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とくべつなふつう

作者: 札幌太郎

 あるとき、小鳥がたくさん集まって作っていた村で、何年かぶりに、青いつばさをもつ小鳥、青い鳥がうまれました。

 その日、村では大きなおまつりが行われました。なぜなら、青い鳥は人々にしあわせをあたえるためにはたらき、そのしあわせをもらった人間の村から食べ物をもらう、という、やくそくが人間と小鳥のあいだにあったからです。何年かぶりにまた、人間の村から食べ物をもらえるぞ、と小鳥の村では、青い鳥のおかげで食べ物にこまらないことをよろこび、たくさんおいわいをしたのでした。

 青い鳥はアニーと名づけられ、立てるようになるとすぐに、青い鳥のつとめのために、しゅぎょうをしました。どういう道をとんで、どういうじゅんばんで村をまわって、人間にしあわせをとどける、「しあわせの風」というものをおくるためのさほうも、きびしく教わりました。

 それでもすくすくと育って、やがて一人でりっぱに空をとぶことができるようになりました。

 他の家からはなれたところにある、とくべつに用意された家でねて、起きて、朝ごはんを食べると、より道もしないで、すぐに人間の村にとびます。アニーは人間の村の真上にくると、村にむかってつばさをばさばさとふり、しあわせの風をおこすのです。人間たちはそんなアニーのすがたを見て、じめんにひざをついて、おいのりするのでした。

 村の全体にそうして風をおくったあとには、また、より道しないでまっすぐ小鳥の村へともどり、えいようたっぷりのごはんを食べて、明日のつとめにそなえてねむるのでした。

 毎日、同じような日のくりかえしでした。

 毎日、毎日。

 それでもアニーは、人間をしあわせにして、小鳥の村のみんなのお腹をすかせないためにはたらくことができて、しあわせだと思っていました。


 そうやって毎日同じ道をとんで、毎日同じ道でかえってくるアニーを見て、ふしぎそうに首をかしげる小鳥がいました。

 その小鳥はベルといい、アニーと同じころにうまれて、けれど、ごくふつうに、多くの鳥たちがそうするように、まいにち木の実を村の外からとってくる仕事をしていました。

 あるときベルは、木の実をもちかえるときに、人間の村からもどるアニーを見かけ、話しかけました。

「ねえ、アニー。毎日同じことばかりしてて、たいくつじゃないの?」

「あなたは、だれ?」

 ベルのしつもんに、アニーはぜんぜんかんけいのない答えをしました。村で大切にされているアニーをベルが知っていても、アニーはふつうの小鳥であるベルのことは何もしらないのでした。

「ぼくはベルっていうんだ。ね、ここから西の方に行くと、きれいな草原があるんだ、ちょっと行ってみようよ!」

 おこることもなく、名前を教えながら、ベルはアニーが毎日同じことばかりしていて、きっとたいくつしているだろうと思い、そうやってさそうのでした。けれど、アニーはあまりそのさそいにのり気ではありません。

「わたし、明日も人間の村にいかなくてはいけないから、すぐもどらないと。村のみんなもしんぱいしてしまうわ」

「だいじょうぶだって、ぼくが何とか言っておくからさ。ほら、行ってみよう!」

 ベルはつばさをひっぱって、アニーをつれていきます。アニーはなにがなんだか、という風にあたまがこんがらがっていて、ベルに引っぱられるがまま、西の草原へ行くのでした。

 西の草原は夕日にてらされてだいだい色になっており、きもちのいい風がそこに吹いていました。けれど、アニーの顔はいっそうしずんでしまっています。

「ほら、すっごくきれいでしょ!」

 ベルははきはきといいますが、アニーはうつむいたままです。

「どう、したの?」

 おそるおそる、ベルがたずねれば、アニーはベルの方を向かずにいいます。

「せかいって、こんなにきれいな場所があったんだねって、おもったの」

 ぽつりとつぶやくのと同じように、ほろりとアニーの目からなみだがこぼれました。

「わたし、いつも同じところばかり見ていたから……今までひとつのことしか知らなかったから、きれいもきたないもわからなかったの。でも、今、なんだかそれがわかったような気がして……」

「それは、いいことじゃないの?」

 ベルはアニーがかなしそうな顔をしていることがふしぎでたまらず、きいたのでした。

「よくないよ。これから人間の村に行くときに、きっとこのきれいな草原を思い出してしまうとおもうから。青い鳥っていう役におしこめられて、きれいもきたないもわからなかったじぶんが、みじめに思えてしまうから……」

 同じことをくりかえしていたのに、とつぜん、とくべつな「きれいなもの」が見えてしまったから、それまでのなんでもない毎日が「きたないもの」に見えてしまうかもしれないと、アニーは言うのです。それをきいて、それでも、ベルは明るく言います。

「だったらさ、こんどから帰りにぼくと、より道しようよ! きれいな場所にいっぱい、つれてってあげるから!」

 風のそよぐ花ばたけ。へんな水鳥がいるみずうみ。せらせらとすずしい音をたてる小川。ほかにもたくさん、ベルはこれまでごくふつうにすごす中で見つけたきれいなものをたくさん、たくさん話しました。

 やがて、アニーの顔も笑顔にかわり、ふたりはこれから帰り道に、まいにち、ほんのすこしより道をすることをやくそくしました。


 つぎの日、ふたりはきのう話していた花ばたけへやってきました。ふたりとも、はたらいた帰りにより道をするものだから、はたけのまわりにある林からは、夕やけがぼんやりとにじんでいました。

「ここは人間じゃなくって、ハチが大きくした花ばたけなんだって」

「ハチが? それは、すごいね……こんなに大きく」

 ふたりの体よりひとまわりもふたまわりも、はかることができないくらい大きな花ばたけを見て、アニーは目をかがやかせました。そのようすを見て、ベルは少しとくい気です。

「この場所には、わたしはしあわせの風をおくっていないのに、元気そうね」

 村の人間よりもずっといっしょうけんめいにはたらくハチを、夕やけと同じようにぼんやりとながめています

「ハチにはしあわせの風はいらないのかなぁ」

「じゃあ、どうして人間にはひつようなの?」

 こてり、と首をかしげるアニーのしつもんに、ベルはあたまをひねりましたが、どうにも答えは見つかりません。

「……わかんないや!」

「……そうね、わたしも、全然わかんない」

 わらいながら言う、さっぱりとしたベルのことばに、アニーもつられてくすくすとわらうのでした。


 そのつぎの日は、キツツキがこぉん、と木をうつ音がこだまする森にやってきました。さわさわとしげる木々からもれる夕日は少しだけで、森は夜みたいにうす暗かったけれど、それは安心するような暗さでした。

「ベル、わたしね、今日はしあわせの風をおくらなかったの」

 うす暗い中、ぽつりとアニーがつぶやきました。ベルはびっくりして、いっしゅんなんて話したらいいのか、思いうかばずにだまってしまいました。

「ど、どうしてそんなことをしたの!? そうしないと、人間の村から食べ物もらえなくなっちゃうよ……!」

 あわてて声を出すベルに、アニーはうつむきながら言います。

「きのう、ベルとどうして人間にしあわせの風がひつようなのか話してて、気になったからやってみたの。でも、わたしが空をとんでいるだけで、村の人間はひざをついて、おいのりしてた。あの人たちは、何においのりしてたのかな……」

「人間って、よくわからないね」

「キツツキも、しあわせの風なんていらないのにね」

 ふたりはいっしょに首をかしげて、人間についてかんがえていました。さいごはふたりとも、だまってしまって、ざわざわとゆれる葉の音や、かわらずこだまするキツツキの音ばかりが、あたりをつつみこんでいました。


 またつぎのひには、さびが目立つはいきょの工場に行きました。むかし、人間が作ったからくりがくずれかけて、きしむ音がなって、とまって、なって、とまってをくりかえしていました。

「今日はね、わたしわるい子だったの」

 何げないおしゃべりがやんだとき、きゅうにアニーがつぶやきました。ベルはいつもじかんどおり、やくそくどおりにはたらいているアニーを見ていたので、とてもおどろいて、どうしたの? とききました。

「わたしね、今日は人間の村にいかなかったの」

 アニーがいうには、人間もハチやキツツキと同じように、しあわせの風なんてなくても生きていけるのではないか、とおもったようです。

「しあわせの風をおくるいみがないなら、わたしのいみもなくなっちゃうのかな」

「アニーのいみって、どんなの?」

「わたしは青い鳥だから。青い鳥はしあわせの風をおくるのがしごとだから。しあわせの風がいらないなら、青い鳥のいみもなくなって、わたしのいみもなくなっちゃうのかなって、おもうの」

 ぽつりぽつりと、つぶやくアニーのなやみは、ベルにはわからないことだらけでした。とくべつな役わりだとか、しごとだとかを考えるには、ベルはあまりにもふつうすぎたのです。

「青い鳥じゃなくなったら、ふつうに鳥として生きたらいいんじゃないかなって、ぼくは思うなぁ」

 ベルのことばに、ふっとアニーはわらっていいます。

「……そうだね、青い鳥じゃなくなったら、ふつうの鳥になっちゃえばいいかな」


 またつぎの日には、水のせせらぎがきこえる川にきました。その日はおしゃべりをしたあと、ベルから話をきりだしました。

「今日は、人間の村にいったの?」

「うん……わたしのすがたを見たら、村の人間たち、たくさん……なきながらよろこんでいたわ」

「そっか……でも、よろこんでもらえたなら、よかったね」

 きのうはおちこんでいたみたいだったので、そういうアニーを見られて、ベルはこころからうれしくおもっていました。けれど、アニーはまだ少し不安そうです。

「でも、わたしは今日もしあわせの風をおくってはいないの。なのに、どうして……しあわせの風なんて、ほんとうは人間がかんちがいしているだけで、うそなんじゃないのかな……」

「だけどさ、村の人間はアニーを見て、よろこんでいたんでしょ?」

 しあわせの風なんてものがないなら、アニーは青い鳥をしているいみがなくなってしまう、そして、青い鳥でなくなったアニー自身のいみもなくなってしまう。そのことはベルにもわかりましたが、ベルは、かるいくちょうで、おもったままに話します。

「なんて言ったらいいかわからないけれど、アニーを見て村の人たちがよろこんで、小鳥の村に食べ物をもらえるなら、それはまちがいなく、アニーのおかげだよ。しあわせの風なんてあったって、なくったって、アニーはすごいんだ! 小鳥の村のみんなを助けられるんだから!」

 そういうと、アニーは少しおどろいたようなかおをして、それからわらうのでした。

「ありがとう、ベル……少し、気が楽になったわ。そう、人間たちはわたしを見てしあわせをかんじて、そして小鳥の村に食べ物がわけられる。それで、じゅうぶんだね」


 アニーは次の日から、村へしあわせの風をおくることをやめました。じぶんのすがたを村の人間に見せること、それ自体を、青い鳥のやくわりだとおもうようにしたのです。そうして、朝早くにとびたち、村にじぶんのすがたをあらわし、帰りはベルといろいろな場所により道をする。そんな日々がつづきました。しあわせの風はおくらなくても、人間の村はほろびたりはしなかったのです。

 しかし、悲しいことはとつぜん起きるものです。ある日、いくらまっても、まちあわせた場所にアニーがやってこないのです。しんぱいしたベルは、人間の村のほうへむかってとんで、アニーのすがたをさがしました。

「アニー!」

 アニーは、人間の村から少しはなれた道に、たおれていました。ベルが声をかけながら、あわてておりて見ると、アニーは羽や頭から血をながしており、くるしそうにうなっていました。

「べ、る……どうして、こんなところに……?」

「まってもまっても、アニーがこなかったから……ぼくのせなかにのって、村に帰ろう?」

 そうして、ベルはアニーをせおって、ゆっくりゆっくり小鳥の村へとあるいてすすみました。

 ふだんあるくことはしないので、ベルの足はちくちくといたみましたが、アニーのきずにくらべたらなんてことない、と、少しずつ、はを食いしばって村へともどっていきました。

 小鳥の村へむかうとちゅう、ベルは人間の村でアニーが何をされたのかをききました。

 アニーは人間に、石をなげられたのです。

 ちょうど、人間の村では不作がつづき、人間たちのふまんがたまっていたところで、ゆきばのないそのふまんは、しあわせをくれるはずのアニーへとぶつけられたのです。

 ひとりの人間が「あいつはしあわせではなくふこうをよぶ鳥だ」と、石をなげると、それにつづくように、ふたり、さんにん……と、さいごはおおぜいの人間がアニーに石をなげました。やくたたず、飯どろぼう、がいじゅう。小鳥の村になけなしの食べ物をわけあたえていた人間たちは、そんなふうにアニーをののしりました。

 小鳥の村へぶつけられるはずのふまんがすべて、手近なアニーにぶつけられてしまったのです。

「わたしね、きづいちゃったの」

 せなかにおぶられたアニーは切れそうなくらい細い声で言います。

「しあわせをあたえる青い鳥なんて、うそなんだって。つごうの悪いことをぶつけるための、ただの的だったんだって。しあわせの風だとか、青い羽だとか、そんなものはぜんぶぜんぶ、いざっていうときにこうやって的にするための、じゅんびだったんだって……」

 かってにありがたがったくせに、かってに信じたくせに、かってにきずついたくせに。アニーは人間のみがってさに、ほのかな いかりをもっているように、そうやってことばをつづけていました。

「村にもどったら、なんていわれるかな……あの人間たちのようすじゃ、食べ物もわけてもらえなくなるかもしれない……わたし、ぜんぜんだめで……ベルが言ったみたいに、すごくなんかなかったんだよ、わたし。村の人間にもきらわれて、小鳥の村もたすけられない……」

「アニー、今はかんがえるの、やめよう。ゆっくり休んでいて」

 ベルはアニーのことばから、人間へのいかりのほかに、小鳥の村へのもうしわけなさのようなものをかんじて、それいじょう思いなやませないために、やさしく言うのでした。


 人間の村からおくられる食べ物は、日に日にへっていきました。アニーは石をなげられながらも、まいにち人間の村へいって青い鳥のやくめをはたしているというのに。

 少しでもいいから食べ物をもらいたいがためにアニーを人間のもとへむかわせる小鳥の村と、アニーをふまんをぶつけるための的としか思っていない人間。青い鳥はとくべつな家にすんでいるせいで、村の小鳥たちはそのおかしさに気づきません。

 アニーがこどくにたたかっているのは、ベルだけが知っていたのです。

 アニーのきずはだんだんとひどくなっていきます。それでも、小鳥の村の長がわずかでも食べ物をわけてもらうため、とアニーを人間の村へむかわせるのです。アニーも、青い鳥のやくめなんて、しあわせの風なんてぜんぶうそだと知りながらも、小鳥の村のためにと、それにしたがっていました。

 ある朝、ベルはがまんできなくなって、今日も人間の村に向かおうとするアニーの前に立ち、その足を止めようとしました。

「アニー、もう傷つかなくていいんじゃないかなって、ぼくは思うよ。もう、青い鳥なんて……いみがないじゃないか」

「……いいえ、ベル。いみはあるの。たとえ、しあわせだとか、ふしあわせだとか、そういうのが人間がかってに思っていることだとしてもね。人間たちのふまんをわたしにぶつけてくれれば、きっと小鳥の村に人間たちのふまんがむくことは、ないから」

 アニーは、ひとりで人間のみがってなふまんをうけとり、ひとりでそれをのみこむつもりのようでした。うっすらとわらうアニーを、ベルはひっしになって止めます。

「それは、アニーが青い鳥だから? とくべつなやくわりをもつから、ひとりでそんなことをしようって思うの?」

「そう、わたしはとくべつだから。このやくめをはたせるのは、わたしだけだから」

「うそだ! アニーがとくべつだなんて、そんなのはうそだ!」

 だんだんと、ベルの声も大きくなっていきます。

「アニーはふつうなぼくたちと同じように、ふつうにより道もするし、ふつうにおしゃべりもするし、羽が青いだけでみんなとおんなじなんだ! とくべつなんかじゃない! だから……ひとりで、そんなふうに傷つかなくたっていいんだよ……」

 さいごには、ベルのことばになみだがにじむようになってきました。石をなげられたり、羽根をこぼしたり。そんなすがたのアニーを、ベルはどうしても見たくなくて、ひっしにさけんだのです。

 さけびながら、なきながらのベルのことばに、アニーはこまったようにわらいました。

「……ありがとう、ベル。そう言ってもらえるだけでわたしはじゅうぶんだよ。みんながわたしを『とくべつだ』っていう中で、わたしのことを『ふつうだ』なんていったのは、あなたがはじめてだったから。」

 なみだをながすベルをなだめるように、でもね、とアニーはつづけます。

「ほんとうは、『とくべつ』なんて、そうめずらしいものじゃないんだよ。ベルはじぶんのことを『ふつう』なんていうけれど、わたしをとくべつあつかいしないで、いっしょにおしゃべりできる。わたしにとって『とくべつ』なふつうをくれたんだよ。だから、ベルだってほんとうは『とくべつ』なの」

「なら! ぼくだってとくべつなら! ぼくが人間の村に行って石を投げられてくるから!」

 なだめようとするアニーに対して、ベルの声はいっそう大きなものになります。けれど、アニーは首をよこにふるのでした。

「ごめんね。ベルはわたしにとって『とくべつ』だけれど、村の人間にとってはわたしだけが『とくべつ』なの。だから、ベルにこのやくめはまかせられないの」

 そういって、アニーはベルのすきをついてとびたちます。

「でもね、ベル。わたしはすっごくたのしかった! たくさんきれいなものを見て、だからこそ、人間……きたないものも見えてしまうようになったけれど、また帰り道にきれいなものが見られるんだって思うと、まいにちがとってもあざやかに見えたの!」

 今日もいつもどおり、アニーは人間の村にむかいます。けれど、今日はいつもとちがって、アニーのかおはどこかうれしそうでした。

「たいせつな、たいせつな、とくべつなふつうをくれてありがとう、ベル!」

 アニーの声と影はどんどんとおくへ行ってしまって、やがて消えてしまいました。ベルはことばをうしなって、そこにずっと立ちっぱなしになっていました。


 その日の夕方ごろ、ベルは帰り道にいつもどおり、アニーをまっていましたが、いつまでたってもやってきません。またけがをしているのかもしれない、と、ベルは人間の村の方へとび、ようすを見に行くのでした。

 しかし、アニーのすがたはかいどうのどこをさがしても見あたりません。そうしているうちに、人間の村が見えてきて、そこでようやく、ベルはアニーを見つけました。

「ははっ、やかましい、ふこうの鳥はころしてやった!」

「これで不作もおさまるだろうな」

 ベルはアニーのすがたを見て、なぜだか、これまで、ふたりで見てきたきれいなばしょを思い出していました。

 夕日にてらされる青い羽はいつか見た草原のようで、その羽にてんてんとついた赤い血が花ばたけみたいで、じめんにおちる血の音がいつかのキツツキみたいにこだまして、ベルのこころははいきょのからくりみたいにぎしり、ぎしり、と音をたてていました。

 ベルは、ころされて、広場にさらされているアニーのすがたを見たのでした。

 そのすがたは、とてもきれいに見えて、だからこそ、それをかこむ人間たちはとてもきたなく見えました。

 ぎしり、ぎしり、ぱりん。そうしてからくりのような音を立ててきしんでいたベルこころは、いよいよこわれてしまいまって、あとにおぼえていることは、なにもありませんでした。


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