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骸王討伐

巨大な骸骨の長大な杖に、黒い輝きが満ちる。

発動の限界までレイピアでひたすら突き、モビリティの加速を得て離脱した。

波動がぎりぎりで届かない。


「ヒーリング!」


直後に駆け込みつつ回復、レイピアでの接近戦を挑む。

ローグリアスの殴打、薙払いのコンビネーションが来るが、側面に移動し、さらにローグリアスの両足の間入って薙払いをやり過ごす。

そのままレイピアでの攻撃を続け、片手間にヒーリングで回復。

ローグリアスは杖を突き下ろして来るが、素早く移動して回避、後方から攻撃を続行する。

足による踏み付けは大きく離れて、攻撃魔法に切り替えた。


「フレイム・サークル!」


炎の円陣がローグリアスを包み、持続的に焼く。

第三階位の魔術で、詠唱が長いためなかなか使えないのだが、ようやく放てた。

ローグリアスの生命力が尽きようとしている。


「やれ!

とどめだ!」


団長の声が聞こえた。

なかなかの人格者だ。

獲物を故意ではないにしろ奪われようとしているのに、こうして応援出来るとは。

その思いには、応えなければ。

ローグリアスはこちらを杖で薙払う。

ぎりぎりまで引き付けて跳び上がって避ける。

すぐに振り下ろしが来る。

着地して、そのまま崩れるように体勢を低くして、横に跳んだ。

そして間近にある眼窩を睨み、両手を向ける。


「エア・スラスト!」


第二階位の、風による突き攻撃を叩き込む。

のけ反るようにして断末魔を上げ、ローグリアスはとうとうその身を塵に還した。

着弾した箇所から霧散し始め、灰に燃え尽き散り去るように足先まで一気に消えた。

歓声が聞こえる。

たくさんの冒険者達が駆け寄り、ローグリアスの消えた辺りで賑やかに騒いだ。

街の神殿へ戻って蘇生されたのか、蒼炎十字軍の面々も姿を見せ始め、ヒーラー達が蘇生魔法で仲間達を復活させている。

団長はいち早く復活されたらしく、こちらへ歩み寄って来た。


「やあ、お疲れ様!

そしてありがとう!

君のおかげで私達にも討伐の証がもたらされた!

案外緩いのか、無事手に入ってほっとしたよ。」


朗らかに笑いながら言う。

団長は、クロノと名乗った。

そしてローグリアスのから手に入れたアイテムについて話し始まる。


「君の手にも幾つか入っていると思うが、それはそのまま持って行ってくれ。

我々だけでは届かなかったのだ。

何が手に入ったのかも、公表しなくて構わない。

要らぬ騒動を引き起こしかねないからな。

今日は本当にありがとう。

また会う事があったら、その時にはもっと突っ込んだ話をさせてくれ。

それでは!」


最後まで気持ちの良い人だったな。

他の団員のいる前でそう話したと言う事は、それが蒼炎十字軍のスタンスだと知らしめる意味もあるのだろう。

俺に対して言及する事は、団長自らが許可しないと言うわけだ。

やだ、格好良い。

突っ込んだ話ってのは、多分勧誘だな。

その気は一切無いので、会わないで済むように逃げとこう。

しかし、勝てるとは思わなかった。

大金星だが、これから騒がしくなるのかね。

このゲーム、名前隠せないからな。

嫌な形で広まってしまうな・・・。

ま、今更仕方ない。

しばらくなりを潜めて、大人しくしていようか。




さて、とんでもない数字の経験値が手に入ったわけなんだが・・・。

俺は冒険者ギルドで、密かに頭を抱えた。

ローグリアスは、経験値にレベル差補正を入れなかったのかな。

上にも下にも、レベル差があると入手する経験値が激減するシステムがあるのだ。

報告するべきなんだが、手段が無い。

とりあえず、もらったものは使ってしまおうか。

強化術師レベルを四〇へ。

ダブルクラスは何にするかな。

剣は使いたいな・・・。

ならば、戦士から剣士か。

げ、これも四〇なっちゃうぞ。

後は・・・、魔術が六まで行けるな。

振ってみて・・・あれ、六にするのにレベルが六〇が条件で要るんでなかったっけ?

あの話は何処行った、振れちゃったぞ。

しかしさすがにここまでか、経験値。

さてさて、どうなった事やら。


名前フーヤ

職業強化術師レベル四〇

第二職業剣士レベル四〇

第三職業

種族人間男性


筋力十三・体力十二

知力十五・精神十五

敏捷十五・器用十五

魔力二〇


武技

剣三・格闘三・防御三

戦術

平地三・森林三・山岳三・水上三

探索

野外三・屋内三・盗族三

魔法

魔術六・治療三


これで、第六階位の魔術が使えるな・・・。

でも、人前では使えない。

一般的には六まで振れないはずだからな。

次は、手に入れたアイテムか。

ん?一個か?

まあ、最後の最後に戦っただけだしな。

それでも手に入ったなら、重畳ってもんだ。

何々・・・、超越者の護符?

これキーアイテムだな。

装備品じゃないぞ。

何処かで使うのかね?

おっと、インベントリから出せるな。

注視してみよう。

枷を外した者の証。

成長制限解除・・・、お前か!

お前がいたから六まで振れたのかよ!

って事は、インベントリの中でも効果は発動すると言うわけか。

じゃ、しまっとこう。

何やら恐ろしげな物を手に入れてしまったな。

でもまあ、のんびり進行な俺にはあまり関係無いかもね。

一時はどうなる事かと思ったが、結果的には良かった。

莫大な経験値も使い終わって、おかげでダブルクラスも獲得出来て・・・?

待って今何か見えた。

何で第三職業とか書いてあんの!

トリプルクラス!

本気かよ!

そんなん実装されてたか?

どうしよう、生産職取れちゃうぜ。

しかし、魔術師系統かここは・・・。

うん、生産何か取っても金無いし。

魔術師で行こう!

そんなわけで、属性考えておかないとな。

レベル二十で分岐だからな。




あまりにも名が売れ過ぎた俺は、パーティーへの誘いやら団へのお招きなどに辟易していた。

面倒になって大森林の向こう、漁村リラに逃げた。

ここは稼ぎにならないクエストが幾つかあるくらいの、人の寄り付かない村だ。

冒険者なんて一人もいやしない。

村のNPC達は明るくて素朴で、荒んだ心を癒してくれるようだった。

それに海の眺めも良い。

金も、辺りで素材を集めて村の商店に売るくらいで生活出来た。

もちろん気紛れにクエストを受けても良い。

近辺で片付けられるため、村で暮らすだけなら充分過ぎた。


「良い村じゃないですか・・・。」


誰だしょぼいだとかクソだとか言った奴らは。

許さん。




「フーヤさん、今日もありがとう!」


彼女はクエスト持ちのNPCで、名をミナさん。

短めの黒髪に黒い瞳、焼けた肌に露出多めの格好の、可愛らしいお姉さんだ。

クエスト自体は難しいものではない。

こちら側から大森林に入って、少し潜ったところの薬草を幾つか取って帰る。

反復可能で、一日一回出来るクエストだ。

それで銅貨二十枚となる。

食事付きで一泊銅貨十枚だから、これだけで充分食っていける。

だから俺はミナさんのところに通っていた。


「フーヤさん、今日もミナちゃんのところかい?

いっそ一緒になっちまいなよ!」

「いやいや、私なんてミナさんにはとてもとても・・・。」

「謙遜しちゃって!」


そんな調子でからかわれるくらいには、通ってしまっているな。

またミナさんが満更でもなさそうなのが困る。

しかし俺は、ほとぼりが冷めた頃合いには他へ行くつもりなのだ。

現地妻、なんて畜生な事はするつもりも無いしな。


そんな風に何日も過ごしていたある日、この村に冒険者が姿を現した。

何やら柄の悪そうな三人組である。

俺は姿を隠し・・・何せ盗族スキルも三まで持ってるんでね。

そしてそのまま様子を窺った。

三人は、人間の男が二人にドワーフの男が一人と言う内訳だった。

注視すればレベルが見えるが、三〇を過ぎた辺りの斧戦士、剣士、野盗だった。

野盗て・・・。

珍しい職業選ぶな。

どちらかと言えばPK達に近い職業だ。

他の冒険者から持ち物を盗んだり出来る。

その瞬間名前がオレンジに、つまり犯罪者扱いになる。

衛兵は当然捕縛に走る。

捕まれば盗んだ物は所有者に戻され、野盗本人は牢で三日を過ごす羽目になる。

ついでに罰金も支払わされ、払えなければ持ち物から一番高価なものが没収される。

幸いそこにいる彼は、まだオレンジではないのだろう。

衛兵が大人しくしている。

三人は村を品定めするように歩き、最後に酒場へと立ち寄った。

そこで一杯引っかけているようだ。

やがて日も落ち星明りの頃、三人組は動き始めた。

彼らはあろう事か、ミナの家に向かっている。

NPCに何をしようと言うのかね。

このゲーム、そんな機能無いしな・・・。

そうは言っても気になるのが人情。

こっそりと覗く。

ああ、押し入り強盗か。

ミナを押さえて家具を漁っている。

クエストのNPCだから、そこそこ持ってるのかね?

奴ら、今なら完全にオレンジだな。

オレンジや赤の相手なら、倒してしまってもこちらに変化は無いのだ。

と言うわけで、行くか。


ストレングス、モビリティ、マジック・アーマーをかけて、突入。

押さえている剣士を素早く突き、まずはミナを抱き寄せ逃がす。

剣士は・・・あれ?

当たりどころが悪かったらしく、一撃で絶命した。

心臓やっちまったか。


「手前ぇ!」


何かする前に、さらに一人を沈黙させたい。

蛇が獲物に食らい付くように、繰り出したレイピアが斧戦士のドワーフを捉える。

眉間を貫き、こちらも即死。

野盗をゆらりと見やる。

何やら戦意を喪失しているが、恩赦はやらん。

眉間を穿つと見せかけて、心臓をひと突き。

これで三人組は殲滅完了した。

・・・剣士レベル四〇って、すごいな。

動きと精度が段違いになっていた。

レイピア繰り出すのが楽しくなってしまったな。

三人組はやがて姿を消した。

今頃は神殿なりで蘇生されて、そのまま収監と言ったところか。

便利なシステムだなあ。




「大丈夫でしたか、ミナさん。」

「はい、怖かったですが・・・。

ありがとうございました、フーヤさん。」


そして抱擁される。

身長的に顔面直撃しとるんですが、何て事すんだあんた。

ああ、なかなかのものをお持ちで・・・。


「今日のところはもう大丈夫だと思いますが、念のため村を見ておきます。

ミナさんは安心して、ゆっくり休んで下さいね。」


そう言ってミナを家に入れ、俺は村の衛兵のところへ向かった。

視線を感じたが、応える気は無いのでそのまま振り向かずに去る。

と言うか、NPCだよね?

NPCなんだよね?

全然そう見えない・・・。

感触、まだ顔に残ってるんですが・・・。


衛兵は俺に礼を言って、警備の強化に努めると約束してくれた。

あいつらがまた来ないとも限らないしな。

まだしばらく滞在していた方が良いのかね。

厄介な連中だな、本当・・・。

ところでこのゲーム、特に対人で即死攻撃なんてあったかな?

単純にオーバーキルだった?

わからんなあ。


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