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一週間遅れの転入生

「今日から二学期が始まるね」

九月一日、二学期の始業式。

まだ暑さが残る帰り道で聞いてきたのは、仲良しの磯部沙智。

「そうだね。今日から二学期だなんてダルすぎるよ。まだまだ夏休み気分だよ」

私はダルダルの口調で答える。

「でも、冴子は嬉しいんじゃない?」

「え?」

「だって海野君に会えるしね」

「そ、そんなことないもんっ!」

私ってば思わず大声を出してしまう。

「図星なんだ―」

イタズラっぽく沙智は笑う。

「も―、沙智のイジワル―」

「イジワルじゃないよ」

私の泣き真似に、沙智は笑いながら言う。


私の片想いの相手の海野享平君。学年でとてもモテてるサッカー好きな少年。

今年の四月に高校に入学して、海野君とは同じクラスになった。その時から海野君のことが気になって、気付いたら好きになってた。理由は多分ないと思う。知らないうちに好きになってたって感じなんだよね。

私、貝本冴子、高校一年。大人しい性格。クラスでもあまり目立たないタイプ。

海野君とは話したことはないんだけど、海野君から何度か挨拶してくれたことがあった。でも、頭を下げることしか出来なかった。沙智は「好きなら自分から行かなきゃ」って言うんだけど、勇気が出なくて未だに何も行動は出来ずにいるんだ。海野君が好きな女の子達は、自分から話しかけてるのに、その女の子達と同じ片想いなのに、私ってば全然ダメだよ。





始業式からあっという間一週間が過ぎて、私のクラスに転入生がやってきたんだ。

「石水幸奈です。よろしくお願いします」

ペコリと石水さんがお辞儀をした。

黒のロングヘアで背が高くて、カッコいい系の女の子。

でも、こんな時に転入生って変だな。一週間も遅れる理由でもあったのかな? 理由はなんでもいいんだけどね。

「じゃあ、海野の隣な」

海野君の隣の席を指名した先生。

石水さん、海野君の隣の席に座って、笑顔で挨拶してるのがよく見える。

二人の席はちょうど真ん中だから目立つんだから、よくわかる。

二人を見てると、心の中で不安の渦が取り巻く。

もしかして…ううん、違うよね…。


ショ―トホームルームが終わって、クラスのみんなが石水さんの周りに寄っていく。

「冴子、私達も行ってみようよ」

「あ、うん…」

気のない返事をしてから、沙智と石水さんの席に近付く。

「石水さん、前はどこに住んでたの?」

クラスの一人が石水さんに聞いた。

「神戸に住んでたよ」

「へぇ…」

「スポーツは何が得意なの?」

「バスケだよ。小学生からずっとやってて、中学時代はレギュラーで試合にたくさん出てたんだよ」

「意外だな」

「なんで遅れて転入してきたの?」

「ホントは九月一日に来る予定だったんだけど、八月末におばあちゃんが亡くなって…。それで遅くなったんだ」

ハキハキと答える石水さん。

私なんかと全然違うよね…。


石水幸奈、神戸から転入してきて、バスケが得意な女の子。カッコいい系だけど、いかにもって感じ。同性に好かれるタイプのイメージ。






そして、石水さんが転入してきて、三日が経った。

彼女は瞬く間に男子からモテだした。海野君とはクラスの男子の中で一番仲良くなって、いつも休み時間は喋ってる。

「冴子も行かなきゃ」

沙智が私の制服の袖を引っ張る。

「ほら、海野君と話さなきゃ。いつまでも見てるだけじゃダメだよ」

「見てるだけでいいよ」

「も―、いつもこうなんだから…」

呆れ顔の冴子。

冴子が言ってることわかる。見てるだけじゃダメで、自分から行動しなきゃわからないこと。ホントに私の行動力のなさに情けなくなってくるよ。海野君が好きな肝心な私は、海野君を見てることしか出来なくて、とても話す勇気なんて出ないよ。

「あ、今、一人になったよ。行こっ!」

沙智は私の腕を引っ張って、海野君のほうへズンズンと向かっていく。

「沙智〜〜〜〜っ」

「いいから。一人でいるうちになんだからね!」

弱気な私を沙智はお構い無しなの。

「海野君っ!」

「おっ、貝本さんと磯部さんじゃん! どうしたんだよ?」

「用はないんだけど海野君と話したことないなって思って…ねっ? 冴子」

沙智は私にウインクする。

「う、うん…」

こんなんじゃダメなのに、うつむいてしまう私。

「そういえば、二人と話したことなかったよな。オレは男女問わずクラスのみんなとは話したけどな」

海野君、イスに深くもたれかかりながら話す。

「まだ貝本さんと磯部さんとは話したことなかったな。二人共、仲良いよな」

「そうだよ。いつも私が冴子の面倒みてるの」

沙智ってば冗談まじりで笑いながら話す。

「ひど―い! 私がみてるんでしょ?」

海野君がいるのを忘れて、いつもの感じで頬をふくらませる。

その姿にいきなり海野君は吹き出してしまった。

「なんか、貝本さんてイメージが全然違うよな」

海野君はお腹を抱えながら笑う。

「え? そう?」

「大人しいって思ってたから…。オレの勝手なイメージだけどな」

海野君は笑いをこらえたように言った。

そんなふうに思ってたんだ。仕方ないよね。海野君と挨拶くらいで、きちんと話したのは今日が最初だもん。

「享平君、貝本さんと磯部さんと何話してるの?」

教室に戻ってきた石水さんが、当たり前のように海野君の下の名前を呼んで、私達三人の中に入ってくる。

「内緒だよ。内緒の話をしてたんだよ」

海野君が石水さんに笑顔を向けながら答える。

私達に向けてる表情とは違う。

当たり前だよね。この二人、仲良いもん。多分、石水さんは、彼女は海野君のことが好き。あの日、彼女が転入してきた日、不安になったことが的中してしまったみたい。二人の笑顔の裏には、色んな話や笑い声が聞こえてきそうで怖い――。私の知らない海野君を数日のうちに知ってる石水さんが怖い――。気が付いたら、石水さんという、

「存在」が怖くなってるよ――。

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