異変
それからユーニはこちらの世界での四日に一度、つまりは毎日来るようになった。
まあ、一日二、三時間くらいなら無理の無い範囲かな?
ユーニのステータスを確認してみると、今はこんな感じになったようだ。
ちなみに、ステータスには鍵をかける事が出来、許可を与えた人にだけ公開する、などが可能だ。
名前ユーニ
職業弓術師レベル三五
種族人間女性
筋力十四・体力十四
知力十・精神十五
敏捷十六・器用十五
魔力十四
武技
弓四・格闘三・防御四
探索
野外三・屋内二
魔法
精霊三
ユーニも俺の影響を受けてか、能力値に多めの経験値を振っていた。
弓術師はエルフによって伝えられたとされる弓と精霊術を駆使して戦う職業で、弓による物理攻撃と精霊術による魔法攻撃で、相手を選ばないスタイルとなっている。
特性は矢に精霊を乗せて射つ、精霊射撃だ。
精霊が矢を誘導すると言う設定で必中の効果があり、さらに精霊による魔法攻撃を上乗せ出来る。
気力も魔法力も消費するが、時間当たりのダメージが大きい。
二人で狩りに行くと俺の強化と相乗して、素晴らしい殲滅力を発揮してくれる。
弓を装備している際に攻撃力と命中、魔力を上昇させる特性もあり、実に頼もしい相棒だ。
ただ、この弓術師も人気職ではない。
弓ならば特化した剛弓使いに、精霊術なら精霊使いに負けてしまうからだ。
オンラインRPGの常ではあるが、どうしても特化型に人気は集中する。
それはBLOをもってしても変わり無かった。
「兄貴のステータスはどうなった?」
それを聞いちゃいますか・・・。
見せてもらっておいて断るのも申し訳ないが、どうしたもんか。
ただ、頻繁に行動を共にする以上は遅かれ早かれとも考えられる。
そんなわけで、口止めしてから見る許可を与えた。
「何これ・・・?」
そうなるよなあ。
不正はしてませんよ!
仕方なく伏せておいた護符も開示した。
「成長制限解除・・・。
すごいアイテムだね。」
うちの優ちゃんは良い子だからね、ちゃんと誰にも言わないと誓ってくれたさ。
その日、俺は一人でクエストを受けていた。
レベル四〇から受けられるようになる、ゲーム進行の指針となるクエストで、基本的には一人で攻略可能なものだ。
ゲームのスタート地点であるブレードランド最南端の港町メルから始まり、ヒルトへ至り、北の街メルベンからさらに北へと続いて行くらしい。
ローグリアスのおかげで一般的な同レベル帯の冒険者より戦えるようになった俺なら楽勝だと、気楽に向かった。
行き先は古戦場のさらに北、引き続きアンデッドの蔓延る廃村、タルだ。
まずは古戦場を抜けなければ到達出来ない。
「マナ!」
第六階位に所属する強化魔術。
その効果は、魔力の強化だ。
マナの後に他の強化魔術を使えば、その効果をさらに伸ばす事が出来る。
ただしその効果は、自身にかかるマナには乗らない。
「ストレングス!
モビリティ!
マジック・アーマー!
マジック・サークル!
フレイム・ウェポン!」
後はいつもの五点セットだ。
凄まじい強化量になっているはずだが、果たして・・・。
まずは走った。
その速度は以前よりも遥かに増している。
もう誰も追い付けないんじゃないか、これ。
続いて戦闘なのだが、スケルトン・ウォリアーはひと振りで燃え尽きた。
さらに奥へ。
スケルトン・ナイトもゴーストもひと振りだった。
いよいよ自分で恐ろしくなってきたが、先へ進もう。
古戦場を抜ければ廃村タルが見えてくる。
通常そこまではゲーム内時間で一日の距離と言われているが、俺は半日程で着いてしまった。
道中試し斬り程度の戦闘しかしなかったのもあるが、それを差し引いても速い。
薄ら寒い感覚に、乾いた笑い声が漏れ出た。
廃村では、この村をこんな姿にした魔物と戦う事になっている。
名前は蹂躙のペンタス。
腐ってない肉のある、アンデッド・ナイトと言う種類の魔物だ。
NM扱いだが、一人で戦える程度に調整されているそうだ。
ただ、やはり職による相性やそもそも戦いに向かない職などもあり、一概に誰でもとは言えないだろう。
訪れてみると先客の、一人で戦っている冒険者がいた。
注視すると、生産系統の職だとわかる。
ドワーフの鍛冶師レベル四二だ。
厳しそうだな。
「強化しましょうか?」
「済まん、助かる!」
と言う事なので、かける。
五点セットで行こうか。
次々鍛冶師の身体が輝く。
あ、マナかかってるんだっけ。
相当上がっちゃったはずだな、やばい。
詳しくない人なら良いんだけど。
鍛冶師は両手持ちの大きな鎚で戦っている。
その一撃一撃の威力が、強化前と強化後で倍どころでない差になっていた。
鎚を振れば振るほど、ごっそりとボスの生命力が削れていく。
生命力の量などは、注視する事で脳内にイメージとして伝わるのだが、見てて気持ち良いな、これ。
大鎚は、このゲームでも例に漏れず一撃重視の武器だ。
重いために攻撃速度も硬直も長い。
しかしそれに見合う攻撃力から、愛好者は一定数いるようだ。
最期の一撃が決まり、ペンタスは塵になった。
拍手しつつ、ヒーリングで減った生命力を回復する。
「お疲れ様です。」
「ありがとう。
おかげで倒せたぜ!」
握手を交わす。
これはキャラクターに特殊な行動を取らせるための、エモーションと呼ばれるものだ。
座ったり拍手したりもそうだが、握手のような複数人で行うものもある。
通常は設定の項目から、受付設定を行える。
俺は中の人になったからか、自分の行動に委ねられている。
ドワーフの鍛冶師はダーレスと名乗った。
ペンタスが再出現するのを待つ間、話し相手になってくれるようだ。
「あんたがあのフーヤか!
強化特化なんだな。
すごい効果じゃないか。
どうやらペンタスを甘く見てたらしくてな、本当に助かったぜ。」
やはり名前は知られていたようだ。
「魔力二〇まで上げましたからね。」
「それレベルに回してたら、六〇まで上げられてないか?」
これを言われると辛いところなのだが、十五を超えた辺りから、要求される経験値が倍々どころでなく増えていくのだ。
十八から二〇までに必要な経験値は、レベル四〇から六〇までの経験値と同等と言われている。
この一点だけで、俺がどれだけ酔狂な事をしているのか理解出来るだろう。
「変わってんな!
ガハハハハ!」
ペンタスの出現に合わせて、ダーレスは帰って行く。
彼は礼として、剣の製作を約束してくれた。
破格だと断ったのだが、今ちょうど剣の製作に手を出しているところで、生産経験値稼ぎのついでで作ってくれるそうだ。
そういう事なら、と受け取る事にした。
再会出来るかもわからないし、気安く受けておけば良いのかもしれない。
それから俺は、ペンタスと対峙した。
マナから五点強化を繋げて、レイピアを引き抜く。
だが、最初の一撃はレイピアではない。
「カオス・フレア!」
第六階位の火炎系最高位の魔術。
対象を中心として、広範囲に炎が荒れ狂う。
高温の炎に焼かれ、ペンタスの生命力は一気に半減となった。
後はレイピアの、第二職業剣士の出番だ。
跳び込んで、斬撃からの二連突き。
カオス・フレアの終わり際ぎりぎりを狙って繰り出した攻撃は、体勢の整っていなかったペンタスには対処出来ない。
さらに気力を消費して剣士の特性、増刃を仕掛ける。
剣のスキルレベルに応じて複数の闘気の刃を一定時間出現させて斬り裂く、自己強化の技だ。
これが、何故かやたらと鋭い。
もしかして、強化術師の特性乗ってないか?
剣レベルと同数の刃が出現してくれるため、ひと振りで四回分の攻撃となる。
本来は本体と同じ威力のはずだが、追加で出ている刃の方が深い傷を与えている。
これは良い組み合わせだったな。
剣士は、剣装備の時に攻撃力、命中、回避を上昇させる特性も持っているので、最早ペンタスなど相手にもならなかった。
斬り刻まれ、炎に焼かれていく。
アンデッド・ナイトは、無惨な最期を遂げた。
「我を倒したとて無駄な事よ。
この地は我が主の物。
戦士よ!
その命が惜しくないのなら、北へと進むが良い!」
それがペンタスの、最期の言葉だった。
「仇を討ってくれて、ありがとうございました。」
廃村から逃げてきた女性NPCは、頭を下げた。
彼女の村タルは、ペンタス率いるアンデッド軍団に襲われ、彼女一人を残して全滅。
村人は全員アンデッドとされた。
元凶となるペンタスさえ倒せば、村人は皆解放され、天に召されるだろう、と言うクエストだった。
ただ実際には解放されず、ペンタスの背後にいる存在が仄めかされて次のクエストに繋がっていく事になっている。
主人公である冒険者は、それを追って魔物達の住む北の地へ誘導される流れだ。
しかしここで、想定外の問題が発生した。
「私をタルへ、連れて行って下さい!」
この女性、リアと言うのだが、本来これで出番終了のはずがこんな事を言い出したのだ。
これ、どうなるのよ?
連れて行ったら、他のプレイヤー達クエスト出来なくないか?
でも面白そうだしな・・・。
「はい、良いですよ。」
すまんな、数多くのプレイヤー達よ!
俺の楽しみのために、犠牲になってくれたまえ!
俺はリアを連れて、東門へと向かった。
どうなるんだろうか。
楽しみなのと悪い事してるどきどきとで、感情がしっちゃかめっちゃかだぜ!
リアは明るい茶色の長髪と、同じ色の瞳の美人さんだ。
スタイルがかなり良く、野暮ったい村人NPCの服を着替えたら、相当な危険物になると思われる。
ただの村人なので気をつけないといかんが、大回りの道なりに行けば、特に戦闘も無く行けるだろう。
念のための強化は忘れないが。