素材探し
メナステラより南東へ走って一時間。
大森林程ではないが、大きな森があった。
山脈を越えた時に見えた、湖のある森だと思う。
その湖の周辺に、トリアスの鹿が現れるのだそうだ。
「これが、話していた不正に見える効果か。
納得した・・・。」
こちらでパーティーを組む関係で、リア達とは一旦別れた。
もちろん強化はかけ直した。
それからダーレスと組んで、強化を施したのだ。
体感三倍だとか話している。
某龍玉Zみたいだな。
三倍ぇだぁ!なんつって。
いや、ますますやばいな・・・。
おいそれと使えないレベルになってきたぜ。
さて、森に着いたところで打刀を腰帯に差す。
以前使っていた青の帯だ。
ぼろぼろになっちったからね、変えたさ。
俺が前に立ち、ダーレスが後ろから続く。
職人系統は生産職であって、戦闘には不向きだからね。
ただ、第五階位に収まる程度とは言え強化はしたから、充分に戦えるはず。
でないと、俺の攻撃力がかなり落ちてるから面倒な事になるな。
増刃は見た目でやばいから使えてないし、聖化も今は封印だ。
今の俺は、強化術師兼剣士だからね。
森の中は、さすがに大森林と比べると視界は通るが、それでも見渡し難い程度に木が多い。
探索スキルの野外があるおかげで魔物や動物などの位置はわかるから、特に問題は無いが。
ただ、さすがにその反応が何者であるのかまではわからない。
今、前方から何かの群れが迫っているのだが、それが魔物なのか動物なのか。
また仮に魔物だとして、ゴブリンなのかコボルドなのかなど、そういった事はまるで把握出来ない。
まあ、それは仕方ないか。
位置や数、動きがわかるだけでもありがたい。
現れたのは、リザードマンの戦士達だった。
二体が同時に飛びかかって来たが、抜刀からの横一閃で斬り裂いた。
奥義、剣閃。
斬撃を二体に集中し、ひと振りしただけにも関わらず二体はばらばらになった。
おおう、やっぱりやばい奴じゃんこれ!
「ぬお、凄まじいじゃないか。
実に、刀が映えるな!」
確かに今のは気持ち良かった・・・。
気力ごっそり持ってかれたけどね。
まさに奥義だわ、何発もは使えない。
後に続く四体をそれぞれ二体ずつ相手にする。
ウィンド・ウェポンがかかってるせいか、ダーレスの振り下ろした大鎚がリザードマンを文字通りに潰している。
「酷い絵面ですね!」
「それが良いのだ!」
二人の笑い声が森に響く。
こちらも回避からの首打ちで一体を仕留め、もう一体は蹴りで転倒させたところに眉間への突きで終わらせた。
ほぼ同時にダーレスがもう一体を叩き潰しており、リザードマン六体は瞬く間に葬られた。
「レベル四〇手前の敵では、最早かすり傷にもならんな。
このマジック・アーマーも恐ろしいものだ。」
「色々と戦っている内に、こんな事になってしまいましてね。」
「詳しく聞き出そうとは思わんがな。
その内聞けたら嬉しい。」
簡単に話せる事情じゃないからね。
こういう言葉は本当にありがたいよ。
リザードマンからは皮などの素材が手に入った。
そう言えばここしばらく、手に入った素材を全く確認してないな。
金に困らないから放置してたぜ。
後で見てみようかな。
メナステラの南側は、どうやらレベル四〇までの魔物が主らしい。
俺はまだ四〇だから良いものの、ダーレスには不向きだ。
今回は目的が鹿だから良いんだけども。
リザードマンが三七から三九、太さが三〇センチもある大蛇は三六。
人程もある大きさの猿が三八と、この森には三十代後半の魔物が巣食っているようだ。
蛇からは皮が、猿からは毛と牙、爪が手に入る。
牙と爪はダーレスの方で使えるらしく、皮や毛と交換した。
「鹿についても同じで構わんか?」
「角はそちらに、皮と毛はこちらと言う事で?
私は構いませんが。」
「助かる!
角が希少で手に入らなくてな。
露店でも見つからんのだ。」
それは難儀だ。
こっちには使うあても無い。
その分毛と皮が手に入るなら、むしろありがたいな。
ユーニやラミアの防具も作れるかもしれん。
そうして狩りを続ける内に、俺達は湖に到着した。
「いるぞ。
あの白い奴だ。」
湖の水面に立つ、真っ白な鹿が見えた。
長い体毛はさらさらと風になびき、日に照らされる白が艶々と美しい。
角は青白い、不思議な光を宿しており、燐光を残すように輝きが尾を引いた。
「綺麗ですね・・・。」
「ふむ。
まあ、そうだな。
奴はあれで好戦的だ。
敵意は任せて良いのだよな?
俺はいつでも行けるぞ。」
「了解です。
行きましょう。」
俺はチェイサーを三つ呼んで、飛び出すと同時にけしかける。
チェイサーに集中攻撃されたトリアスの鹿は、青白い光を赤に変えて、こちらへ勢いよく突進して来た。
それを左にかわし、すり抜け様に斬る。
続いて、ダーレスがドワーフらしからぬ速度で駆け込み、俺へ再び突進しようとする白鹿へと大鎚を叩き付けた。
その強烈な打撃に体勢を崩し、突進は上手い具合にキャンセルされた。
「フーヤ、畳みかけるぞ!」
「はい!」
俺達は好機を見た。
まず俺が大上段からの振り下ろしと斬り上げの剣閃二段を放つ。
風属性の追加された斬撃が二二も瞬間的に打ち込まれ、白鹿の生命力は一気に危険域へ。
大きく生まれた隙に乗じ、ダーレスが全霊を込めて大鎚で叩き潰した。
さらにもう一度叩き付ける。
その一撃で生命力が無くなり、トリアスの鹿は息絶えた。
「NM相当とは言え、俺達にかかればこんなもんだな。」
「首尾良く終わりましたね。」
二人は早速インベントリを確認した。
「角は・・・おお、二本ありますよ!」
「本当か!
こっちには一本も無い。
毛が五に皮が四だな。
フーヤには割の合わないトレードになってしまうが、本当に良いのか?」
「構いませんよ。
また何か頼むと思いますし。」
「感謝する!」
交換すると、毛が八に皮が九となった。
これで足りると良いな。
「俺はこのままヒルトに戻るが、フーヤはどうするんだ?」
「私はメルベンです。
山の向こうですが、翼には関係がありませんね。」
「はは、そうだな。
ではまた会おう。
いつでも声をかけてくれ。」
「はい。
ダーレスさんも、いつでもどうぞ。」
そうしてパーティーは解散となり、ダーレスはヒルトへ飛んで行った。
俺もゲートを開き、メルベンの城塞へと帰る。
赤の染料を買ったら、後は数が足りる事を祈るばかりだ。
合流すると、リア達は遅い昼食としていた。
メルベンの酒場で、レンブルからの魚介を中心とした料理に舌鼓を打っている。
「おかえりなさい、お師匠様。」
「帰りました。
美味しそうですね。
ご一緒しても?」
「もちろんだ、フーヤ。
用事は無事に終わったのか?」
「終わっていると良いのですが。
アナト、数の確認をお願いします。」
「おう。
どれどれ・・・、おいおい。
トリアスの鹿を狩ってたのかよ。
これなら充分過ぎるぜ。
色々作れるが、どうする?」
「そんなにですか。
では、皆さん四人分の防具ではどうです?」
アナトが考えを巡らし始めた。
その間に料理を摘まませてもらって、少し注文を加えて腹ごしらえしておく。
この店の料理も美味しいんだよな。
レンブルからの魚介類も良いし、その先のホラン周辺からも仕入れがあるらしく、牛肉も美味い。
「ポンチョ二枚作ってあたしとリアの分。
革のスーツをラミアに作って、革の鎧をユーニに作るか。
手袋を四セット作って四人分。
それでどうよ?」
「良いですね!
それで行きましょうか!」
「あんたの分無いけど、良いのそれで?」
「はあ、構いませんけど?」
「そう言うとは思ってたけどな。
よし、後は任せとけ。
色は、どうする?
基本は素材の色が良いし白で行くけどな。」
アナトはリアとラミアを見た。
本人の希望を聞くようだ。
「私はやはり、赤が良いです。
炎術師ですしね。」
「こちらは黒で頼む。」
「オッケー。
ユーニは青だよな?」
「そうですね。
あの子は昔から青が好きでしたし。」
「あたしは緑にして、と。
それじゃフーヤ、染料よろしく!」
「まあ、良いですがね。」
俺は染料を買いに走り、先に買っていた赤に加えて黒、青、緑を購入した。
そこでアナトから工房に来るよう言われて、そちらへと進路を変更した。
「お疲れ様です、お師匠様。
酒場の方に頼んで、持って来れる物をいただいて来ました。」
「ありがとうございます!
まだまだ食べ足りてなかったんですよ。
いただきますね。」
アナトに染料を渡して、早速食事を再開した。
アナトは手早く作業を進めていく。
毛を糸に加工し、ひたすら編む。
皮もなめし、形を整えて、繋ぎ合わせる。
それらの作業が、現実より遥かに早い時間で終わった。
「さあ、出来たぜ!」
リアには赤が目立ち過ぎない程度に縁を装飾したポンチョと、同じく赤い装飾のある手袋が渡された。
早速かぶって頭を出し、手袋も着けている。
「素敵ですね!
ありがとうございます、お師匠様、アナト!」
「英知のローブとは合わないと思うけど、そこまで酷くもないし、冒険者なら気にしない。
まあ、大丈夫だろ。」
まあ、そうなんだけどね。
この色にしたのは理由が無くはないのよ。
リアのレベル、もうすぐ五〇だしね・・・。
ポンチョは毛の質がそうさせているのか、あまり毛織物と言う見た目にはならなかった。
艶が強く、目も細かく出来ており、触り心地がつるつると言う表現に近い。
続いて、ゲートの向こうからラミアが戻った。
部屋で着替えていたのだ。
白の革に黒の染料で染めた革を縁に使ったスーツは、黒中心の服ばかり纏っていたラミアをまた違った印象に見せる。
三人に見つめられて気恥ずかしくなったのか、ほんのり頬を染めた様子が、仕草と相まって色気を発している。
「フーヤ、今やばいだろ。」
「ああ、やばい・・・。」
「素になってるぞ。」
咳払いを一つ。
「よく、似合ってますよ。」
「ありがとう、フーヤ。」
後ろでくすくす笑ってんのは誰だ?
まあ、取りに行った甲斐はあったかな。
喜んでもらえて良かった。
後はユーニだな。
明日には来るはずだし、すぐ渡せる。
ダーレスにも会えたし、素材探しに行って本当良かったわ。




