。遠いところからシュ―ト出来る。相手が蹴ったボ―ルを止めることが出来る。享平のサッカーしてる姿、そのものが自慢になってる。だから、部長になったからって自慢しなくてもいいんだよ、享平。
私と享平。恋人らしく…。そのぶん、辛いことや切ないことが増えていくけど、そんなこと気にしない。私、決めたんだ。辛いことがあっても挫けないって…。そんなこと気にしても仕方ないもん。
「さっ、行こうか」
「うん、行こう」
暖かい風が私達の背中を押してくれる。
「今度、冴子の作った物が食いて―な」
「言ってくれたらなんでも作るよ」
「サンキュ」
「でも、難しいのはダメだよ」
「なんだよ、それ?」
夕日が綺麗なオレンジ色になりかけた頃、私達の会話だけが響いていた。