エイリアンvs宇宙ロシアンルーレット
22世紀のどこかの宇宙。映画『エイリアン』の序盤のような感じで、我々の調査艇『エニグマ』は未知の惑星に調査に乗り込み、結果、この俺、戦闘員のハヤブサ・"ホーク"・ジョーの体内に寄生型エイリアンが入り込んでしまった。
「ちっくしょう! どうにかならないのかよ!」
叫びながら船内作戦会議室のプラスティック・テーブルを叩いたは戦闘員のマリア。俺の恋人だ。いつも血の気が多い彼女は今や噴火中の火山のように怒っていた。おそらく、自分の身代わりに俺がエイリアンに寄生されたので、むしょうに腹が立っているのだろう。
「なかなか難しいですな」
研究員兼医師のドクター・ドクがスーパーコンピューターから吐き出されたレシートみたいなやつを見ながら首を振った。
「どうやらジョー君の身体にとりついたのは映画『エイリアン』に出てくるような感じの奴で、腹の中で成長すると胸を突き破って出てくるタイプの生き物のようだ」
「なんだって!? それじゃあこいつを生かしておくと俺たちの命まで危ないってことか!? チックショーッ! じゃあ、やられる前に殺るぜーッ!」
戦闘員のテツオが俺に向かってレーザーピストルを構えた。
俺は『殺される……!』と思って息を飲んだ。次の瞬間、俺の意志とは関係なしに俺の身体は飛び上がり、天井に『着地』した後、下に『ジャンプ』して、テツオの右手に手刀を放った。
右腕が切断され、ごとりと地面に転がる。
テツオは叫んだ。
「痛ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッたくない! 俺の右手は最初から義手だったわ」
テツオは舌をペロっと突き出した。お茶目さんだ。
「ホーク!? い、今の動きは!? まるで日本のアニメに出てくるニンジャのようだったわ!」
マリアが俺に驚愕の視線を注ぐ。
「ホークくん! 君はニンジャの末裔か何かだったのか!?」
ドクも俺のことを恐ろし気な目で見てくる。
「そ、そういえば聞いたことがある……俺の遠い先祖は伊賀ニンジャだったと……!」
眠れるニンジャの力がこの土壇場で覚醒したのか……!?
『ウワハハーッ! バカどもめーッ! そんなわけないだろうがーッ!』
「!? だ、誰だ!?」
腹の底から響くような低い声が船内会議室に響き渡った。
「ほ、ホークのお腹から聞こえるわ!」
「何!?」
謎の声は俺の腹から響いていた。
『フゥーッ! お前の腹の中は居心地がいいぜーッ! 残り一時間もあればお前の身体を乗っ取ってやるから覚悟するんだな!』
「き、きさま! 俺の身体に入った寄生エイリアンか!?」
『そうだぜッ! 今ちょうどお前の血流から脳のデータを読み取ってニンゲンとやらの言語を理解したところだぜ! オマケにDNAをいじくって脆弱な人間の身体を強化してやってるし、神経をいじくることで、多少だがお前の脳を操作できているんだ!』
「何!? 操作だと!?」
『そうさ! まだまだ完全に自由にというわけにはいかないが、お前自身が『生命の恐怖』を感じたとき、その気持ちを増幅して強制的に回避行動をとらせるくらいにはお茶の子さいさいってもんだぜッ!』
「くっ……キサマ、人の身体を……! ということは俺以外の乗組員が俺を殺そうとしても、俺は強制的に回避行動をとって攻撃してしまうというわけか! 万事休すかよチクショウ!」
『そういうことだウワハハハーッ! あと1時間もすればお前の身体を完全に乗っ取って船員を皆殺しにした後、映画『エイリアン』みたいな感じで胸を突き破って成体になってやるぜーッ!』
1時間! それが俺たちに残されたタイムリミットだった。
「クソッ! ど、どうすれば!」
「やむをえん! ジョーッ! 我々がお前を殺そうとしても、身体強化されたお前に返り討ちにあってしまう!」
我らが船長、サムライキャプテン・ジョニーがレーザーリボルバーを差し出した。
「一発だけ弾が入っている! 自分の命に自分でケリをつけるんだ!」
「そんな船長! ホークに死ねっていうの!?」
マリアが船長と俺の間に立った。
「そんなのってないわ! あまりにも冷酷じゃない!」
「マリア、いいんだ」
俺はマリアの右側をとことこ歩いて迂回し、船長の差し出したレーザーピストルを横から受け取った。
「船長が正しい。これは俺がケリをつけなきゃならんことだ。船員の命を守るのが、戦闘員の務め、だろ?」
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俺は仲間たちと最後の別れの言葉をかわした後、レーザーリボルバーを片手に、非常用の監禁室、密航者や錯乱した船員、宇宙海賊などを捉えておくための部屋に入っていった。
銀色のアンドロイド・ジャックが車輪の音を鳴らしながら後に続いた。
部屋の真ん中にぽつねんと置かれた椅子に腰掛けつつ、キャプテンの説明を思い出す。
「エイリアンが暴れ出したときのために、弾丸は自殺用の一発だけだ。時間の猶予は30分。30分以内にエイリアンを始末できなかったら、残った我々は戦う準備をしなくちゃならん。君は一人で部屋に入ることになるが、後の処理はアンドロイド・ジャックに任せておこう」
船長はアンドロイド・ジャックに命令を出した。
「エイリアンがジョーの身体から出てきたら、レーザービームでエイリアンを始末しろ。もし、30分経って、まだエイリアンが生きていたら……船長権限により、緊急避難の殺人を許可する。ジョーの身体ごとエイリアンを抹殺しろ。コード認証、5-3-7-9……」
「ピー、了解。船員全員の生命の危機と判断。セーフティ解除、緊急避難を含ム命令ヲ受諾シマシタ」
アンドロイドジャックは地球で人気の萌え声優の合成音声で答えた。
そんなわけで今俺は狭い部屋の中、ポンコツロボットと腹の中のエイリアンと一緒にいるというわけだ。
「ふぅ、やれやれ……最期の別れだっていうのに、みんな案外あっさりしたもんだぜ……」
『薄情な仲間たちばかりで哀れだなニンゲン! 諦めて30分間寝て過ごしたらどうだ!?』
俺の腹の中からエイリアンが叫んだ。
「はっ……ゴメンこうむるぜ。お前は俺と一緒に地獄いきだ」
右手のレーザーリボルバーを自分の頭に構える。引き金を引こうと力を込めた。
「うぐっ!?」
ピキィッ! 腕がつった。
「ぐあぁぁ……! う、腕がぁ……ッ!」
『ハッハッハッ! 思ったより根性あるじゃねーかニンゲン! しかし残念だったな! どんなに血気盛んな勇者でも、これから死のうってときには一抹の恐怖っていうのはけしてぬぐえないもんよ!』
「くっ……」
俺は火星の軍学校で厳しい特訓を積んだだけでなく、さまざまな精神処置も施されている。船の仲間の安全を優先し、迷うことなく自殺に踏み切ろうとしたのもその一端だ。しかし、人間の最先端精神操作技術よりも本能のほうが勝ったようだ。
「なるほど……月面戦争で『殺戮機械』と呼ばれた俺にも恐怖という感情は残っていたわけか……一応俺もまだまだニンゲンのカテゴリーにいると知れてよかったぜ」
『ククク、死ぬ前に良いことがあって良かったじゃねぇか。その最後の一発はあのポンコツにくれてやって後はノンビリ休んだらどうだ?』
「ポンコツとは失礼ナ。訂正を要求シマス」
「俺が言ったわけじゃねぇよアンドロイド・ジャック」
しかし困ったことになった。仲間が殺そうとしたら俺の意志とは関係なく反撃してしまうし、自分で命を絶とうとすると腕がつる。八方塞がりとはこのことだ。
「待てよ……」
そもそも何故、船長はこんな面倒な方法で自殺させようとしたのだろう。
別に使う道具は船長愛用の旧式レーザーリボルバーでなくても良いはずだ。
例えばそこのアンドロイドジャックに『殺せ』と命令すれば……。
いや、そうなると、その場で恐怖を感じて、周りにいる全員をぶっ殺しちまう可能性があるわけか。
『なぁ、どうだい? 手を組むってのは? 争うのはやめて、共生しようぜ? マンガの『寄生獣』のミギーとシンイチみたいによ。そこの扉から出て行ってみんなに『もう大丈夫だ! エイリアンと僕は友達になった!』と言ってやればいい』
「黙れ。そうやって口車に乗せて部屋から出して、なんとか1時間稼ぐつもりだろう?」
どうやらエイリアンは俺の脳のデータからどんどん情報を読み取っているらしい。この俺をペテンにかけようとする知能さえもっているようだ。
『ヒヒッ! そうさ! 俺はお前の考えてることも手に取るようにわかるぜぇーッ!』
これはハッタリだろうか? わざわざそう宣言するということは、まだ完全には思考を読み取れないという証左でもある気がする。プレッシャーを与える目的だ。しかし、時間をかけすぎると嘘が真になるかもしれない。
俺はアンドロイドジャックを見た。船長は何と命令を出したか? ロボットへの命令は厳密さが要求される。そのことはキャプテンもよくわかっているはず。
彼はたしか、『30分経ってもエイリアンが死んでいなければ俺ごと射殺しろ』と言っていた。
よく考えると、この命令は少し穴がある。さきほどエイリアンがそそのかしたように、少なくとも30分はアンドロイドジャックが動くことはないし、部屋から出ることも禁止されてはいない。アンドロイドジャックは、何らかの方法で俺がこの部屋からの脱出を試みたとしても、止めはしないだろう。
あの船長がミスをしたとは思えないが……。
「待てよ? そういうことか……」
俺はレーザーリボルバーを見た。この銃は地球の昔の銃を再現した、西部劇オタクに人気の鑑賞銃である。弾は最大6発入る。そして、今は一つだけ装填されている。俺は昔のマフィア映画のように、弾倉を回転させた。これで、唯一の弾がどこにあるのか、分からなくなった。
『おい、何をする気だ?』
「6分の1……」
自分に言い聞かせるように呟いて、引き金を引いた。
ピピッ!
レーザーリボルバーから電子音が鳴り響き、弾丸を発射できなかったことを告げた。
『キサマ……』
エイリアンの声から感情が消えた。いや、元から感情なんてものはなかったのかもしれない。俺の心を操るために、感情があるフリをしていたのだろうか。
「フフッ……なるほど、予想通りだ。確実な目の前の死に対しては恐怖心が強すぎて、精神処置から漏れ出してくる。だが、それが『30分後』だとか『6分の1』とか、不確実なものならどうだ? ひょっとしたら助かるかもしれないとなると、恐怖は精神処置の許容範囲内に収まり、引き金を引くことができるってわけだ。船長もそれを理解して、アンドロイドジャックに『すぐに殺せ』と命令を出さなかったのだろう。どうやら俺は自殺できるようだぜ? さっさと体内から逃げたほうがいいんじゃないか?」
『舐めるなよ。俺は不安定な人間とは違う。『生き残る』という確固たる意志がある。何度引き金を引いても、結局はお前の身体の中にいるほうが生き残る可能性が高いんだ。恐怖にビビッて飛び出したりなんかしない。なっ? 無駄だからやめておけ』
「じゃあ、それをこれから試してやろうじゃないか」
俺は再び銃口を頭にくっつける。今度は5分の1。
ピピーッ!
『無駄だ。無駄』
俺はレーザーリボルバーを再び構えながら、『ギャンブラーの誤謬』という言葉を思い出していた。ギャンブラーの誤謬。コインを投げて、5回連続で『表』が出た。じゃあ次に『裏』が出る確率は?
2分の1だ。
『連続5回表が出たのだからそろそろ裏が出やすくなる』なんてことはない。『確率』というものはどんなときでも平等だ。人間の心理はそのことをよく見誤る。
だから、次の一発は、ただの『4分の1』だ。すでに二回引き金を引いたが、出ない確率のほうが高い。
ピピーッ!
『ホーッ! 危ない危ない! 3回も引き金を引いてびっくりしちゃったぜ。でもまぁ、そろそろやめたほうがいいな。そろそろ弾が出るだろう』
「なるほどな。そこまで思考が読めるってわけか。ギャンブラーの誤謬を知ってひとつ賢くなったか。だが、どうも、お前は心理戦は下手糞のようだ」
あまりにも見え透いた心理誘導だ。このエイリアンは、思考は読めるが、心理を完全に理解できているわけではないらしい。さっきの煽りも、言ってみれば『ギャンブラーの誤謬』という知識があったからやっただけのことで、別に人間の恐怖とかいった心理について真に理解しているわけではない。
「まるでFPSをプレイしただけで戦争を知った気になるようなものだ」
3分の1。
まだまだ、出ない確率のほうが高い。
俺は、引き金を。
引けない。
「ううっ……!?」
『ククク……どうしたどうした? ようやく俺の助言を聞き入れる気になったかい? そりゃそうだろうな。もう4発目だ。出るとしたらそろそろだ。なぁ、銃を置いて、諦めろよ』
どうしても指が動かない。クソッ。ほんの少し恐怖を煽ってやれば十分だったってわけか。3分の1。まだまだ弾が出ない確率のほうが高い。それでも、『もし出るとしたらこの辺だろう』と考えてしまうと体が動かない。
『お前がくだらないロシアンルーレットにゆっくりと時間をかけてくれたおかげで、お前の脳の知識を読んでかなりニンゲンに対する理解が進んだぜ。ニンゲンの心理という奴もな。随分不便な生き物だ』
寄生虫は侮蔑するように言った。
「く、クソ……ちくしょう……! 動け……!」
『無駄だ。お前にはもう3分の1の確率が3分の1に見えちゃいないのさ。次は絶対に出る。そう考えてしまっている。もう3回も引き金を引いたんだからな。次も弾が出ないなんていう都合の良いことは絶対起こらないと思っている。まったく不合理な生き物だぜ』
フフンと、勝ち誇ったような笑い声が腹の中で聞こえた。
『そろそろ人間の心理の解析もすみそうだ。どうすれば恐怖するかもわかる。お前がどうしてもこの部屋から出ないというならば、今まで脳の情報を読むのに使っていた神経を逆に利用して、何よりも恐ろしい幻覚を見せてやることもできる。死ぬよりも恐ろしいものを。時間の感覚を何万倍にも引き延ばして、お前が子供のころ、木から落ちて腕の骨を折った痛みや、戦場で仲間を失った悲しみを延々とリピートしてやる。廃人になるまでな。だが、さすがの俺も宿主であるお前にそんなことをするのはさすがに良心が痛むぜ。だから、ピストルを置いて、俺と手をとりあおう、な?』
今度は、どうもただのハッタリじゃないらしい。俺の視界の中に大きな鎌を持った死神とかゾンビとか、テレビから出てこようとする長髪の女とかピエロとか、俺の記憶の中の恐怖の対象である色んなものが雑多に出てきた。最初は子供の悪ふざけのようなものだったが、だんだんと、その幻覚が、離すうちに戦場を飛び交うレーザーや、俺を食い殺しかけた未開の惑星の獣など、リアルなものに変わっていった
時間はあまりなさそうだ。
「しょうがない……覚悟を決めるか」
『なに?』
ピピーッ!
エラー音が鳴り響いた。
『なっ……』
エイリアンが声を漏らした。
「おや? どうも焦っているみたいだな? お前にも一応恐怖のようなものはあるというわけか」
『バカな……なぜ引き金を引ける? 確かにお前は死に恐怖していたはずだ』
「なぜ引き金を引けるのか、人間の心理を理解したんだろ? 考えてみたらどうだ?」
『くっ……!』
人間の知識を情報として知ることはできても、こいつは自分の実感として、真に理解することはできない。
それが唯一の付け入る隙だ。
恐怖というものは未知から来るもの。こいつも生物なら、未知への恐怖というものがあるはずだ。何故引き金を引けるのか、理解できないのなら、恐怖を感じるはずだ。
俺は、再び銃口を頭に向けた。
2分の1。
半分の確率で、頭が吹っ飛ぶ。
『ば、バカな……! 2分の1だぞ! 死ぬ気か?』
「不安なら、俺の身体から出るといい」
『……!』
引き金を。
引いた。
ピピーッ!
エラー音が鳴り響く。
俺の身体にはなんの異常もない。
頭はレーザーでぶち抜かれてないし、腹の中にもエイリアンがいるままだ。
『ククク……残念だったな。お前のギャンブルも無駄に終わった』
エイリアンの声が響く。
『結局のところ、お前の身体から出たら、俺はほぼ確実に、あのロボットに射殺される。それならば、2分の1の確率で死ぬことになったとしても、お前の身体の中にいたほうがマシってことだ。ニンゲンが死の恐怖を克服したことは驚いたが、それまでだ。ほんの少しでも生き残る可能性があると思ったか? もう諦めろ。俺に協力したらせめて苦しまないように意識を消滅させてやる』
俺はふぅと息を吐いた。
「やれやれ……やっぱ最後までやらないとダメか……」
俺は再び、レーザーリボルバーを構えた。
『バカが。確実な死は恐怖を生み出す。お前に引き金が引けるわけが』
俺はぐっと引き金に力を込める。腕は、つらない。
引ける。
『……バカな』
「なぜだ? って聞きたそうだから教えてやるぜ。俺が何故恐怖を持たずに引き金を引くことができるのか。それは、仲間を信じているからだ」
『仲間、だと?』
「そうさ。ここまで5回引き金を引いて、5回とも弾は出なかった。お前はただの偶然で済ませるだろうが、俺はそうは思わない。本当ならすでに俺の頭はぶち抜かれているはずだ。そんなに運がいいほうじゃないからな」
『運だと……?』
「そうさ。きっと、3回か4回目あたりで弾が出ていただろう。それが俺の運だ。そこで、弾が出なかったってことは、それはもう、運以外の要素が働いていると考えるしかない。つまり、船長が何か細工したってことさ。例えば、あえて弾を抜いておいたとかな」
『……! バカな……! そんな不合理な……! 運なんてものは存在しない。確率は平等だ。3発目、4発目で弾が出なかっただと? それがなんだ? ただの偶然だ! 6発目に弾がある確率は6分の1だ! 仲間が細工したことの証明になんてなりゃしない!』
「俺にはそれで十分さ。人間は不合理な生き物だからな」
『そ、それに! あの船長が細工する理由もないだろう! お前を助けようとして、船内の全員を命の危険に晒すんだぞ! お前一人を見捨てれば助かるんだ!』
「言いたいことはそれだけか?」
やはり、よくわかった。こいつは人間の心理を知ることはできても、理解はできない。俺が仲間たちを信頼していることを知ることはできても、エイリアン自身が、俺と同じように船長が細工したと信じることはできない。
俺は信じている。人間だから。不合理な生き物だから。
「さぁ、計算しろ。船長を信じて俺の体内に残るか。俺の身体を捨てて、外に飛び出すか。どっちが生き残る可能性が高いかをな!」
『……!』
引き金を、引き絞る。
『おおおおおおおおおおおおおッ!』
「おおおおおおおおおおおおおッ!?」
ドラゴンボールのピッコロ大魔王が卵を吐き出すときみたいに、俺の喉が膨らんだ。強烈な嘔吐感。
頭を無理やり動かされ、アンドロイドジャックの方向を向かされる。
ジャックは、俺の頭に向けて、まっすぐレーザー銃の銃口を構えていた。
「おごぉっ!」
エイリアンは俺の口から飛び出し、弾丸のようにジャックにとびかかった。
「キシャアアアアアーッ!」
「ターゲットを確認、処理シマス」
一閃。部屋の中に赤い光がきらめき、次の瞬間にはエイリアンが灰に変わった。
「ターゲットを排除。緊急事態のクリアを確認。緊急避難モードから通常モードに変わりマス」
アンドロイドジャックの赤いランプが、青に変わった。
廊下のほうからドタドタと足音が聞こえてきて、ドアが開いた。
「ジョーッ! やったのか!」
俺の目に映ったのは船長たち。頼れる仲間の姿だった。
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その後、俺は医療ルームに連れられて処置を受けた。
そして、仲間たちには部屋の中で起きたことを話した。
「なるほどな……。エイリアンは最後には人間の信頼よりも、一かバチか、アンドロイドジャックに攻撃して生き残る『確率』を選んだってわけか」
テツオが新しくなった腕を組みながら言った。
「でも、良かったわね。エイリアンの奴、ホークの身体から出るときに、あなたを殺すこともできたんじゃないの? 少し体内を傷つけられはしたけど、命に別状がなくて良かったわ」
マリアが心配そうに言った。
「まぁ、人間と違って『恨み』で動くこともなかったってことじゃろう。全ては計算。恐らく、アイアンジャックを始末した後、なんとか再びジョーの体内に戻れる確率に賭けたんじゃろ」
ドクが顎髭を撫でながら言った。ちょっと残念そうに見えるのは、きっとエイリアンが灰になってしまい、そのDNAを研究することができなくなったからだろう。
「それにしても、船長、すごいですね。最初から全てを読んでいたってことですよね。6分の1程度の確率なら精神処置で恐怖を抑え込めることや、エイリアンが『人間の信頼』を信頼しないということまで」
「そうそう! さすが船長って感じよね!」
「すごいなぁ、憧れちゃうなー!」
船員たちみんな、サムライキャプテン・ジャックに尊敬のまなざしを送った。
だが。
「う、うむ……まぁな……」
船長は帽子をまぶかに被って顔を隠した。なんだか動揺しているように見える。
「その反応……船長、まさか……!」
俺はレーザーリボルバーの弾倉を確認した。
そして、ヘロヘロと全身の力が抜けていく。
「い、いや……ワシもロシアンルーレットでエイリアンを追い込むことまでは考えていたんだが……そうか、改めて冷静に考えれば弾を抜いておけばよかったな……すまん……」
「と、ということは……俺は、俺は実弾が入ったレーザーリボルバーの最後の一発を自分の頭にぶち込もうとしていたのか……そ、そんな……そんなのって……」
俺は震える喉から声を絞り出した。
「ありえん(ALIEN)……」
終わり
最近アイザック・アシモフのロボットもの短編をいくつか読んだんだけど「与えられた命令に対して何故妙な行動を起こしたのか?」みたいなロボットの不具合の原因を探るミステリーが多くて面白かった。SFの古典みたいな作品だけど、AIとかロボット技術とか進んでいる現代だからこそ、こういうタイプのSFミステリーも面白いんじゃないか? と思って書きました。




