再会
穏やかな海、沈み行く夕日、白い砂浜。
そして倒れ伏す男三人。
結局また来やがって。
面倒臭いなあ、もう!
まあただ、今回は決闘で来てくれたし、これで終わりなら良いな。
決闘だから、彼らもオレンジにはならなかった。
懲りたんだろうな。
余程良いアイテムでも没収されたのではないかな。
倒れていてもチャットは出来るので、死体な彼らに一言投げる。
「もう来ないで下さいね。」
「さすがにもう来ませんや、姐御。」
「・・・男性なんですけど。」
「さすがにもう来ませんや、姐御。」
それで三人組は消えて行った。
姐御が、好きなのか?
某最終幻想の、五作目のキャラクターを思い出すな。
レイピアを鞘に収め、村へと帰る。
そこには村人達がいて、手を叩いて喜んでくれた。
心が暖まるなあ。
酒場で料理をご馳走になって、ミナに酌などしてもらって、その日は楽しく更けていった。
夜、何となく目が覚めて、宿の部屋から外を眺めた。
砂浜にぽつんと、誰かが一人座っている。
誰だろう?
注視して、俺は驚愕した。
「ユーニ!」
窓から跳び降り、転げるようにして走る。
名を呼ばれた彼女は驚いた後、こちらを睨んだ。
すぐに弓を構え、躊躇無く放つ。
俺は何とか回避し、モビリティをかけつつ次弾も避けた。
両手を上げて、降参の意思を示す。
「待て、ユーニ!
どうして射つんだよ!」
「あなたは誰?
そのアカウント、どうやって盗んだ!」
ああ、そう思ったわけか。
何となく察するが、今はこの身の証明が先だ。
「俺はカザヤだ!
高原風也!
お前の兄貴だ!」
「嘘よ。
そんな個人情報まで手に入れて、一体何を企んでいるの!」
個人情報では駄目、か。
ならば・・・。
「優、俺のスマホはあるか?」
「あるけど?」
「パターンロックを解除しよう。
左下から左上へ。
次に右上、さらに右下。
それで開くはずだ。」
ユーニの反応が無い。
弓はまだこちらを狙っている。
スマホを言われた通りに操作しているのだろう。
やがて声が発せられた。
「本当に、兄貴なの?」
「スマホの壁紙、お前の写真だったろ?」
「そんな、何でこんなところに。」
ユーニの動きは、それきり止まったままになった。
もう大丈夫そうだ。
そっと近寄って、弓を下ろさせる。
矢も矢筒へ戻し・・・、本当は胸に抱いてやりたいが、届かないから手を握った。
落ち着いた優は、俺に説明を求めた。
とは言っても、俺自身が何故ここにいるのかわかっていない。
手がかりも無いため、話のしようが無かった。
仕方なしに、これまでこっちでどうしていたのかを適当に話した。
護符の事は、さすがに伏せたが。
そして今度は、俺が聞く番だった。
「そっちの俺は、どうなったんだ?」
「・・・死んでたよ。
息も心臓も止まって、病院で何度も診てもらって、でも駄目だった。
葬儀ももう終わっちゃった。
兄貴の身体、灰になっちゃったよ。」
ふむ、予想していたけども、ちょっと心臓に効くな・・・。
帰れなくとも構わないとは思っていたが、本当に帰れなくなるとはな。
まあ、考えても仕方ない。
「俺はここで元気にしてるし、お前と話も出来たからな。
単に死んだんじゃなくて良かったんじゃないか?
お前も、俺と話したくなったら来たら良いさ。」
「うん・・・。」
本当に落ち着くには、まだ時間がかかるだろうな。
俺の遺体を見ちまったんだろうし。
しかしスマホ、持ってたか・・・。
見られて困るようなデータは入れなかったっけな、良かった良かった。
精々が優の写真くらいだ。
寝顔は・・・、怒るかもな。
仕方ない、可愛かったんだから。
「そうだ、フレンド登録ってどうなってる?」
「それが、消えちゃってるの。
もう一度試して良い?」
「そりゃ、もちろん。」
うわ、脳内に届いたぜ・・・。
まだ慣れないな、この感覚は。
とりあえず了承っと。
「あ、出来た!
良かった・・・。」
「おう、そうかそうか。
こっちも見てみるか。」
リストを見ようとすると、やはり脳内に伝達された。
ユーニの名前だけが認識出来る。
「リストは初期化されたみたいだな。
ユーニしかいないわ。
理由がよくわからんな。
まあ、状況が状況だし、一人で良いか。」
「そ、そうなの?
まあ、兄貴が良いなら私は別に・・・。」
それからはユーニから、色々と話を聞いた。
「今は一人で、そのまま暮らしてるよ。
兄貴の部屋も、そのまま・・・。」
「好きにして構わんよ?
しかし一人か。
お兄さんは心配だぜ。」
「私は兄貴より強いから、大丈夫だよ。」
「空手部だっけね。
そりゃ俺より強いだろうさ。
でも、ちゃんと気をつけておけよ?」
「うん!」
「兄貴の会社の人がね、結構来てくれたの。
上司さん、良い人だね。」
「ああ、増島さんかな?
ちょっと熱血寄りでな、反りが合わんと言うか・・・。」
「兄貴、真逆の無気力系だもんね。」
「何よ、その嫌な括り。
まあでも、そんなんだな。」
「昔はそうでもなかったのにな・・・。」
「そう言えば、何でここにいたんだ?」
「フーヤがここにいるって、聞いたの。
でも着いた時には見当たらなくて。
まさか律儀に、宿に泊まってるとは思わなかったから。
それで何となく呆けてたの。」
「俺、こっちにいるわけじゃない。
宿が結構素敵なのよ。
ちょっとした、リゾート気分?」
「む、ちょっと良いかも・・・。」
「そろそろ落ちて、眠るね。
また明日も来るから。」
「まあ無理の無い程度にな。
勉学に部活に友達にと、お前さん忙しかろう?」
「まあね。
それじゃ、無理の無い程度に来るよ。
おやすみ、兄貴。」
「ほい、おやすみ。」
ユーニはログアウトしていった。
ああ、死んでたか俺・・・。
ユーニが帰って一人になって、今頃ダメージが出てきたぞ。
もう帰る目も無くなったのか。
身体が無いんじゃな・・・。
うじうじしてても自分で面倒臭いし、明日の予定でも立てようか。
そろそろ村を離れる頃合いだろう。
しかしヒルトに帰る気にはならないんだよな。
このまま北上するか。
狩場的には、レベル五〇に入ってしまうかな。
・・・早いか。
四〇辺りの狩場は、ヒルトが近いんだよなあ。
面倒な事になっちまったよ!
翌日、仕方なくヒルトへの道を歩く。
村人達は別れを惜しんでくれたが、気に入っているのでその内また顔を出すだろう。
NPCがNPCしていないのは、だんだん慣れてきた。
プレイヤーがいなくても活気があるって、素晴らしいね。
漁村リラは、第二の故郷だわ。
そんなこんなで三日程かけて、ゆっくりヒルトまで帰ってきた。
ユーニからは連絡が無い。
リアルが忙しいのは良い事よ。
優にはちゃんと、現実に生きてもらいたいからね。
ヒルトの街はと言うと、まあ変わりは無いな。
ちらほらと挨拶してくる冒険者がいるくらいだ。
(兄貴、今何処?)
おお、これ囁きか。
オンラインゲーム定番の、個人向けチャット。
一対一で話したい時に使う機能だ。
(今はヒルトにおるよ。)
(それならちょうど良い。
すぐ行けるよ。)
飛翔の翼と言う消費アイテムがある。
それを使うと、復活場所に指定している神殿へ瞬時に飛べるのだ。
ユーニはヒルトに設定していたのだろう。
神殿へと向かう。
ヒルトの神殿は、中央広場の北側の東寄りにある。
そこへ向かうと、ちょうど出てくるところだった。
「フーヤ!」
人前では、キャラクター名で呼ぶ。
それは一種の、ネットゲーム内におけるマナーだ。
時々その分別のつかない人間が、身近な人間の身柄をばらしてしまう事がある。
そういった事を防ぐ意味もある慣習だった。
ちなみにそんな失態を犯した事は、俺は無い。
ユーニのレベルは三四だった。
少し離れてしまったが、問題になる程ではない。
今回も古戦場が良さそうなので、東門から向かう。
「二人だとちょうど良いくらいかな?」
「俺達だと、少し弱く感じるかもな。」
二人に強化魔術をかけていく。
豪華五点セットで行こう。
さて、想定通りなら、ユーニが猛威を振るうはずだが。
思っていた通り、ユーニの矢が比喩的にも文字通りにも、火を吹いていた。
スケントン・ウォリアーなどは一撃で炎に沈み、それより格上のスケントン・ナイトも二発程、霊体型の魔物ゴーストにも炎が効き、そちらは二から三発。
俺はほぼ、見ているだけだった。
その内に矢の方が尽きてしまい、仕方なく帰還する。
「すごいな、ユーニ。
帰り道に敵がいないぞ。」
「やり過ぎちゃった・・・。
申し訳ないね。」
精算すると、それなりの金額となった。
ユーニの矢の補充に付き合って、武具店へと向かう。
「日が暮れるな。
・・・あれ?
まだいて大丈夫なのか?
と言うか、そっちって何時間経った?」
「三時間ってところかな。
どうしたの?」
「・・・時間の流れが違うな。
こっちは半日過ぎてるぜ。」
およそ、現実世界の六時間で一日か。
それなら、優とは現実世界で昨日会ったわけだ。
「そんな!
それじゃ兄貴、三日は一人だったの?」
「まあ、それは良いじゃないか。
一人、好きよ?」
ぼっちみたいに言うな。