第9話 アリサのステータス
部屋に入った秋人はそのままベットに横になり、先程のアリサのステータスを思い出していた。
名前 アリサ 年齢 14 性別 女
種族 人間
職業 商人見習い #%*¥※&#@
レベル 14
体力 78
耐性 56
筋力 67
魔力 138
魔耐 72
敏捷 81
運 91
スキル 記憶保持 交渉 商売 観察 鑑定 危機察知 護身術 直感 風魔法 水魔法 幸運
固有スキル %&*¥ ※@$¥*
#% ※@
加護 運命神 ¥#$%
そこに書かれているステータスは思いもよらないものだった。
(普通よりスキル数が多いな。文字化けまでもあるが、まぁ、それは一旦置いとくとしよう。だが知らない項目は無視できないな……)
これだけの未知の情報を一気に頭に叩き込まれて、上手く整理が出来ない。
『……ナビこれはなんだ?』
ナビに聞けばほとんどの事が分かる。だからこの情報も何か分かるだろうと思い聞いてみれば、予想外の回答が返ってきた。
『すみません。項目の方は今の私では説明できません。”盟約”に触れますから』
「盟約」また知らない言葉が出てきた。そして「今の私」と言う事も気になる。一体何どいうことだ?
ナビが何かを隠しているのは何となく分かっていた。だがアリサのこれは全くの予想外だ。
何だよ今の私とか、項目とか、盟約とか……。意味が分からん。
俺の知らない何かがあるのは分かるが、これでどうしろと言うのだ?
今はとりあえず分かる事だけを整理していこう。
『……話せないんじゃしょうがないな。逆に何が話せるんだ?』
こいう時は聞くのでは無く、相手に話させる方が良い。
『項目の方は話せませんが、固有スキルの文字化けはただ単にマスターの力不足なだけです。【鑑定】だからと言ってすべてが見えるわけではありません。少し詳しく説明しますと、スキルの中にもレベルと言うものがあり、それは決して目に見えるわけではないのです。言い変えれば錬度の違いで、極端な話し素人の鑑定士とプロの鑑定士の違いみたいなものです。つまりマスターの場合、スキルの効果で鑑定が出来るのであってマスターの力ではありません。ただ使えるだけということです』
確かにスキルに頼りすぎているのは自分でも感じていた。でもこう直球で言われると正直複雑な気持ちになるのなは仕方ない事だと思う。
だが逆にスキルがある時点でそれは自分の力だと考えることも出来る。でも本当にそれで良いのかとも思う。自分の技術ではなくスキル頼りな自分。なんか嫌だな。
結局は俺が強くなれば何も問題がないんだけど……。
『まぁ、使える時点でそれは俺の力だ。それにこれからその力を自分のものにして行けば良いさ』
『そうですか』
話しが逸れたがこのアリサという少女は一体何者なのだろうか? 俺の知らない項目があり、文字化けがある。本当に謎だ。
それにアリサはこのステータスの事を知っているのだろうか? 他人にホイホイ見せるような内容じゃないだろうに。確かに見せる時に俺以外には見せないと言っていたけど、さすがにこれは見せていいものじゃないだろうに。
『ナビ、アリサのステータスって俺以外にも見れるの?』
『見れないと思います。そもそも文字化けの項目はマスターだけにしか見れないと思いますし』
『俺だけ?』
『はい。簡単に言ってしまえば、マスターの【滅殺魔法】の力ですよ。つまりこの力はッ!?』
ナビは急に苦悶の声を上げ黙り込む。
それはまるで誰かに口を塞がれたように……。
(これが盟約ってやつか……?)
『……すみませんこれ以上は……』
『……あぁ、別に無理に喋らなくていいから』
『すみませんマスター……』
確かに気になる事ではあるが、無理に聞き出すほどの事でもない。
ここは話せるようになるまで待つのが得策。「今の私」だから今のナビでは無く変わったナビならば話せるようになるという事だ。
そして鑑定出来たのもスキルの力。
【滅殺魔法】一体これは何なんだろう。俺の認識では「神を殺せる力」だけだと思っていた。だが実際には違い神に関するものの全てが対象内となる。それに加え【無敵】神の力さえもを無効にするスキル。
神に対して圧倒的なまでの力を有している秋人。それはまるで……。
(俺は一体何者なんだ?)
疑問に思えど答えなど出ない。いや、もしかしたらナビは分かっているのかもしれない。でもそのナビは話すことが出来ないと宣言している。今のところ知るすべは無いと言っていいだろう。
全てが謎に包まれ、秋人の知らない何かがある。確かに異世界に来たばかりの秋人が知る由もない物があるのは当たり前だが、だからと言ってそれに納得するかは別問題だ。
(気に食わないな。俺の知らない何かがあるなんて)
そう世界の事に考えていたら唐突に思い浮かんだ。「俺はどうしてこんな力を持っているのだろうか?」と。
確かに異世界召喚物にはチートはありがちだ。だがどうして秋人なのか、と。気付いてしまえば不思議な点がいくつもある。
ナビと言う存在。
そして職業が無いにも関わらず秋人がこれほどまでの強力なスキルを持っているという事。
こう考えるとある仮説に辿り着く。確証も無ければ証拠も無い、強引な推理。
秋人がこれほどの力を持っているのはナビの所為ではないかという仮説。
ステータスを見てからずっと疑問に思っていたことだ。職業も無い俺が何故ここまでの力があるのかと言う事。
俺はともかく勇者達は職業があるから固有スキルなどを持っていると納得できる。だが俺は職業が無いにも関わらず圧倒的なまでの力を有している。それはまるで本来持っていない力を与えたかのように。
そんな事が出来る存在は?
人か? 神か? 運命か? 俺にはどうしてもお前な気がするんだよ。
(ナビ。本当にお前は俺の味方なのか?)
声には出さず心の中で問う。
俺の味方か? 敵か?
もしお前が俺の敵となるというのなら、俺は——。
そんな重い空気が流れようとした時、唐突にナビが話し掛けてきた。
『マスターそろそろ時間です』
『……あぁ、分かった』
俺のシリアスを返せ……。
アリサを待たせるわけにはいかないため、一旦考えるのを止め下へと向かうのだった。
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カウンター席に座って待っているアリサの元へと向かう秋人。
「待った?」
「ううん、今来たところ」
(……これは狙って言っているのか? でも普通は立場逆だよな?)
「それじゃあ、行くか」
「うん!」
チキンバード大食堂を出て王通りを歩いて行く。
「さて、まずはどこに行こうか?」
「そうだな……あ、それじゃあ明日の馬車で必要な食べ物とか水を買いたいかな?」
確か産業ギルドで見た資料には食料は持参すると書かれていた。まぁ、食料は無くてもなんとかなるかもしれないが水は必要だろ。
「え! お兄さん明日どこか行っちゃうの!? て言う私も明日この街から出ていくんだけどね」
どうやらアリサも明日どこかへ行くらしい。
(……これってフラグだよな?)
オタクな秋人はラノベ的な展開を想像してしまう。まぁ、さすがにそこまでのお約束な展開は無いだろう。無いよな……?
「そうなのか?」
「うん、そうだよ。あわよくばお兄さんと一緒に行こうかなって思ってたんだけどね。残念」
「……お前そんな事考えていたのかよ」
「そうだよ。ニコッ」
(怖! そんなこと考えていたのかよ!)
「う~ん、一緒に行けないんじゃ点数稼いでも無駄か~」
「……」
(……せめて俺の居ない所で言ってくれ……)
オッホンっと咳払いをしてから話しを戻すアリサ。
「で、お兄さんはどこに行くの? ちなみに私はシュトリアの街だけど?」
「え!? シュトリアの街!? それ俺も行く所なんだけど!」
(フラグ回収早! てかフラグだったのかよ!? これはどう考えても運命だろ! アリサは俺のヒロインの一人だったのか! そうと分かればどう落としてくれようか、グフフフ)
と、いやらしい想像をして笑う秋人。だがまぁ、アリサが本当にヒロインになる事は無いだろうけど。
「え!? 本当!?」
「あぁ、本当だ」
確認してきたアリサに力強く頷くと、満面の笑みを浮かべて鼻と鼻がぶつかる程の距離まで顔を近づけてきた。
「運命みたい! 私とお兄さんは運命の赤い糸で結ばれていたんだ!」
あまりの迫力に若干引き気味になる秋人。先程まで自分もああだったとは思いたくない。
「あ、赤い糸?」
「そうだよ! これは出会うべきして出会った運命の出会いなんだよ!」
(まぁ、確かに出会うべきして出会ったのかもなこれは)
しばらく違う世界に夢を膨らませているアリサ。まぁ、夢は冷めるもので、しばらくして現実に戻ってきたアリサ。
「……オッホン。話しを戻すけどお兄さんもシュトリアの街に行くんだよね?」
急に真面目な顔で喋り出すアリサ。ギャップが凄いな。
「あぁ、だからそのために必要な物とかを買おうかなって思ってて」
「それなら丁度良かった。私も買っておきたい物があるしね。食べ物とかさ。あ、そういえばお兄さんアイテムボックス持ってたよね?」
「……」
秋人は未来予知に近い感覚を覚えていた。うん、言うまでも無いよね。
「良かったら私の荷物も持ってくれると嬉しいな。キラキラ」
と、期待の眼差しを向けてくるアリサ。それが文字に現れるほどまでに。
「……まぁ、良いいけど」
(まぁ、一つ持つのも二つ持つのも変わらないけど……)
半端諦めの極致に達する秋人。
「やったー! これで一杯買える!」
(荷物持ちが出来たからってそんなに喜ばなくても……。というかそんなに買っても意味ないだろう)
「それで最初に何を買おっか?」
と、眩しいほどに輝くアリサの笑顔。それを見れば細かいことはどうでもよくなってしまうほどに、その笑顔は綺麗だった。
こんな日常的な生活も悪くは無いなと思う秋人であった。
「そうだな……やっぱり最初は必要な物を買うのが先決じゃないか?」
「まぁ、それもそうだよね。よし、必要な物を買った後は、今回の目的の観光でもしよか?」
「そうだな」
そして買い物と言う名の”デート”が始まったのである。
まぁ、経緯はどうあれアリサとの買い物は結構楽しいものだった。ある一点を除けばの話しだが。
アリサの職業は〈商人見習い〉と言うだけあり、かなりの商売上手だった。しかしここで問題が発生したのだ。それは秋人をダシにして交渉をしているということだ!
アリサは商品を買う時に「私達新婚夫婦なのでお金があまり無くて、少し負けてもらえませんか?」と、言って値下げをしてもらっている。確かにそう見えなくはないが、やはり少し無理があるように思える。安く買えるに越したことはないが、さすがにやり過ぎ感が否めない。
まぁ、アリサの交渉を見ているのは面白いと言えば面白い。売り手の人がこちらをニヤニヤと見てくるのを我慢すれば。
「はぁー、お前って本当商売上手だよな」
「当たり前じゃん! これでもれっきとした商人なんだよ!」
勝手にダシに使われた意趣返しも含めてアリサに言い放つ。
「……見習いだけどな」
「うっ!」
それでもアリサのお陰で安く買えているのは事実なため感謝の気持ちを伝えるのを忘れない(ポイント稼ぎ)。
「まぁ、お前のおかげで安く買えるし、話し相手がいて楽しいから良いけど」
「……」
褒め言葉を言う秋人の顔をマジマジと見つめるアリサ。そして急に顔を赤くして俯く。
(なんで急にそんな事言うかな? ドキッってするじゃない)
そんなアリサの表情を見た秋人は予想通りポイントを稼ぐ事に成功したのを確信する。最低な男である。
「それで必要な物は揃ったのか?」
「え、うん。大体は……」
一応言っておくと、買った物は全て秋人の【アイテムボックス】の中に入っている。
「それじゃ予定通り観光でもするか?」
「……うん!」
そう言って二人は観光を始めるのだった。