第7話 馬車予約
秋人は番号札(106番)を取り、空いてる席に腰を下ろす(今は97番)。
腰を落ち着けた秋人は先程のギルマスと職員の事を考えていた。
(何者だあの三人? いやガンドは産業ギルドのギルマスだ。まぁ、それは良い。問題はあの職員達だ)
秋人はこの世界に慣れるため、色々と努力をしている。まぁ、能力に頼っていると言えばそれまでだが……。
例えば、すれ違う人に【鑑定】を仕掛けて、この世界の平均レベル(強さ、傾向、スキルなど)を調べている。もちろんナビに聞けば平均的な物は分かるかもしれないが、でも聞くだけじゃなく実際に見たものの方が良いと思ったからである。まぁ、調べている相手は厳選してるけど【マップ】で。
【マップ】の機能で、鑑定できない者、鑑定に気付く者、悪意ある者(悪意あるものには別のマークを付ける)などの相手を除外して鑑定してきている。
一応補足説明として、【鑑定】は実力差や対抗スキルを持っている場合は鑑定できない。対抗スキルなどは看破系のスキルを持っていれば【鑑定】が出来る。例えば【偽装】や【改変】【操作】などで誤魔化しても、看破系のスキルがあれば見破れるのだ。もちろんレベル差が無ければの話しだが。
話を戻すが鑑定出来ない者の中で敵意を持っている者が三人いる。
普通に考えれば、この世界に来たばかりの秋人を敵視すると言う事は、勇者召喚の関係者と言う可能性が非常に高い。その敵意を持っている者が、産業ギルドの前であったガンドという男と先程話を聞きに行った職員、そして馬車予約の所にいる職員だ。もちろん王城からついて来ている者とは別口で。
『ナビ、あいつらが何者か分かる?』
『詳しくは分かりませんが、とある組織の者達です』
『組織?』
『はい。その組織が何なのかは分かりませんが、今のところマスターに害は無いと思います』
『? でも【マップ】は赤色だけど?』
『赤色=害ある者ではありません』
『なるほど』
確かに赤色=敵対者では無いな。ん? 敵だから赤なのでは? いや、敵意があるだけで害にはならないのか? あ、確かに警戒心や疑いでも敵意になるのか。それなら赤色=害ある者ではないな。
こうして見て見ると【マップ】の「敵」って範囲が大きいな。もっと細かく分けようとすれば出来るんだろうけど、そこまで細部に分けると、見にくくなる上に覚えるのが大変そうだからな。
そうこうしている内に秋人の番号が呼ばれた。
「106番の方、受付番号3番までお越しください」
秋人は呼ばれた受付番号3番に向かう。
「初めまして。今回担当になりました”ミーナ”と言います。よろしくお願いします」
ミーナと言う女性は先程の店員とすごく似ていて綺麗だった(美しいと綺麗は違う)。
先程の店員と同じくらいの年齢と身長で(座ってるから正確には分からないが)双子と思える程似ている顔付をしていた。もちろん先程の職員との違いはある。
1つ目は胸がそこそこ大きく(巨乳と言うわけではない)、2つ目が髪が薄い水色だと言うこと。
そして一番気になるのが、先程語った敵の色を示す赤色だと言う事。
(これは偶然か? それとも意図しての事か?)
秋人はその事に対して関与せず、無難に挨拶を返す。
「自分はアキトと申します。こちらこそよろしくお願いします」
秋人は国王に身分証を作ってもらう時に「アキト」と言う名で作ってもらった。ついでに説明すると、この世界では普通苗字はない。苗字が付いている者の殆どが貴族なのだ。そのため秋人は目立たないためにも苗字無しで作ってもらった。
「それではアキト様、今回はどのような用件でお越しになられましたか?」
「シュトリアの街までの馬車を予約しに来ました」
「シュトリアの街までの馬車の予約ですね。それでは手続きをしますので身分を証明できるものと、馬車の代金500コルになります」
秋人は言われた物を出すためポケットに手を入れる。そこでこっそりと【アイテムボックス】から身分証明書とお金を取り出して、受付のミーナへと渡す。
「少々お待ちください」
身分証とお金を受け取ったミーナは身分証を魔機に入れる。10秒程経ち、魔機から身分証を取り出し、秋人に返す。
「はい。アキト様の確認が取れました。身分証をお返します。まだ手続きなどがありますので、もうしばらくお待ちください」
「分かりました」
ミーナは机の引き出しから紙を取り出し、ペンで何かを記入していく。
余談だが、この世界にも紙と言う物がある。日本製に比べ少し高いく、紙の質も数段落ちるが、大体100枚で40~50コル程だ。余談終了
しばらくの間紙に何かを書き込んでいたミーナは顔を上げ、秋人に先程まで書いていた紙と説明書みたいな物を渡してきた。
「問題がなければ、こちらの空欄にアキト様のサインをお書きください」
ミーナが先程まで書いていた紙には秋人の名前、職業等が書かれていて、一番下には署名の欄があった。
もう1つの説明書みたいな紙には馬車での移動に必要事項等の事が書かれていた。
・馬車での移動は約3時間半(休憩含め)になる予定(※魔物、盗賊等に襲われた場合、到着時間が変わる)。
・休憩は約2時間程行った所でするため来る前にトイレなどはしておくこと。
・食べ物、水等は持参すること。
・護衛は産業ギルドの傭兵がする。
その他にもいくつかの項目があったが、それを1つ1つ確認していき問題がないか見ていく。
(ここは異世界だからな、こいうのはしっかりと確認しといた方が良いに決まっている)
秋人の言う通りここは日本とは違うため何があるかは分からない。こいう契約書にはしっかりと目を通すのが基本だ。まぁ、産業ギルド並みの巨大組織が詐欺などをすることは無いが、念のためだ。
そして秋人は約2分間しっかりと問題がないかを確認して、もう1つの紙の一番下にある署名の欄に名前を書き、ミーナへと返す。
「はい。確認し終わりました。どうぞ」
「ありがとうございます」
ミーナは先程とは違う魔機に紙をかける。
「はい。こちらが乗車券になります。これを明日の朝8時に馬車乗り場で提示してください」
ちなみに乗車券は魔法がかけられているため偽造は不可能。それに加え、盗まれたとしても身分証明書と合致しなければ使えないため安心だ。
「ありがとうございます。それでその馬車乗り場はどこにあるんですか?」
【マップ】はあるが、やはりこれは気分の問題だろう。
「この王通りの反対側にある南門です。ここからですと大体歩いて2時間以上はかかると思います」
「え!? そ、そんなにかかるんですか!?」
「えぇ、王都はとても広いので。それに人がたくさんいますからその分歩きにくくなり、道も入り組んでますのでそれなりの時間がかかります」
王都、最北と最南の距離は大体10km程にも及ぶ。もちろん王城は中心にあり、産業ギルドは馬車乗り場から6km程離れた場所にある。と、【マップ】を見て納得する秋人。
「……た、確かにそうですね」
「あ、そんなに困る必要はありませんよ」
「? どいうことですか?」
「これはあくまで歩いて行く場合です。馬車で行けば2、30分で行けますよ」
ミーナは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「えーと、つまりどういうこと?」
「つまり馬車で馬車乗り場まで行けるんですよ(笑)」
「あー、なるほど。てか最初っからそう言ってくれれば良いじゃないですか……」
非難がましくミーナを見つめる秋人。そんな視線を気にすること無く、微笑み浮かべるミーナ。
「ふふ、すみません。それでどうしますか? 馬車乗り場までの馬車をご利用になりますか?」
「あ、はい。お願いします……」
「では身分証と代金の50コルをお願いします」
「……」
無言でお金と身分証明書を差し出す秋人。
そしてミーナは受け取った身分証明書を魔機にかけて、乗車券と共に渡してきた(デジャブ)。
「では明日の朝8時に産業ギルドにお越しください」
「……産業ギルドで良いんですね?」
疑惑の目を向ける秋人。それを見てミーナはニッコリと一層笑みを深める。
「はい。こちらの乗車券をスタッフに見していただければ案内いたしますので」
「分かりました」
秋人は軽く頭を下げて歩きだそうとしたが、もう1つの困りごとを聞こうと思いミーナに向き直った。
「あ、宿を探しているんですけど、どこか良い宿ってありませんか?」
「えーと、すみません。宿の事はあまり詳しくなくて……。今から詳しい人を連れてきましょうか?」
「それなら結構です。いろいろありがとうございました。では、自分は失礼させてもらいます」
そう言って秋人は今度こそ歩き出すのだった。
秋人を見送ったミーナは机に置いてある自分の資料を持って受付から立ち上がり、後ろにある複数の扉の中の1つに入って行く。
そこには先程秋人が話しかけた職員のシーナが居た。
「で、どうだった?」
「面白そうな子だね」
「表向きはね」
「で、どうするのシーナ? あの子。やるの?」
「私はどっちでも良いんだけど上がね。でも私の直感が言ってるの、あれには手を出すなって。関わってはいけないって。今までにないくらいに私の勘が言ってる」
その言葉を聞いたミーナは今までにないくらい驚いた顔を浮かべる。
「シーナがそこまで!? なら本物なのかもね」
「……分からない。手を出すなって言ってるけど、それと同時に今のうちに潰しとけとも言ってる」
ミーナは顎に手を当て考え込む。
(どうする? シーナがここまで言う事は珍しい。それに私自身も気になる事があるし……)
「……はぁー、ここはジンバさんに聞いてみるのが1番かな? それに鑑定出来なかったしね」
今回ミーナ達はアキトが何かを隠していると確信して、看破の力を持つ鑑定具を使った。にも関わらず鑑定が出来なかった。いや、【鑑定】は出来たには出来たが、勇者召喚で来たのにそのステータスはあまりに低すぎるのだ。【偽装】スキルなどが有ったとしても、それを無効か出来るはずなのに出来なかったのだ。もちろん本当にそれがアキトの素のステータスなのかもしれないが、ミーナ達は違うと思っている。だから余計に警戒心が強くなり、慎重にならざるをえないのだ。
「うん、それが良いと思う。ところでミーねぇはどう思うの? アキトの事?」
「私? 私はね良い子だと思うよアキト君は」
「それは表向きの話じゃなく?」
またもや考え込むミーナ。
(アキト君の事か。なんでだろう。アキト君の事を考えると物凄く心がざわつく。でも嫌な感じでじゃない。一体この気持ちは何だろう?)
ミーナは思っていることをそのまま言葉にする。
「うん。なんだろうなこの感じ。警戒? 好奇心? もしかして一目惚れかな?」
「な! ミーねぇ!? それ本気で言ってるの!?」
今度はシーナが驚く番だった。
「さぁ? どうだろうね。今まで恋なんかしたことなんて無いし、そんな状況でも無かったからね。まぁ、でもアキト君の事は少なからず気になってるよ。観察対象者としてではなく一人の人間として、ね♪」
「……」
呆然と自分の姉を見つめるシーナ。
「とりあえずその事は置いといて、ジンバさんのところに行くよ。上にも伝えなくちゃいけないんだから、急がないと」
「……分かってるよ、そんな事」
そう言ってミーナとシーナの双子の姉妹はギルド長室に向かうのだった。