認められない気持ち
翌日の放課後、私と享平、沙智と有森君のWデ―ト。
この前、沙智と二人で来たケ―キ屋さんに来たんだけど、私以外の三人は仲良く喋ってる。私はというと、窓の外を眺めてばかり。
今日もパパは八時前に学校に行っちゃった。昨日、私、パパにキツイこと言っちゃった。私の言ったこと気にしてる? それとも、怒ってる? ママみたいに優しく言えば良かった? あんなにキツイこと言うつもりじゃなかったのに…。今から後悔しても遅いってこと…わかってる…。私ってばいつからあんなにキツイこと言うようになったんだろう。ちょっと前まではパパの言うこと聞いてた。それなのに、いつから…?
いつまでもパパの言うことを聞いてる私じゃいられない。私自身の意思で、自分の思いを言わなきゃいけないんだ。時には、昨日みたいに逆らったり、時には、他人の意見を聞く。そうしなくちゃ、冴子。いつまでも子供じゃいられないんだから…。もう一人の私が呟く。
「…冴子?」
「え…?」
「え…? じゃないよ。元気ないよ?」
沙智が心配してくれる。
「さっきからボ―ッとしてる」
有森君も指摘する。
「そ、そうかなぁ…」
ジュースを飲みながらごまかす私。
「ボ―ッとしてたのは図星っぽいな。顔に出てるし…」
「享平まで…」
「最近、ボ―ッとし過ぎじゃね―? やっぱ、担任が自分の父親だから?」
有森君、すごくスルドイ。私の考えてること、ちゃんとわかってる。
「まぁ、そんなところかな。アハハ…」
当たってると思いながら、顔をひきつらせて笑ってみせる。
「そんな無理した顔して…」
「無理なんか…」
そう言いかけた私の瞳に飛び込んできたのは…パパだった。
「冴子?」
享平が私の制服の袖を引っ張る。
「あれ…パパ…」
私が指指す方向に、三人は目をやる。
「ホントだ。貝本先生だ」
「こっち見てるよ」
パパはケ―キ屋さんの窓際にいる私達に気付いて見てる。
どうしよう…。昨日、キツイことをパパに言ったばかりなのに…。今は会いたくない。
でも、パパはケ―キ屋さんの中に入ってきて、私達の机に向かってきてる。
今にも逃げ出してしまいそう。
「どいて、享平」
素早くカバンを持って、イスからおりると、逃げる体勢の私。
「ちょっと、冴子、どうしたのよ?」
沙智が言ったのと同時に、ガシッとパパが私の腕を掴む。
「い…いたっ…」
「逃げることないと思うけど…?」
「そうだよ」
享平もパパと同意見だと言わんばかりに頷く。
私は仕方なく席に戻る。
「貝本先生、何してるんですか?」
「駅前の見張りだ。最近、バスや電車のマナーが悪いと苦情がきてるんだ」
「そうなんですか。先生も大変ですね」
「そうだな」
パパはため息をつくと、コ―ヒ―をオ―ダ―した。
「先生、俺達のこと認めてくれないんですか?」
突然、享平が真剣な表情で言った。
「急にどうしたんだ? 海野」
「噂や冴子から聞いてると思います。俺達、ちゃんとした健全な付き合いをしてます」
「付き合ってどれくらいだ?」
「バレンタインの時だから、もう二ヶ月になります」
きっちりと答える享平。
急なことで、私達三人は唖然。
「享平…?」
「先生の事は冴子から聞きました」
「それでちゃんとした健全な付き合いをしている。そういうのか?」
「そういうつもりで言いました」
とても険悪なム―ドになる。
「はっきり言うと、認めてはいない」
「二人は仲良いですよ。付き合って日数は少ないけど、先生が思ってる程でもないですよ」
沙智がフォローしてくれる。
「だから、ちゃんと認めて欲しいんです」
「二人の行動を見てからだな。その話は終わりだ。冴子、帰ってきたら、パパの部屋に来なさい」
「うん…」沙智がフォローしてくれた事に感謝して泣きそうになりながらも返事した。
きっとパパの中では、気持ちが固まってるんだ。パパの中では、色んな気持ちでいっぱいなんだよね。私達を認めたくない気持ちと少し認めたい気持ち。色んな気持ちが交差してたと思う。パパとじっくり話し合わなくちゃいけないよね。
…認めてはいない…。
パパの声、ほんの少しだけど戸惑ってた。戸惑うパパの声。そんなパパの声、初めて聞いた。いつもならちゃんと意志が決まってるハズなのに…。沙智が言ったせいもあるんだと思う。それなのに、なんか変だよ。
「海野の事だが…」
パパの部屋でパパが重い口を開く。
学校の資料とかたくさん置いてある。
「パパの気持ちは、ちゃんと決まってる」
「……」
「まだ二人を認めるわけにはいかない」
「そっか…」
ポツリと呟くと、下を向いてしまう私。
パパが下した決断、わかってた。私の心のどこかで認めてくれる答えを求めてたのかもしれない。例え、それが無理でも、「今まで態度が違ったけど、これからは他の男子と同じように接するよ」って言って欲しかったのかもしれない。
「パパはどうして享平だけ態度を変えるの?」
「冴子と親しい関係だからだ」
「サッカー部でもキツイことしてるんじゃない?」
「それはない」
きっぱりと否定するパパ。
「ホントは享平のこと嫌いなんでしょ?」
「そんなことはない。パパは教え子に好き嫌いはない」
「じゃあ、なんで? なんで享平だけ? 享平にもちゃんとした態度で接してよ」
私の訴えにも関わらず聞き入れてくれない。
「当分の間は無理だな。パパが認めたらの話だ」
「やっぱり態度変えてるんじゃない! そんなの酷いよ! 認める気もないくせに!!」
激しい口調になる私。
「…もういいよ…。パパが認めてくれないならもういいよ…」
そう言うと、私は立ち上がった。
と、同時にママが入ってきた。
「ママ…」
「ホントに頑固ね」
「何言ってんだ。冴子を想うから認めないんだ」
「健吾、いいじゃない。昔は昔、今は今なのよ。冴子は普通に男の子と付き合いをしてるんだから…」
「普通に付き合ってるって言っても、親の知らないとこで何してるかわからない」
パパは何を思ってるのか、ママの言うことにも全然聞かない。
「私は冴子の見方だからね。いくら、健吾の頼みでも認めないっていうのはしないからね」
「勝手にしろ」
「さっ、冴子、キッチンに行きましょ。頑固なパパ放っておいて、一緒にご飯食べましょ」
「…うん…」
小さく返事すると、私はママの後ろについて行った。
…親の知らないとこで何してるかわからない…。
…勝手にしろ…。
もう、無理だよ。私と享平、ママや沙智や有森君がどう頑張ってもパパの気持ち動かないよ。簡単には認めてくれない。私はこれからも男の子と付き合っていく中で、いつまでもパパに認められないのかな。
もし、高校生だったパパとママがもう少し遅くに出逢っていたら、私と享平は認められてたのかな? 二人が高校生に出逢ったのは誰のせいじゃない。そして、パパが私の学校に赴任したのも誰のせいじゃない。全部、そういう縁なんだよね。
外は雨。まるで、私の心みたい。認めてもらえないから、私の心の中でも雨が降ってる。認めてもらえたら、私の心は晴れるの…? ホントに晴れてくれたらいいのに…。
早くなんとかしなくちゃ。パパに認めてもらいたい。パパに内緒でコソこそ付き合いたくないもん。享平のためにも、みんなのためにも、私が頑張らなくちゃ。