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神殺しの英雄譚《ジェノサイド》  作者: 漆原 黒野
第1章 勇者召喚編
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第11話 馬車

 

 窓から朝日が差し込み、ベットに眠る秋人を照らし出す。


『マスター朝ですよ起きてください』

「……う~、もう、朝かー……」

『早く起きてください』

「……朝はきついな。うっと」


 そう言ってベットから起き上がり、目一杯伸びをして、食堂へと向かうのだった。

 こうして秋人の異世界生活3日目の朝が始まるのだった。


 朝食は〈朝の定食〉と言うのと水を頼んだ。

 朝の定食のメニューはパン、スープ、サラダ、そして飲み物の水が運ばれてきた。アリサはどうやらもう朝食を済ましていたようで、一人で黙々と朝食を食べ進める秋人だった。


 朝食を食べ終わった秋人は部屋に戻り、旅支度を済ませ、アリサとの待ち合わせ時間まで適当に時間をつぶす。出る前にはしっかりとトイレも済ましとく。

 約束の時間3分前に一階へと向かう。

 一階に下りれば、椅子に座って待っているアリサが居た。その頭にはキラリと紅く光る髪飾り。それは昨日秋人が買い、アリサへとプレゼントした髪飾り。

 アリサの頭を見て、少し嬉しく思う秋人であった。

 そんなアリサに向かい、片手を上げながら挨拶する。


「待った?」

「ううん、今来たところ」


 うん、テンプレはこうでなきゃ。

 そして秋人とアリサは産業ギルドに向かうのだった。


 産業ギルドから南門までの馬車は8時に出発予定。

 南門からシュトリア街までの馬車は9時に出発予定。

 現在の時刻ら7時45分。残り15分で産業ギルドへと向かわなければいけない。

 それなのにアリサは猫を撫でていた。


「お前そんな事してる場合じゃないだろ……」

「分かってる分かってる。でもあと少しだけ、ほんの少しで良いから」

「はぁー少しだけだぞ」

「ありがとうお兄さん!」


 そう言ってアリサは、また猫を撫で始める。

 余裕を持って宿を出たが、このアリサの無邪気(?)な行動の所為で、もう時間があまり無い。今まで注意しなかった秋人自身も悪いかもしれないが、やはりアリサが悪い。

 8時に産業ギルドに着かなければいけないのに……。ちなみにここから歩いて産業ギルドには10分程で着く。


「ほら行くぞ」

「もう!? う~」

「うなってもダメ。置いて行くぞ」

「ま、待ってよ」


 流石にもう時間が無いため秋人はアリサを置いて歩き出す。その後を不満顔で追いかけるアリサ。




 出発5分前に産業ギルドへと着く秋人達。

 産業ギルドには馬車を止める場所があり、秋人はとりあえずそこへ向かう。

 そこには大量の馬車が無数に立ち並び、どれが南門に行く馬車なのかは分からないほどだった。とりあえず秋人はミーナに言われた通り、ギルドの職員とおぼしき人に聞く事にした。


「あの、南門に行く馬車はどれですか?」

「南門に行く馬車はあちらです」


 職員は秋人から見て、やや右奥にある馬車を示して説明した。その近くにも職員らしき姿がある。


「あそこにいる係の人に言っていただければ馬車までご案内いたします」

「ありがとうございます」

「良い旅を」


 秋人は職員が言った係の人の所まで行き、話しかける。


「南門までの馬車はこれで良いですか?」

「そうですよ。ご利用で?」

「はい、これが乗車券と身分証です」


 そう言って秋人は乗車券と身分証を渡し、アリサもそれに習い係の人に渡す。


「確認させていただきます」


 職員は秋人とアリサから乗車券と身分証を受け取り、小型の魔機で確認する。


「アキト様とアリサ様ですね。確認が取れましたので、お返しします。どうぞこちらの馬車へ」


 確認し終えた職員は秋人とアリサを連れて、1つの馬車に案内する。


「荷物は席の下に置いてください。8時になりましたら馬車が出発しますので、席に着いてお待ちください。では」

「ありがとうございました」


 そう言って職員は先程の場所に戻って行った。


 馬車はよくあるような物だ。御者席があって、天幕が付いた荷台、左右に五人づつ座れる物だ。

 秋人達は荷台に乗り込むと、中にはすでに七人の人が座っていた。


「失礼します」

「よいっしょっと」


 荷物は全部秋人の【アイテムボックス】に入っているため、そのまま席に腰を下ろす。

 馬車の中の雰囲気は簡単に言ってしまえば電車の様な感じだ。つまり静かなのだ。

 それに、この世界でも仲良くなったと思わせて金や物を取るといった様な事があるため、普通は知らない相手と会話をする事はない。

 この辺は世界が変わっても変わらない。人間の欲望というものは何処に行ったって無くならないみたいだ。

 そんな事を考えていたら、馬車が動き出した。


「ゴロゴロ」


 馬車が進む音だけが、荷台の中に響く。


(静かだな)


 ただ馬車に揺られる。

 馬車の乗り心地ははっきり言って最悪だ。揺れが激しく、さらにお尻の下には何も無い普通の木板だ。つまりお尻が痛くなるのだ。

 日本の交通手段に慣れている秋人にとって、これは地獄でしかない。


 文明がそれなりに進んでいるのにも関わらず、これほど粗末な馬車なのには理由がある。

 それはコスト削減と量産が楽なため、多少の不便は目を瞑っているからだ。

 多少のお金をかけてでも改善すればいいと言う意見もあるにはあるが、そうすると貧相民の人達が利用できなくなり、経済的に影響を及ぼす事があるため、今の馬車が主流となっているのだ。それに貧相民だけではなく、一般家庭もどちらかと言うと安い方が使いやすいというのもある。

 逆に金持ちの貴族や商人などは独自の馬車などを持っているため、公共の馬車を使うこと自体が無い。

 そのため快適性をなくし、安く乗れるようにしているのだ。


 馬車が南門前に着き、一旦降りる秋人達。

 さっきの馬車でシュトリアの街にそのまま向かった方が良いという意見があると思うが、それは違う。

 ここは平和だった日本とは違い、魔物や盗賊などが出るため、なるべく大人数で行動した方がいいのだ。逆に大人数だと狙われやすいと思うかもしれないが、そんな事はない。人が多ければ魔物などの野生に住む者共は襲ってこないし、盗賊などの賊は王都の周辺でやれば、すぐに討伐隊が派遣されてしますため、よっぽどの馬鹿では無い限り、王都周辺で悪さをする者はいない。そのため護衛を最低限にして、一度に大勢の人を移動させたほうが楽で儲かるからだ。それに馬車の運搬問題などもあるし。

 言うなれば電車の乗り換えと同じシステムだ。管轄が違うためどうしても問題が起こることなどがある。そのため今の状況に落ち着いたと言うわけだ。


 馬車から下りた秋人達は、次のシュトリア行きの馬車を探そうと思い目を巡らせたが、結果的に無意味に終わる。

 馬車を降りた秋人達の目の前にはギルド職員らしき人が立っており、こちらに確認をしてくる。


「皆様はシュトリアの街行きで間違いありませんか?」

「えぇ」

「ではこちらに」


 そう言って職員は歩き始め、その後を追うようにして秋人達も歩き出す。

 周りを見渡せば馬車ばかりあった(本日2度目)。まぁ、ほとんどの馬車はここまで来るのに乗ってきたような安物の馬車ばかりだったが、中には一目見て高級だと分かるゴージャスな物まであった。少しだけ乗ってみたいと思うほどに綺麗な馬車だった。中はどんな感じなんだろう?


「こちらが皆様が乗ってもらう馬車です」


 職員は先程と同じ形をした馬車を示し、乗るよう促して来る。

 周りにいた人達は次々と馬車へと乗り始め、秋人もそれに習い馬車へと乗り込む。


「あと20分程で出発いたしますので、それまでお待ちください」


 そう言って職員は先ほどまでいた場所に戻って行った。

 何事も無く10分程が経過しようとした時、先程の職員と一人の”エルフ”の女性が馬車に近付いて来た。


「すみません。こちら側の席の人は少し詰めてもらって良いですか」


 職員は四人側(秋人)が座っている方の席の人達に向けて言う。声を掛けられた乗客は奥へと詰め、人一人分座れるスペースを作った。

 こう言ってはなんだが意外と節度を保っているんだな。


「では、こちらにお乗りください」


 エルフの女性に向け声を掛ける職員。気のせいかもしれないが、職員の声音が硬いように感じる。

 それに緊張している? 何故? もしかして亜人だからか? でも今の態度は少し違うような……。何と言うかお偉いさんを案内しているような……。もしかしてこのエルフの女性は身分が高いのだろうか?


 エルフの女性は考え込む秋人の隣に座った。まぁ、空いてる席がそこしかないから当たり前なんだけど……。


(耳が長くて、スタイルが良い。それに何と言っても顔が整っていて綺麗だな。胸が無いのもありきたりだが良い。アリサといい勝負になりそうだな、悲しいことに……)


 秋人が言うようにエルフの女性の容姿は物凄く整っており美しいと表現できるほどに、その美貌は神々しかった。スタイルもモデル並みにバランスが良く凄かった。


 今まで王都を観光してきたが、エルフを見かけたことは一度も無かった。それに俗に言う亜人さえも見たことが無い。

 一応説明だが、この世界での亜人は普通に人間と暮らしている。確かに若干差別意識があるにはあるが、基本的に亜人は人間と同種とされている。それなのに何故今まで秋人が亜人を見なかったかと言うと、この国(エルスラーン王国)は人間主義国であるためだ。他にも〈神聖王国〉等が人間主義国だ。余談だが、この二カ国と〈ハイド国〉が、この大陸での3トップだ。

 つまり人間主義の国でわざわざ暮らそうとする、物好きな亜人はいないと言う事だ。と言ってもゼロでは無いが。


 秋人はエルフの女性を値踏みするように舐め回す。

 太陽の光を反射するように煌びやかに光輝く翡翠色の髪。何処までも深く底の見えない深緑色の眼差し。


 ジーっと見ていたのが分かったのだろう。エルフの女性は秋人の事を少し睨めつけるように見てきた。ついでに何故か目の前にいるおっさんにも睨まれた。だからと言って何かを言ってくる事は無かったが。ならそれ幸いと目を逸らし、素知らぬ振りを決め込む。


 さらに10分程馬車の中で待ち続ける秋人。もちろん先程の事もあり、エルフの女性を眺めるような事はしていない。


 外から「カン! カン! カン!」と鐘が鳴り響く音が聞こえてきたと思ったら、「門を開け!」と怒声の様な声が聞こえ、門が「ガガーー」と音をたてながら開いていった。


 遂に秋人は王都の外へ出ようとするのだった。意外にも秋人は緊張にも似た何かを感じていた。

 うるさいほどに自分の胸がドクンドクンと波打つ。


(やべー、意外と緊張するな)


『期待しても意味無いと思いますけど?』


 と、水を差すような事を言うナビ。


『……別に良いだろ。期待しても』

『……マスターがそう言うのであれば、お好きにどうぞ』


 そうこうしている内に馬車は動き始め、王都の門を潜るのだった。


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