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ボス戦を観戦

城下街ヒルトを東門から出て、再びトルドナ古戦場へ。

広い、不毛な戦場跡には、数多くの冒険者達がいた。

ざっと見渡しただけでも十パーティー程が集まっている。

何かイベントでもあるのだろうか。

これは適当に狩りしつつ、成り行きを見守ったら楽しいものが見られるかもしれない。


魔物の巣食うフィールドには、希にボスが出現する事がある。

ボスは大抵の場合、適正レベルより遥かに強く、この魔物は高レベルの冒険者に向けたコンテンツとなっている。

低いレベルの狩場に設定されている理由として考えられるのは、突然現れた偉容を雰囲気と共に楽しんでもらう、討伐に来た冒険者達の姿を見て目標としてもらう、低レベルの冒険者と高レベルの冒険者間での交流、などだろうか、自信無し。

とにかく、見物するチャンスだった。

わくわくとした、浮き立つ気持ちを抑えながら、傍らに狩りをしつつ待つ。


三十分程経過しただろうか。

いよいよその時が来た。

姿を現したのは、巨大な骸骨の王。

大きく長い杖を持ち、頭蓋の上には冠。

豪奢なローブを纏い、全体に黒い妖気を放っていた。

見上げるような巨体に、冒険者達のどよめきと溜め息が聞こえた。

迂闊な場所で見ていると迷惑になるので、人の集まっている辺りに移動し、ちょこんと座って行儀良く観戦させていただく。


ボスの名は、骸王ローグリアス。

NMを含め、色々設定がしっかり作り込まれていたはずだが、俺はそこまで追ってないので詳しくは知らない。

このルドリア地方の昔話に関わるキャラクターだったと記憶している。

しかしこれを生で見られるのは、ちょっと得した気持ちになるな。

目を輝かせて、戦いが始まる時を今か今かと待ち続けた。




強化術師達による補助が終わり、いよいよ戦いの火蓋が切って落とされた。

初撃を打つのは、盾役を集めた通称タンク部隊。

一人ずつ交代で敵意を固定し、他の冒険者達に攻撃が行かないようその矛先を誘導する役割を持っている。

生命力や気力の減少に伴って、部隊内で入れ替わっていくのだろう。


彼らの生命線を握るのは、回復職を集めた通称ヒーラー部隊。

生命力が何処まで減ったら回復、などあらかじめ決めておき、敵意を引き過ぎない程度にタンク達の命を繋ぐ。

治療術は敵意を稼ぎ易い仕様になっており、バランスを読み誤ると、たちまちパーティーが決壊してしまう。

加減が難しい、しかし引く手数多の人気職だ。


ボスの側面や背後から攻撃を繰り返すのは攻撃担当、通称アタッカー部隊だ。

時折呼び名が変わる事もあるが、役割にそう変化は無い。

何せ力の限り叩き込むだけなのだから。

もっとも、過ぎれば敵意を引いてしまい、やはり全滅の危機を招きかねない。

ただ脳筋な人物が極一部いて、彼らがバランスを崩してしまう事が希にある。

ついでにプレイヤー・キリング、略称PKを行う者達もこの枠にいる。

プレイヤー・キャラクターを一方的に殺害する事を目的とする行動で、当初はプロレスの悪役的な存在を自ら演じていたのだと言う。

それがいつしか歪んでしまい、例えば遠隔・高火力の攻撃手段をもって数発で沈めるなどで、迷惑行為に終始する存在となってしまった。

彼らはPKerもしくは、単にPKと呼ばれる。

BLOでは、PKを行った者は名前の色が赤に変わる。

この状態では衛兵に追われる事となり、やがて衛兵の手で一方的に殺される。

その後は牢に収監され、ゲーム接続時間で一週間の後に持ち物全てを失って解放されると言う、かなり重い罰が課される。

ちなみにこの際に回収されたアイテムは、ゲーム内の何処かに集積されている、などと言う都市伝説がある。


最後に強化部隊がある。

通称バッファーと呼ばれ、パーティーの強化支援役で、戦闘中は攻撃や回復にと足りない部分を臨機応変に補う。

個人の性能としてはバランス型で、いわゆる器用貧乏になりがちだ。

強化魔術の性能を上げるために魔力を上げる俺のようなプレイヤーもいるが、その分の経験値をダブルクラスで獲得しているもう一方へ注いだ方が建設的だと言われている。

今戦闘に参加している彼らも、恐らくはその型だろう。

現にボスの後方から攻撃魔法を飛ばしている。


ローグリアスはと言えば、王の名に相応しく、アンデッドの配下を召喚して、付近の冒険者を襲わせている。

ローグリアス自身の攻撃を受け止めている者とは別の盾役が配下を集めて、アタッカー部隊の内の一つが素早く処理した。

作戦はしっかりと立てて来たようだ。

ローグリアスの杖が黒い輝きを集めて放ち、タンク部隊を襲う。

範囲攻撃なのだろう。

全員の生命力が三割程ごっそり削れている。

しかしこれもヒーラー部隊が適切に対処した。

連携と言うか、対策がしっかりし過ぎているように見える。


「さすがに蒼炎十字軍は違うね。」


近くにいる誰かが言った。

それで得心がいった。

このゲームでも、冒険者間でグループを作る事が出来る。

システムとしては、団と呼ばれている。

団は団長となった設立者の意向によって動く。

蒼炎十字軍と言う団は、攻略に重きを置いた冒険者達なのだろう。

日夜研究に励み、ボスや対人戦などを極めていく。

そういった事に喜びを見出だす冒険者達が集まったのだ。

それは強いはずだ。

ただし、俺とは対極にいる。

シンプルにすごいとは思うが、そこに加わりたいとは全く思わない。

ゆっくりのんびりが、俺の信条なのだ。




ローグリアスの生命力が二割を切った。

聞いたところによれば、ここからは攻撃が激化するそうだ。

観客達も、もちろん俺も、力んで固唾を飲んでいる。

これまでに繰り出していた召喚、波動、杖による殴打、薙払いなどの周期が早くなり、さらに新たな攻撃手段が追加された。

それによって、近接アタッカー達が突然全滅した。

後方でも何人か倒れている者がいる。

観客はざわつく。

ローグリアスは最近の更新により追加されたボスで、まだ討伐された事が無い。

それ故に、研究不足なところがあったのだ。

蒼炎十字軍のメンバーも浮足立っている。

団長なのだろうか、タンクの一人が指示を飛ばしているが、混乱の最中で上手く調整出来ていない様子だ。

何より、タンク部隊も一人また一人と倒れ伏している。

原因がまだ解明出来ていないようだ。

そしてまた一人タンクが倒れたところで、遠隔アタッカー部隊に敵意がそれた。

大股でゆっくりな動作だが一歩が広いためにあっという間に到達する。

そして波動を放った。

次々アタッカー部隊が殲滅され、続いて狙われたのはヒーラー部隊だった。

呆気なく全滅する。

そうして残されたのは、団長一人。

一番始めに敵意を引き付け、その後気力の回復に努めていた団長。

生命力、気力共に充分だが、タンク一人で勝てる道理は無かった。

強化魔術も解けている。


「誰か、強化魔術を頼めないか!」


強化術師の魔術なら敵意は生まれない。

それは戦いそのものに参加していない事になるため、戦闘中の冒険者の邪魔にならないと言う副次的な効果があった。

俺は立ち上がり、強化魔術を使う。

これだけ頑張ってあと少しのところまで来たのだ。

ここで倒せないなんて、あんまりだ。


「モビリティ!

マジック・アーマー!

マジック・サークル!

フレイム・ウェポン!」


武器に炎属性を与える第三階位の強化魔術もおまけして、四点セットでかけてやった。

これで駄目なら、さすがに諦めてもらう外無い。

今回、ストレングスは外した。

近接アタッカー達が倒れた時、後方でも倒れた者がいた。

彼らには共通点があったのだ。

得物が、弓である事。

そこから俺は、ローグリアスに追加された行動を物理反射だと考えた。


「感謝する!

この恩は必ず!」


団長は炎を纏った剣を振りかざす。

炎に気力が闘気となって注ぎ込まれ、より大きくそして強く燃え上がる。

高温に達した炎は蒼となり、それは団の名を表すようだった。

即ち。


「蒼炎よ、焼き尽くせ!」


最後の一騎討ちが始まった。




ローグリアスの素早く苛烈な攻撃を盾で受け、そらしながら蒼炎の剣で斬り裂く。

互いに削り合うような過酷な一騎討ち。

誰も声を発さず、ただ戦いの音だけが響いていた。

だがそこに、水を差す者があった。

それはキャラクターの詠唱の声だったのだろう。

画面越しでは他者の詠唱は聞こえない。

だが画面越しでない俺には聞こえた。

聞き慣れたその旋律は、ストレングス。


「止めろ!

ストレングスをかけるな!」


俺の声は遅かった。

にやりと笑うその顔は、躊躇無く団長にストレングスをもたらす。

観客達はその男を見た。

そして、ローグリアスへ与えた物理ダメージの反射を受けて、団長は崩れ落ちた。

蒼炎十字軍は、一人の男の卑劣な手口の前に敗れ去った。

しかし、それだけでは終わらなかった。

ローグリアスの目が、こちらを向いたのだ。

俺を真っ直ぐに捉えていた。


「モビリティ!

マジック・アーマー!

マジック・サークル!

フレイム・ウェポン!」

団長にかけたものと同じ強化を行う。

そして俺は・・・、ストレングスの男に隠れた。


「お前、離れろ!」


ローグリアスの殴打に合わせて、その場を逃れる。

男は悲鳴と共に叩き潰された。

観客達は、蜘蛛の子が散るように離れて行く。

俺は一人、ローグリアスの前に対峙する事となった。




動きは見ていた。

波動も読める。

ヒーリングによる治療も自分で出来るが、一撃でも受ければ倒れる事になるのだろうから、過信は出来ない。

レイピアを炎で包んだが、返って来る物理ダメージがどの程度か読めない。

しかし倒さなければ。

俺は、他の冒険者達とは違う。

俺はここにいるのだ。

死ぬ事が、そのまま終わりになる可能性を否定出来ない。


「ファイア・ボール!」


第二階位の火炎魔術を投げる。

同時に走り込んでレイピアで突いた。


「ぐっ・・・!」


反射ダメージは、思ったよりも痛くはない。

俺のレイピアでは、その程度のダメージしか与えていないのだ。

ファイア・ウェポンの効果を考えれば、攻撃魔術に裂くよりはレイピアとヒーリングの方が効率は良さそうだ。

だが、出し惜しみはしない。

短期決戦でなければ勝ち目は無い。


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[一言] 世界設定がよく分からん。
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